テラーノベル
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背後で桐島が立ち上がった気配がした。
「おい、見たか今の? あの斧娘、消えたぞ」
「…………」
どうやら彼女は隠れながらも、屏風の向こうを覗いていたらしい。
「なあ、すごいな? どうやって消えたのかな? なぁってば。……香住? なんだ、見てなかったのか……」
一向に返事をしない俺に、桐島はがっかりしたように口を尖らせた。確かに俺は見ていない。だけど一瞬で空気が変わったのは感じたし、見ていた彼女が消えたと言っているのだから、たぶんそうなのだろう。もちろんその事実にはとても驚いている。だが俺は、それどころじゃなかった。気持ちワルイ……!!貧血で頭がぐらぐら……!!
正直消えるとか消えないとかは、この際どうでも良い。それより、ち、血が……血がいっぱい……!
そんな俺とは対照的に、桐島はすらりと立ち上がった。右の人差し指に豚肉入りのビニール袋をひっかけてくるりと回す。
「首吊りといいさっきの殺人といい、どうなってるんだ……?」
ここは囲炉裏の間だ。少女は去り、囲炉裏の間は元の静寂を取り戻している。この場に立っただけで、さっきの出来事を思い出して血の気が引く……。
「どうした。さっきから黙って。元気ないぞ」
桐島の不思議そうな顔で、俺を見た。
「…………」
どうした、だと? 斧で頭カチ割られそうになったんだぞ。元気いっぱいでいられるか!
「……別に」
しかし、こいつはなんでこんなに落ち着いてんだろう。頭割られたりしたらどうなるのか、ちゃんとわかってんのかな? もし、頭がわれたりしたら……。
「う……」
しまった。余計な想像を……!
「そうか……」
貧血を堪える俺に、彼女はいたわるような眼差しを向けた。
「お腹が空いたんだな?」
「違う! ちょ、ちょっと待った!」
仏間へ向かってスタスタと歩いていく桐島を、俺は慌てて呼び止める。
「なんだ」
「こっちに来たってことは……。も、戻るの? そこの仏間に?」
「当然だ」
「な、なんで?」
「気になるだろ。色々と。斧娘、消えたし。不思議満載じゃないか」
「そ……それはそうなんだけど」
「なんだ? なんか文句でもあるのか」
「イ、イヤ、ないけど……。ないけど……あるだろっ。その、し、死体が」
「? 知ってるよ?」
「…………」
「なんだ! 何かあるのか! はっきりしろ!」
「な、ないです……」
「じゃあいいだろ。行くぞ」
「はい……」
あの惨状を思うと、できれば仏間には入りたくない……が。
「何してる、行くぞ」
残念ながら桐島は入る気満々だ。
二人は仏間に入る。
「…………。ない」
戻ってきた仏間に、斧で殺された男の姿はなかった。その代わりにーー。
「な、なんだこれ……?」
男が倒れていた場所には、血と一緒にススのような黒い汚れが染み付いている。
「スス?」
しゃがみ込んだ桐島は、勇敢にもその跡を指の腹でなぞった。ひっくり返した指の腹には、なんの汚れもついてこない。
俺は彼女の肩越しに、出来るだけ血を見ないようにしながら黒いシミを確認した。
「なあ、それ……。なんか、人の形してないか……?」
「してるな」
死体のあったはずの場所に染み付いた黒い影。
「まるで……あの男の影が焼きついたみたいじゃねえ? 体が消える代わりに……」
消える……? そういえば、あの着物の子も俺たちの目の前で消えた……。
「あ」
「?」
桐島が黒い影のそばに転がるものを摘み上げる。
「なんだこれ?」
摘んだそれを目の高さに掲げた。それはガラスで出来た赤い梅の花だ。2、3ミリの厚さがあって、縁は滑らか。とろんとしたツヤを放っている。
「おはじきかな? 梅の花の」
「へぇ、変わってるな」
「ちょっと形は悪いけど、綺麗だぞ」
俺は差し出されたおはじきを、何の気なしに受け取った。その瞬間ーー!
「殺してやる 誰一人、逃さない 殺してやる この家から誰も生きて帰さない この家に立ち入る全てのニンゲンに 死を」
「……! ………………」
なんだ? 今の?
呆然とする俺の手のひらで、赤い梅のおはじきがツヤツヤと光っている。
「い、今の。……見えた? つーか、聞こえた?」
「うん」
「一瞬誰か違う人の記憶が放り込まれたみたいな……」
逃さない……。死を……。
「あの着物の子の〈記憶〉か……?」
「…………」
「…………」
「…………」
「……あの……着物の子」
俺はグルグル混乱する頭の中を、整理しながら話す。
「消えたじゃん?」
「消えたな」
「生きてる感じ……した?」
「あんまり」
「だよな!? 幽霊……ってやつなのかな……」
「…………」
幽霊という単語が、血と黒い染めの残された部屋の中に白々しく響いた。桐島が黙ってしまったので、慌てて弁解する。
「ゆ、幽霊とか馬鹿げてると思うけど! でも、だって変じゃねえ? ここ! 最初、もっとぼろかっただろ。明らかに廃屋って感じで……! 今、まるで誰か住んでるみたいじゃん。明かりだってついて……」
「…………」
「どういうこと、なんだろうな……」
俺は目を落として考え込んだ。
廃屋だったはずの家。斧を持った少女。殺された男の体は、影を残して消えた……。
「…………。なあ。桐島はどうーー」
意見を聞こうとして、顔を上げるとーー。
「………………」
そこには魂が抜けたような顔をした彼女がいる。
「な、何、この状況に来て、緊張のない顔!!」
「だって。難しいことはよくわからない。私は頭が悪いんだ」
「いやいや、考えようよ! もうちょい必死に! その顔、明らかに考えることを放棄してるだろ!」
「考えた。もういっぱい。無理だった」
「胸を張るな! せめてもっとすまなそうに言え!」
「大丈夫。私はいいんだ。香住の方が頭が良さそうだから」
桐島は右手にぶら下げていたビニール袋(豚カタマリ肉入り)をぶら下げながらにっこりした。
「私は香住についていくぞ?」
ついていくだと? 常に先陣切って動いてるヤツは誰なんだ!
出会って一時間程度。それでも断言できる。オマエは絶っっ対にそんな殊勝な性格じゃねえ!
コメント
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第6話読了です〜🥀 香住くんの貧血気味なリアクション、めちゃくちゃ共感しちゃった…あの血の量はヤバいよね。でも桐島さんがまったく動じないから、逆に不気味さが増すというか。 おはじきに触れた瞬間の「♡♡♡てやる」って声、ゾッとした…あれ、着物の子の記憶? 廃屋なのに明かりがついてるのも含めて、ホラーとしての空気感がしっかりしてて好きです。 「私は香住についていく」って言いながら絶対自分で動く桐島さん、笑った(笑)続き気になる〜🤍
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ごま団子🐞🩵
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