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ベッドの端で震えるわたしに伸ばされる聖壱さんの指先。それが頬に触れてビクンと身体を竦める。
私はいつもはこんな気の小さな人間なわけじゃないの。ただ今までずっと異性とのこんな触れ合いをしたことが無くて戸惑っているだけ、それだけなのよ!
「もう逃げ場はなくなったぜ。どうする、香津美?」
楽しそうな聖壱さんにイラつくわ。私よりも九つも年上の彼は、きっと女性の扱いも慣れたものだろうし。
「これ以上私に触れたら、絶対に許さな…いん……だから……!」
緊張と男性に追い詰められるという恐怖で涙が出そうになるが、そんな事は私のプライドが許さない。
「分かった、香津美にはまず俺になれてもらう必要がありそうだ。少なくとも後五年はあるからな、じっくり攻めることにしてやるよ」
「迷惑だわ、他の女を探しなさいよ……」
ありがた迷惑でしかないわ。愛だの恋だのが無くていいからあなたとの結婚を受けたのに。こんなの詐欺じゃないの?
「嫌だね、俺は香津美が良い。人形みたいな女はごめんだと思ってたが、俺は本気で香津美のその性格に惚れたんでね」
「貴方、女の趣味が悪いんじゃない! 大人しくて何でも言うこと聞いてくれる女の子の方が、可愛らしいに決まってるじゃない。私はキャンキャン煩いだけの女なのよ?」
自分に欠点はちゃんと分かってる、意地悪な性格と出しゃばりな所、他にも色々あるのよ。
なのに聖壱さんは――――
「香津美のその偉そうで我が儘な物言いも可愛いと思ってる。子供のことから犬を飼っているから、少しくらい煩いのも気にならないしな」
確かにキャンキャン煩いと言ったけれで私は犬じゃないわよ! なんでさっきからそんなに愛おしいものを見るような目つきで私を見てくるの?
びくびくしながらも聖壱さんのことを上目遣いで睨む。
「そういう顔、俺をその気にさせてるだけだって分からないのか? 香津美のことだから計算してやってるわけじゃないだろう?」
「計算……?」
計算ならば私は得意な方だが、彼の言っている意味は違うんでしょうし。何を計算しているというのかしら? 不思議に思って聖壱さんを見ると、やれやれ、と言わんばかりに溜息をつかれた。
「何よそれ、ちょっと失礼じゃない?」
「失礼なのは香津美の方だ。その気も無い癖に誘うような真似ばかりして。これだから……」
私は何も誘うような真似はしていないわよ? 一度も経験がないのにそんなこと出来るはずないじゃない。
「変な事言わないで! 私はまだ誰とも……!」
失言、聖壱さんの言葉にムカついて、なんてことを言ってしまったのか。こんなことバレたらきっと馬鹿にされるに違いないのに。
「香津美、経験ないのか……セックスの?」
仕方なく小さく頷く。もしかしたら経験が無いと知れば面倒だと思って諦めてくれるかもと思ったから。
「じゃあキスは? キスとか………それももしかして、まだだったり?」
「それであなたに何か迷惑かけました!?」
思わず大きな声が出てしまう。聞かれている私は今どれだけ恥ずかしいか分かりますか?
聖壱さんはしばらく何か考えていた様子だったけれど、大きな手のひらで私の頭を撫で始めた。
「ちょっと、勝手に頭撫でたりするの止めてもらえない? 私は子供じゃないのよ」
「んー、アンタ本当に可愛いな。これから香津美を俺色に染めていけると思うと楽しみだな」
私を見てニヤリと口角を上げた聖壱さん。少しその笑みに色気があって……その顔を見ると身体がゾクゾクしてくるのよ。
「変態みたいな事言わないで! 私は遠慮させてもらいたいんですけど!」
怒鳴っても聖壱さんは面白そうに笑っているだけで……なんなのよ、初めて会った時はニコリともしなかったくせに。
「そんな事より、もう寝るぞ? 明日はテナントの方に買い物に行かなきゃならないからな。香津美も楽しみにしてろ」
聖壱さんに奥の方で眠るように言われて横になると、シーツに伸ばした手に彼の大きくて筋張った手のひらが重なる。
「これくらいは良いだろう? 他はちゃんと我慢してるんだから」
我慢するなら全部我慢して欲しい、聖壱さんにはなんて事の無いことかもしれないけれど、私にはそうではないのだから。
結局、この夜は彼から伝わってくる体温が気になり、上手く眠る事が出来なかった。