テラーノベル
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春の匂いは、毎年少しだけ苦手だ。
新しい教室。
新しいクラス。
新しい人間関係。
窓から吹き込む暖かい風とは裏腹に、胸の中だけはどうにも落ち着かない。
高校二年。
また一年が始まる。
「……」
教室を見渡す。
すでに何人かは知り合い同士で集まり、楽しそうに話していた。
去年同じクラスだった人も何人かいるけれど、特別仲が良いわけではない。
俺はというと、適当に空いている席へ荷物を置いて窓の外を眺める。
桜はほとんど散ってしまっていて、校庭の隅だけが淡い桃色に染まっていた。
ぼーっと眺めていると、
「……あ。」
小さく誰かの声が聞こえた。
振り返る。
そこには、少し明るい藍色の髪をした男子が立っていた。
席表と俺を交互に見比べて、
「隣だ。」
嬉しそうに笑う。
「よろしくね、きょーさん。」
「……え?」
思わず聞き返す。
「なに?」
「いや……なんで。」
「ん?」
「俺のこと。」
「あ、」
その男子は一瞬だけ目を丸くした。
「あー……。」
頭を掻きながら笑う。
「上履き。」
そう言って俺の足元を指差す。
「あ。」
確かに、上履きには名前が付いている。
「……そういうことか。」
「うん。」
にこっと笑う。
なんとなく、その笑顔が眩しくて、明るそうな人だな、と思った。
「俺、らっだぁ。よろしく!」
「あ、⋯よろしゅう。」
差し出された手を、少し遅れて握る。
温かい。
「よかった。」
「?」
「隣が怖い人じゃなくて。」
「……そんな怖いか?」
「最初ちょっとだけね。」
「あぁ……。」
言われ慣れている。
目付きが悪い。
無愛想。
怖そう。
初対面では大体そんな印象を持たれる。
「でも喋ったら全然だった。」
「まだ二言くらいしか喋ってへんけど。」
「もう分かるから安心して。」
即答だった。
思わず笑ってしまう。
「なんやねんそれ。」
「勘!」
「適当やな。」
なんなんだ、この人。
初対面とは思えない距離感。
けれど、不思議と嫌ではなかった。
むしろ、少しだけ気が楽になる。
先生が教室へ入り、始業式の流れや提出物の説明が始まる。
その間、隣から何度か視線を感じた。
横を見ると、
「……」
目が合う。
らっだぁは何事もなかったかのように前を向いた。
……気のせいか。
午前中で学校は終わり。
ホームルームが終わると、一気に教室が賑やかになる。
「きょーさーん。」
「ん?」
「帰る?」
「帰るけど。」
「一緒に帰ろ。」
あまりにも自然に言うものだから、少し返事が遅れた。
「……ええんか?」
「いいの?」
逆に聞き返される。
「嫌?」
「⋯別に。」
「じゃあ決まり!」
断る理由もない。
二人で昇降口へ向かう。
途中、何人かがらっだぁへ声を掛けていた。
「またなー!」
「明日ゲームしよ!」
「いいよー!」
そのたびに笑って返事をしている。
人気者、というほどではない。
でも、人との距離を縮めるのが上手い人なんだろう。
「⋯らっだぁって、」
「ん?」
「友達多そうやな。」
「あぁ。⋯んー、」
少し考えて、
「普通じゃない?」
「そうか?」
「きょーさんも普通に増えるよ。」
「そういうもんか?」
「そういうもんでしょ。」
校門を出る。
春の風が少しだけ強く吹いた。
「そういえば。」
らっだぁが思い出したように言う。
「きょーさんって部活入ってる?」
「いや。」
「お、俺も。」
「そうなんや。」
「帰宅部仲間じゃん。」
「仲間て。」
「放課後暇だったら喋ろ。」
「……暇やけど。」
「よっしゃ。」
なんだか本当に嬉しそうだった。
そこまで喜ぶことだろうか。
「⋯俺さ、」
らっだぁは前を向いたまま笑う。
「学校って、一人でいるより二人でいた方が楽しいと思うんだよね。」
その言葉は、不思議なくらい自然だった。
打算も、気遣いも感じない。
ただ、本心なんだろうなと思えた。
「……そうかもな。」
「でしょ?」
「まだ二年生一日目やけど。」
「一日目だからだよ。」
らっだぁは笑う。
「ここから一年あるし、三年生になったらまた一年あるから。」
一年。
長いようで、きっとあっという間なんだろう。
「じゃあ、今年一年。」
らっだぁが俺を見る。
「よろしくね。」
「……おう。」
自然と笑っていた。
高校二年。
最初は少しだけ不安だった新しい教室も。
帰る頃には、少しだけ楽しみになっていた。
それが、俺とらっだぁの始まりだった。
NEXT=♡1000
またまた新連載です。
至って普通の青春恋愛小説です。
たまにはこんなのもと思いまして。
rdkyoです。
よければ読んでやってください。
#テト
らだちだよ〜
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ふゅう@不定期
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