ガレージの広大な敷地で、ケイトは金属の棒を大きく振りかぶり、遠くへと投げた。弧を描いて飛んでいく棒を目で追うクーパーのモノアイが、キラリと光る。次の瞬間、ワンッ!と金属質の吠え声を上げると、クーパーは猛然と走り出した。その四肢の動きは驚くほど滑らかで、まるで本物の犬が獲物を追うかのようだ。
廃棄された機械の残骸や、錆びついた部品が散らばる敷地を、クーパーは俊敏に駆け抜けていく。棒の落下地点に到達すると、器用にそれを顎で咥え、クルリと向きを変えた。そして、投げた時と同じくらいの勢いで、ケイトの元へと駆け戻ってくる。
「お帰り、クーパー」
ケイトは笑顔で棒を受け取り、クーパーの金属製の頭を撫でた。クーパーは嬉しそうに尻尾を振り、モノアイを輝かせている。この一連の動作は、かつて彼女が飼っていた犬との遊びと寸分違わなかった。
ある日の朝。ひどい倦怠感に襲われ、頭痛もする。熱があるのは明らかだった。無理はできないと判断し、彼女はガレージのオフィスにある簡易ベッドに体を横たえた。毛布を首まで引き上げ、重い頭を沈める。しかし、熱は上がる一方で、体は鉛のように重く、咳が止まらない。
「コンコン、ゴホッ、ゴホッ…」
乾いた咳が静かなオフィスに響き渡る。その音を聞きつけたのか、オフィスのドアがゆっくりと開いた。鼻先でドアを押し開けて入ってきたのは、クーパーだった。いつものように元気よく走り回る様子はなく、そのモノアイは心配そうにケイトを見つめている。
クーパーは、ゆっくりとベッドに近づくと、前足をベッドの縁にかけ、その黒い鼻先をケイトの頬にそっと押し当てた。ひんやりとした金属の感触が、熱を持った頬に心地よい。そして、そのまま鉄の舌でケイトの頬をぺろりと舐めた。
その仕草は、まるで本当に心配しているかのように、優しさに満ちていた。ケイトは、その冷たい感触に、熱でぼんやりとした意識の中で、微かな安堵を覚えた。
ひんやりとした鉄の舌が頬を撫でた後も、クーパーはケイトの傍を離れなかった。熱にうなされ、重い呼吸を繰り返すケイトの枕元で、クーパーは一晩中、じっと彼女を見守っていた。
そのモノアイは、薄暗いオフィスの中で淡く光り、まるで夜通し灯る小さなランタンのようだった。時折、ケイトが寝返りを打って苦しそうにうめき声を上げると、クーパーは心配そうに身を寄せ、その冷たい鼻先を再びケイトの額に押し当てた。そのひんやりとした感触は、熱を持ったケイトの体には、何よりもの冷却剤となった。
翌朝、ケイトが目を覚ますと、熱はいくらか引いていた。まだ体はだるいものの、昨夜の苦しさは和らいでいる。そして、彼女の枕元には、丸まって眠るクーパーの姿があった。まるで、彼女の熱を吸い取ってくれたかのように、静かに眠っている。
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