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柘浦からのメールが一斉に届いた——「今日、夏祭りやからみんなで行こか!」
その言葉に誘われて、仲間たちは指定された集まりの場所へと足を運んだ。
🌙 夜の夏祭り会場近く、公園の入り口——
桜遥は半袖半ズボンのラフなスタイルで涼しげに立っていた。杉下は半袖シャツの上にカーディガンを羽織り、長ズボンの落ち着いた装い。楡井は華やかな浴衣をまとい、「祭りってやっぱ浴衣っすよね!」と嬉しそうに言う。
蘇芳はどこか優雅な雰囲気を醸しながら、チャイナ風浴衣を着こなしていた。「夏祭りか…悪くないな。」と低く呟く。
柘浦は袖なしインナーシャツに半ズボンで、まるで夏を満喫する気満々のスタイル。「はよ行こや!屋台の飯、俺が一番に食うからな!」と笑いながら先陣を切る。
桐生も浴衣姿で、腕を組みながら涼しい夜風を感じている。「さて、どんな祭りか楽しみだな。」しかし、肝心の桜伊織がまだ来ていない。楡井は腕時計をちらっと見て、「伊織さん、遅くないっすか?」と首をかしげる。
その時——。
遠くから軽い足音が響く。夏祭りの光が揺らめく中、桜伊織が姿を現した。
鮮やかな黄色の浴衣に、紫のアヤメの花模様が映える。帯は、赤から白へとだんだんと淡くなる美しいグラデーション。
髪はいつもとは違い、下めのお団子ヘアにまとめられている。その髪には、いつもの鞠簪と、夏らしい朝顔の簪が優雅に揺れていた。
その姿を見た瞬間——。楡井秋彦は思わず「……伊織さん、いつもと違うっすね!」と言ったり桐生三輝も腕を組みながら「ほぉ…そういうのも似合うんだね。」と感心するように呟く。蘇芳隼人も、一瞬視線を奪われたように目を細め、「……意外だね。悪くないよ。」と言う。柘浦は「あかん、しばらく見惚れてたわ!」と素直に驚き、笑いながら言った。
伊織はそんな反応に気づき、軽く微笑んだ。祭りの賑わいの中、伊織の姿はまるで夏の夜に咲く花のようだった——。
祭りの賑わいの中、皆は屋台の並ぶ道へと歩みを進める。
🌟 夜の屋台通り 提灯の光が揺れ、香ばしい焼きそばやたこ焼きの匂いが漂う。金魚すくい、射的、輪投げ…どこを見ても楽しそうな人々の笑い声が響いている。
「どこから行く?」桜遥が照れくさそうだが楽しげに言う。「まずは飯やろ!」柘浦はすでに屋台のたこ焼きをじっと見つめている。「俺は射的やりたいっす!」楡井秋彦が目を輝かせる。
「落ち着きな…祭りはじっくり楽しむものだよ。」蘇芳は涼しい顔で歩きながら、どこか興味深げに屋台を眺める。
桐生は浴衣の袖を軽く押さえながら、「いっちゃんは何を食べるの?」と尋ねる。伊織はふっと笑い、「かき氷でも食べようかしら。」と言いながら、屋台の光に照らされる。祭りの通りには、色とりどりの提灯が揺れ、焼きそばやたこ焼きの香ばしい匂いが立ち込める。
「おい、たこ焼き買ったぞ!」柘浦が嬉しそうに箱を広げる。「ソース多めや!誰か食うか?」桜遥は興味なさそうに「俺はかき氷食うから遠慮しとくわ。」と軽く肩をすくめる。
その瞬間——。
伊織は桜遥の肩をポン、と叩く。
「お兄ちゃん。」
遥がそちらを向くと、伊織はかき氷をすくったスプーンを差し出し、優しく微笑む。
「はい。あーん」
そのあまりにも自然な仕草に、周囲は一瞬静かになる。
桜遥は目を見開いたが、すぐに顔をそむけて「あ…いらねーし!」と恥ずかしそうに言い、そっぽを向いてしまった。
「ふふっ、照れちゃって。」伊織はくすっと笑いながらスプーンを自分の口へ運ぶ。
楡井秋彦は「伊織さんのそういう反応、珍しいっすね…!」と驚き、桐生は「……いっちゃんなかなかやるね。」と感心したように呟く。蘇芳は腕を組みながら、「……面白いものが見れたよ桜君。」と静かに微笑む。
祭りの賑やかな空気の中、ほのぼのとした兄妹のやり取りが、ほんの一瞬、みんなを和ませていた——。
祭りの賑わいの中、金魚すくいや射的に夢中になっていたみんなだったが、気づけば——。
「……あれ?伊織さん?」
楡井秋彦は、周りを見渡して驚く。気づけば、祭りの人混みの中で伊織と二人きりになっていた。
「いつの間にみんなとはぐれたっすかね…!」楡井は慌ててスマホを取り出そうとするが、祭りの喧騒でなかなか電波も安定しない。
伊織は浴衣の裾を軽く持ち上げながら、「まさか迷子になるなんてね…」と苦笑いする。
「やばいっす…!どこにいるんすかね、みんな!」
周囲は屋台の明かりと人々の笑い声で溢れている。すぐに合流できそうで、意外と難しい。
「落ち着いて。」伊織は静かに楡井の腕を軽く引き、ゆっくりと歩き始める。「どうせなら、祭りの景色を楽しみながら探そう?」
その言葉に楡井は一瞬戸惑うが、ふっと笑って「そうっすね!」と頷く。
祭りの喧騒の中、二人だけの時間がゆっくりと流れ始めた。祭りの賑わいから少し離れた場所。夜風がそっと浴衣の裾を揺らし、遠くの屋台の喧騒がかすかに聞こえる。
楡井秋彦は、鼓動が少し速くなっているのを感じながら、意を決して口を開いた。
「伊織さん……俺、ずっと思ってたんす。」
伊織は立ち止まり、静かに彼を見つめる。
「俺、伊織さんのことが好きっす。」
その言葉は、祭りの喧騒とは対照的に、静かに響いた。
伊織は驚いたように目を瞬かせた後、少しだけ視線を落とし、ゆっくりと息を吐く。
「……ごめんね。」
楡井の表情がわずかに揺れる。
「私は……好きで、忘れられない人がいるの。」
彼女の言葉はまっすぐで、曖昧さのないものだった。
楡井は一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに小さく笑う。
「そっか……そうっすよね。」
そんな二人の間に、ふいに賑やかな足音が近づいてくる。
「おーい!どこ行ってたんだよ!」
祭りの光の中、仲間たちが集まってくる。
楡井は自分の胸の奥を少し押さえながら、何事もなかったかのように「いや、ちょっと道に迷ってたっす!」と笑って見せた。
そして伊織も、静かに微笑む。
夏の夜は、その瞬間を包み込み、またいつもの祭りの喧騒へと戻っていった——。
つづく