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#料理男子
温めてご飯を食べる。彼が用意してくれた食事は、並べただけでも美しい。
「……美味しい」
鰆の西京焼きのおいしさにほろりと涙が出そう。
髪もボサボサ、ノーメイク、パジャマ姿。
そんなだらしない姿で、朝から美味しいご飯を食べると、嬉しいけど申し訳なくて複雑な気持ちだ。
明日は土曜だし、今日こそは私が寝ないでずっと起きて彼を待っていよう。
お皿を洗いにキッチンへ向かうと、お弁当まで用意されていて、もう申し訳なさ過ぎて消えてしまいそうになった。
「あんたの弁当、めっちゃ美味しそうね」
お昼にランチに誘われ、断ると食堂へ誘導されてしまった。
小春は、肉食系女子の言葉ぴったりなカツ丼。
私は彼が作ってくれたロコモコ丼だ。玉子だって半熟で、丸い保温タイプのお弁当箱だからまだ温かくご飯も柔らかい。
これは、彼が作ったとは言わないでほしいと言われている。
男が料理云々に前に、女性に料理ができる男だと思われるのが過去の経験上どうしても嫌らしい。
で、彼は職場でお嫁さんから作ってもらったと、堂々とお弁当を広げることができると嬉しそうだった。
それって、どうなんだろう。私はウソツキみたいでいやなんだけど、でも今まで趣味を黙っていた彼のことを思うと強く言えない。
「忙しい時ぐらいは私もご飯作りたいなって思うけど」
でも趣味の料理を奪うことも、彼よりうまく作れる自信はない。
でも、私が料理を少しでも作れるようになったら、彼はソファで寝るような多忙が少しは改善されるんじゃないかな?
「なに? あんな最高な旦那をゲットしといて悩みがあんの?」
「……もっと新婚みたいに二人の時間が欲しいのかもしれない」
ここまで生活リズムが合わないとは思わなかった。
全く片付かなかった段ボールの山に納得してしまう。
「そりゃああんな若いのに開業医なんてしてるんだから、忙しいでしょ。でも新婚の蜜月はもっと一緒に居たいよねえ」
うんうん、とカツ丼を食べている小春の逞しさを見習いたい。
あんなにハムスターみたいにカツ丼を頬張っている彼女は合コンでは『お酒弱くて……』とお洒落な酎ハイを飲む。私と二人の時は、生ジョッキのくせに。
「私からアドバイスするとしたら」
「うんうん」
「もっと甘えたらいいと思う」
「えー! それは無理だって。あんな忙しい人に甘えたら、余計疲れるでしょ」
睡眠不足にさせて体を壊したら申し訳ないし、邪魔したらいけない。
「全然。あんたは甘えるのが下手というか、男性に距離を置きすぎだったから遠慮しいとおもうのよね。甘えて、寂しいって言えば、絶対にもっとあんたとの時間を作ってもらえると思うよ」
う。
確かに、彼は私に甘い。私が甘えたら喜んでくれるとは思う。
でも無理をさせるという結果には変わらない。
「まあ、古舘さんみたいにクールでちょっと近づきがたい人に甘えるのは難しいよね」
「んん? クール?」
「クールって言うかちょっと冷たいイメージ。患者さんに説明するときも義務的っていうか無機質っていうか無表情? 仕事中は全然笑わないで、ピリピリしてるって友達が言ってたわ」
「うそ、それ誰?」
私の知ってる彼は、兄の勉強を教えている時も、私に話しかけてくれる時も柔らかい笑顔を浮かべてくれる人だ。
クールって言うより、目じりから優しさがにじみ出ているというか。
「うわ。あんたの前だけデレデレってこと? ストイックで神経質そうだけど、お嫁さんには溺愛ってか。うらやましい」
本気でうらやましいと、小春の顔が険しくなる。
えー。そんな、確かにストイックだけど、喬一さんは冷たくないというか、甘すぎると思うけどな。
上手く言えない分、頬が熱くなってしまったので、お茶を飲む。
「ふーん。まああんたには優しいってことは安心よね。思う存分甘やかされてこい」
「参考にならないけど、一応、落ち着いてきたら言ってみる。ありがとう」