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#料理男子
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せめて私のお弁当を止めたら、楽になるんじゃないかなって思う。
こんな温かいままお弁当を食べれるのは幸せだけど、負担にだけはなりたくない。
「そういえば、社長が私にもっと仕事を覚えてもらうかもしれないって言ってきたわ」
「え、なんでお兄ちゃん――じゃない社長が?」
「知らないけど、結婚したあんたが産休なり寿退職した後釜が欲しいんじゃない? 私だって玉の輿寿退社するのに! 酷いよね」
確かに。兄は、無理やり小春主宰の合コンに参加させられそうになって、小春の婚活パワーに圧倒されていたから、彼女の本気は知っているはず。
私ではなく、小春に事務の仕事を頼むということは、私はお兄ちゃんの秘書に戻るのか、はたまた新しい売買の仕事の方へ回るのか。
父は『さっさと退職しろ』と孫の名前は俺がつける、とか勝手なことを言っていた。
自分が手を広げたせいで私と兄がフォローしてるのに、と軽い殺意が湧いたけど、我慢したと言うのに。
親というものは勝手なものだ。
それに事務は、忙しいけど体制さえ整ってくれたら仕事も落ち着くし、今も定時に帰れるぐらいには良い部署だ。別に辞めるほどではない。
結婚しても当然、辞めるつもりはなかったけど、辞めてあの家を片づけるのに手を回したら彼の負担が減るのだろうか。
お弁当の中身は全て無くなったが、私の悩みは全く減ってはくれなかった。
*
定時に会社から出ると、空はすっかり真っ暗で星が輝いている。
駅までの道のりも、枯れた木々はチカチカと様々な色の電球がつけられイルミネーションの一部になっている。
吐く息が白くなると、途端に寒く感じるから単純な思考回路だと思う。
クリスマスも定時で帰れるけど、喬一さんはどうだろう。
正直に言うと、彼の手の込んだ御馳走は楽しみだ。
絶対にチキンから手作りしそうだし。
彼は和風の料理の方が得意らしいし、仕込みや前日から味付けできるからと好んでいる。
カレールーだってルーを買わず手作りだし。
でも絶対に、今の仕事の忙しさで毎日手の込んだ料理は、負担だと思うんだけどなあ。
私が少し手伝えればいいけど、彼は一人で作りたいと言っていたので、いい案は浮かばない。
せめて、朝ご飯は私が作るとか?
色々と考えながら家の門を開けると、寝室に明かりがついているのが見える。
今日は早い。嬉しくて私も急いで家の中に入った。
「喬一さん」
二階へ上がるとき、リビングからいい匂いがしてきた。
この匂いは肉じゃがだ。昨日、おばあちゃんが送ってきた土のついた野菜に感激していたから何を作ってくれるのかなってちょっと楽しみだったんだ。
「ああ、おかえり。インターホンを押したら迎えに行ったのに」
「ただいまです。いえ。灯りが寝室だけだったから」
彼がベットサイドのテーブルに眼鏡を置くと、目じりを押さえた。
テーブルには数冊の本。
でも服は、いつも寝るときのラフな格好だ。
「眠ってたんですか?」
「誰かさんが俺の睡眠不足を心配してたんでね。ソファではなくちゃんと布団で寝たよ」
彼が布団をめくって、自分の隣をポンポンと叩く。
その仕草に胸が高鳴りつつも、帰って来たばかりの私は大きく首を振る。
「久しぶりに一緒に寝れそうだな、紗矢」
「ひいい」
幸せすぎる。急いでドアを開けて寝室から出てしまった。
お風呂に入ったのか、ふわんと漂ってくる喬一さんの匂いも心臓が止まりそうなほど甘くて、驚いた。
一日中、彼の忙しさに悩んでいたのに、あんなふうに言われたら抱き着いてしまいそうで危なかった。