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水視点→桃視点
「え!? いふくん付き合ってる人いるの!?」
いつも声がでかいと注意される僕の声が、ひときわ大きくなってしまったのは致し方ないと思う。
これ以上ないくらいに見開かれた目からは瞳が零れ落ちそうで、思わず深い瞬きを繰り返したほどだ。
寝耳に水、ってこういうことを言うのかな。
驚きの余りその後声を失ってしまった僕を、いふくんは気にも留めない風だ。
こちらを見つめ返し、会議用の長い机に頬杖をついている。
「そう」
あっさりと頷いて認めるものだから、思わず面食らってしまった。
…えぇ…少しは隠そうとしたり照れたりとかしないの?
「いつから!?」
「3か月くらい前かな」
「何で言ってくんないの!? そういう情報はメンバーでシェアしとくべきだと思うんだけど!」
「だから今言うたやん」
ひゃははは、なんてきれいとは言い難い笑い声を上げて、いふくんは僕を指さしてからかうように嘲る。
そんな僕らのやり取りに口を挟むまいと思ったのか、他のメンバーは皆ただ黙ってこちらを見守っていた。
仕事関係で知り合った人と付き合ってる、なんていふくんが何かの雑談のついでのようにあっさりと言うものだから、僕らはみんな一瞬聞き流しそうになった。
一番にその話題を拾ったのは僕だ。
話のネタに噛みつくように食らいつき、「どんな子なの!? 会社で部署が同じとか!? それとも営業で行った取引先の会社の受付嬢とか!?」とぐいと身を乗り出していふくんに詰め寄った。
…なんて、答えるわけないよね。
メンバー1隠し事が多くて秘密主義のいふくんが。
そんな彼が「付き合ってる人がいる」なんて、プライベートを開示してきたことがまず珍しい。
本来ならそんなこと絶対言わなくない?
さすがにリスナーにバレて炎上…みたいになったときのことを懸念したんだろうか。
いきなり知らされるよりはメンバーくらいには耳に入れておいた方がいいと思ったのかもしれない。
だからきっと、いふくんはそれ以上のことは答えないだろう。
…なんて思ったのに、目の前の見慣れたはずの青い瞳は、見たこともないくらい幸せそうに細められる。
「んー…、めっちゃかわいい子」
あっさりそう答えるものだから、一瞬僕は口を開けて呆気にとられてしまった。
「え、顔が?」
「顔もそうやけど、中身が」
そりゃそうか。
堅実、慎重のいふくんが、顔や体だけで相手を選ぶとは思えない。
「結婚とか…するの?」
するならリスナーにはバレないようにね、と念を押そうとしたけれど、いふくんが先に首をこてんと傾げてみせた。
「今のとこは考えてないかな。こんな活動しとったらまず難しいし、今はそういう場合ちゃうし」
「いふくんがよくても、相手はそう思わないかもじゃん」
「その辺は分かってくれとるから」
「はー、理解のある子だねぇ」
過去に歌い手仲間の話を何人か聞いたけれど、なかなか恋愛や結婚はうまくいかない。
よっぽどいい人を選ばないと、リスナーに向けて匂わせをしたり、活動にいい感情を持たなくなって「私と仕事とどっちが大事なの」なんて言い出したりする人もいるらしい。
だけどまぁ…いふくんなら、そういうのちゃんと見抜いて本当にいい子を選びそうではある。
「ねぇ今度会わせてよ。ライブとか呼ばないの?」
「絶対いや。お前には絶対会わせん」
「えーじゃあまろちゃん、僕にはー?」
そこでようやく、机の向こう側でしょうちゃんが「はいはい」と手を上げた。
「しょにだもだめー」なんて笑ういふくんとやり取りしていると、少し離れた席でカタンと音がした。
ないちゃんが立ち上がった音だ。
「…ごめん、俺次の打ち合わせあるから行くわ」
「あーおつかれ、ないちゃん」
振り返ってそう言うしょうちゃんに、ないちゃんは見向きもしないまま手だけひらひらと振った。
顔は伏せていて、こちらからは表情を伺い知ることはできない。
それに気づいて、「……しまった」と思った。
そんな僕の思いを見透かしたかのようなタイミングで、隣からりうちゃんが足を蹴ってくる。
皆にはバレないように、机の下で。
……ごめんね、ないちゃん。
さすがにちょっとデリカシーがなかったかも。
ビジネス不仲を装う秘密主義の相方が提示してきたプライベートな話題に、思わずテンションが上がって食いついてしまった。
ないちゃんは…きっと聞きたくなかったと思う。
だって僕は知ってる。
僕だけじゃない、りうちゃんも。
ないちゃんがずっと前からいふくんのことを好きだったっていう事実を。
知ってたはずなのに気遣って話題を変えてあげることもできなかった。
そう後悔したときには、椅子から立ち上がって部屋を飛び出していた。
「ないちゃん!」
ないちゃんは、社長室へ戻るまでの間の自販機で飲み物を買ったところだった。
かこっと缶のプルタブを開けたかと思うと、しゅわりと炭酸の弾ける音がする。
「なに? どした?」
振り返った彼は、いつも通りに愛想よく微笑を浮かべていた。
「あ、あのさ…」とどもりながら、続けるべき言葉が浮かばない。
追いかけて声をかけておいて、何を言えばいいのか考えていなかった。
「変ないむ」
眉を下げて笑って、ないちゃんは缶に口をつける。
ごくりと喉を上下させながら鳴らすそんな様子を見据えながら、僕は何とか言葉を継ごうと思考を巡らせる。
「さっきのいふくんの話なんだけどさ…」
話し始めたはいいけれど、その文字列を口にしているときですら、まだ何と続ければいいのかなんて決まっていなかった。
だけどその話の切り口だけで、ないちゃんは首を傾けてこちらを見やる。
それから「あぁ…」と小さく呟いた。
だけどその後、すぐに目が伏せられる。
「まぁ、炎上ごとにならなければうちとしては何でもいいかな」
「……それでいいの?」
「うちは別に恋愛禁止してるわけじゃないから。まろならまぁ、リスナーの神経逆撫でするようなことも反感買うようなこともないだろうし、大丈夫じゃない?」
目を逸らしたまま、言葉だけは何でもないことのように言って、ないちゃんは持っていたポケットからスマホを取り出した。
時刻を確認したらしく、一瞬画面を見やってから再び戻す。
「ミーティングの時間だ。もう行くね」
「……おつかれさま」
ぽつりとそれだけ返した僕の前で、ないちゃんは身を翻す。
そのまま白い壁と床の廊下を歩いていくけれど、その歩幅はいつもより大きいように見えた。
まるでこの場から早く立ち去りたくて、逃げるみたいに。
…大丈夫じゃないのは、ないちゃんでしょ。
そう言いたいのをこらえて、僕は代わりに遠ざかっていく背中に向けて違う言葉を投げた。
「……うそつき」
オンラインでのミーティングは思ったよりも時間がかかり、終わる頃には壁の時計はもうすぐてっぺんを越えるところだった。
PCを切り、鞄へと戻す。この後帰ったら、まず夕飯。
それから風呂に入ったら、その後はチェックしなきゃいけない案件があって…。
あ、あと今度の企画にどうかとメンバーから提出された案にも目を通さなきゃいけない。
やることは山積みだから、少しでも早く帰ろう。
そう思って社長室を出ると、別の会議室から灯りが漏れていることに気づいた。
…まだ誰か残ってたのか。
首を捻りながらその扉を開くと、そこにいたのは長身の影。
机にPCを広げているけれど、あれは確かあいつの本業の会社のものだ。
「……まだ残ってたんだ」
声をかけると、まろはそこでようやく俺に気づいたように顔を上げた。
「ないこおつかれ」なんて言ってにこりと笑う。
「もう俺帰るから、電気消すけど」
素っ気ない言い方になってしまった自覚はあった。
だけどまろはそんなことを気にした素振りもなく、「え、まじ? じゃあ俺も帰る」と慌ててPC周りを片付け始める。
「ついでにさぁ、この前ないこがおもしろいって言うとった本貸してくれへん? 取りに行くから」
「やだよ。そんなこと言ってお前、うち来たら絶対冷蔵庫漁るじゃん」
「んはは、ばれた。だっておなか空いたやーん」
PCを鞄におさめ、まろは立ち上がる。
電気を消す俺の隣に並び、共にその部屋を出た。
俺の家まではこの事務所から徒歩数分の距離だ。
勝手について来ることを決めたらしいまろは、鼻歌まじりに俺の隣を歩いて外へ出る。
……まったく、こっちの気も知らないで。
恨めしく思う代わりに、口からは素直じゃない嘲るような言葉が飛び出した。
「仕事終わった、とか、今から帰る、とか連絡しねーの?」
「……誰に?」
前を見据えたまま言った俺に、まろがこちらを凝視するのが分かる。
問い返されて、「……昼間言ってたじゃん、皆に」とぼそりと言い返した。
「あー…え、そういう連絡するもん? したことないわ」
そっか、そういうもんか、なんて言ってまろはスマホを取り出している。
そういうところ、人に言われなくてもマメそうなのにな。
「…まろがさ」
小さな声で話を改めたせいで空気が変わったのが分かったのか、まろは画面の上を滑らせていた手を止めた。
そして再び俺の方を振り返る。
「…ああいう話すると思わなかった。プライベートは絶対人に話さないと思ってたから」
こちらの言葉の真意を探ろうとしているのか、まじまじと見つめてくるのが空気で伝わってきた。
それを避けるように目線を逸らし、俺はさっきまでよりも少し早足になってしまう。
「秘密っていうんはさぁ、全部隠すよりも、ある程度のところまでは開示した方が皆それ以上は突っ込んでこんのよな」
「……?」
「たとえば俺が毎日早く帰りたがったとするやん? 何も伝えてなかったら周りの人間は『どうしたんだろう』『何があるんだろう』って気になって探りたくなるやろうけど、付き合っとる人がおるって前もって言うとくだけで、『あぁそりゃ早く帰りたいよね』って勝手に納得してくれるやん」
「……ずる」
「ずるちゃうよ。…まぁほとけだけはしつこく食い下がってきたけど」
それもある程度は想定済みだったんだろう。
けらけらと笑い飛ばしながら、まろは再び夜道を鼻歌まじりに軽い足取りで進んでいく。
徒歩数分の我が家までは、あっという間だった。
慣れた手つきで解錠して、玄関ドアを開く。
中へ入り、玄関でぱちりと照明を点けた。
ドアが閉まり、外界との空気も音も完全に遮断される。
明るくなると同時に、俺は堪えきれなくなってその玄関の壁にもたれかかった。顔を隠すようにして両手で覆う。
「……うそつき」
ぼそりとした単語は、それでもまろの耳には届いたようだった。
一瞬の間の後、「んははは」なんていつもの笑い声が降ってくる。
「嘘なんて一個もついてないやん。『付き合っとる人がおる』『仕事関係の人』『活動に理解ある』『めっちゃかわいい』…俺どれか嘘言うた?」
「……最後のは余計」
絶対顔面が真っ赤になっている自信がある。
あの時あの場で、平静を装って部屋から出られただけでも奇跡だ。
…いむが追いかけてきたことだけは計算外だったけれど。
「ないこかわいい」
……あぁくそ、そんな幸せそうに目を細めて言うなっつーの。
そう思った瞬間、顔を覆った手首を掴まれる。
そのままぐいと引かれて、露わになった唇にまろのそれが重ねられた。
「…ん…」
くぐもった声が漏れた瞬間、ズボンのポケットに入れっぱなしだったスマホがピロンと軽い音を鳴らした。
…こんな時間に誰だ?
訝し気に眉を寄せながらまろの体を押し返し、スマホを取り出す。
届いた通知画面を見やり、思わず更に色濃く顔を顰めた。
『今から帰るね♡』
そのメッセージに呆れたようにもう一度顔を上げると、目の前には自分もスマホを手にしてそれを「ふふん」と得意げに振ってみせるまろ。
「『♡』じゃねーわばかたれ」
「えーひどない? ないこが送れって言うたのに」
「俺に送れとは言ってない。かわいい彼女がいるって皆の前で宣言してたまろに、一般論をアドバイスしてやっただけだろ」
「それはないわ。俺『彼女』なんて一言も言うてないもん」
ざんねーん、ないこたんの負け―なんて楽しそうに笑うこいつは、本当に成人男性なのかと怪しんでしまう。
…まぁでも、ああいう場でも俺のことを「彼女」とは表現しないお前が、俺は好きだよ。
便宜上そう言っておいた方が絶対に話は早いし楽なのに、まろは決してその単語を他人との会話で使わない。
それが嬉しいなんて言ったら、また調子に乗って得意げに笑うんだろうか。
顰めていた顔を保てなくなって思わず笑ってしまった俺に、まろは満足そうにまたキスを一つ降らせた。
コメント
9件
え゛えーー!?!?って感じだったけど今思えばこの感じで桃さん以外有り得ないよなあ.....って思ってたら 予想通り桃さんで安心しました😭😽💞‼️ 彼女なんて一言も言ってないしそれだけで印象も変わりますよね🥹💞 今日は違う作品で楽しませていただきました⸝ ⸝ ⸝
最初はハラハラしましたがそういうことだったのですか、!! たしかに、「彼女」とは言わないのかもしれませんね…1つの言葉の違いでイメージは変わりますし…🤔 スマホを見せるシーン可愛いです…♡も付けるとこがふざけてるようなやり返しみたいでꉂ🤭︎💕 可愛いって言って照れる桃さんが可愛すぎます…🙌🏻︎💕
桃さんのこと可愛いって言ってる 青さんとそれで照れてる桃さんが可愛い!!