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ぐはっ
[彼女目線]
文化祭の人混みの中、
りんちゃんとはぐれちゃって、屋台のあたりを歩いていた時だった。
「ねぇねぇ、お姉さん可愛いね。今ひとり?」
知らない男子が急に前に立ちはだかった。
「ちょっと一緒に回らない?俺ら他校だからよくわかんなくてさ」
軽いノリで距離を詰めてくる。
(……やだ。なんでこんな時に限ってりんちゃんいないの)
「すみません、人待ってて──」
「いいじゃん、ちょっとだけ! 写真とか──」
ぐっと腕を掴まれた瞬間。
「……なにしてんの?」
低い声が落ちた。
ゆっくり振り返ると、
角名倫太郎がそこにいた。
いつもの無気力そうな目。
でもその奥だけが、すごく冷えてる。
「俺の彼女、なんだけど」
淡々とした声。
怒気ゼロ。
でも、聞いたことないほど冷たい。
男子が苦笑して、
「いや、知らなくてさ。ちょっと話しかけただけ──」
「うん。で、なんで腕掴んでんの?」
角名が一歩近づく。
手にスマホを持ったまま、
まるで“この瞬間さえデータとして保存できる”みたいに、
男の手元を一瞬だけ撮った。
「……証拠ね」
男子が一気に顔色を変える。
「は?なんで撮って──」
「彼女、嫌がってたし。
面倒なことになるの嫌でしょ?
今のうちに離れときなよ」
相手の逃げ道を塞ぐでもなく、
ただ冷静に現実だけ突きつける。
男子は舌打ちしながら去っていった。
りんちゃんはこちらを向き、
いつもの半眼でじーっと見つめてくる。
「……大丈夫?」
「うん……ありがとう」
言った瞬間、
角名は私の手をぎゅっと握った。
無言で指を絡めてきて、
ほんの少しだけ顔を寄せる。
「……はぁ……
ちょっと離れただけでこれか。
油断できないね、ほんと」
「ごめん……」
「んー……謝らなくていいよ。
でも……」
私の頬に手を添えてくる。
「……俺から離れないでね、🌸ちゃん」
淡々としてるのに、
言葉が甘すぎて胸がきゅっとなる。