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「それは本当か?」
会社と異世界を行ったり来たりして、その日の業務を終えたいつも通りの日常。
マンションで聖奈と晩酌を交わしている時に、信じられない報告を聞いた。
「うん。同じ名前だったからよく覚えていたんだって」
「そういえば…確かに同じ名前だったな」
「姉弟ならすぐに気付くよね…しかも同じ職業だし…」
聖奈が可哀想な人を見る目で見つめてくる。
照れるだろっ!
「まぁ俺のことはいいんだよ。それよりもなんて言ってた?」
「お姉ちゃんの通っていた大学のOGで、憧れの人だったんだって。
それでお姉ちゃんも学生の時に海外に興味をもって、今の仕事をしているんだって聞いたよ」
姉貴がいなくてもお姉ちゃん……
洗脳されとるやないかいっ!!
「そうか…それで急に海外へ行ったんだな…同じ由奈でも印象が大違いで、繋がりを全く考えられなかったな」
そう。姉貴は始皇帝さんを知っていた。
未だに何故時間軸がこっちとむこうで違うのかはわからんし、考えても答えが出るわけでもないので、そこは放置している。
「三上さんはとても綺麗な人だったみたいだよ。誰にでも分け隔てなく接する人で、お姉ちゃんも進路相談でお世話になったんだって」
「あの姉貴が人に相談していたなんてな…」
その後、三上さんの最期の地を聞いた。
そこは未だに内戦が続いていて転移ポイントはなかったが、近いうちにどうにか現場へと向かい、姉貴から聞いた三上さんの好きだった花を献花しようと聖奈と約束をした。
「三上さんはボランティアだったけど、お姉ちゃんはお金がいいから海外だったみたいだね。
お姉ちゃんとは…私と同じ匂いがするよ…」
「まぁ姉貴にボランティア精神なんてないからな。
それと、聖奈と姉貴は全く違うから安心しろ」
自分の気に入った人への対応は同じだけどな……
後…怖いところも……
あれ…?考えれば考えるほど似てるような……
そ、そんなはずはないっ!!
「明日からヨーロッパ支社へ行ってきてくれないかな?」
いつもの晩酌の時間に聖奈が伝えてきた。
「なんかあるのか?」
「向こうでもテレビの取材があったでしょ?」
「ああ…美少女社長として現地のメディアが取り上げていた奴か。それがどうかしたのか?」
ヨーロッパ支社はミランに支社長を任せている。
始めはそんなつもりはなかったんだが、あの見た目だろう?
現地の社員から舐められていたのを俺が偶々目撃したので、舐められない肩書きと権限を与えたんだ。
本人は支社とはいえ会頭(トップ)など畏れ多いと言っていたが、『常に側にいられるわけじゃないから我慢してくれ』と俺が頼み込んだのだ。
「テレビの影響で繁盛しているのは伝えたと思うんだけど、悪影響もあってね…」
「?……まさか」
「そう。ファンクラブが出来ちゃったの」
「ファンクラブかよっ!?俺はてっきりストーカーかと…」
なんだよ。アイドルになったってことじゃねーか。
まぁミランの見た目なら当然だろうな。
「そうだよ。悪質なファンが中には居てね……その人達がミランちゃんを付け回したりしてるの」
「よし。殺そう」
うん。魔法なら証拠も残らんだろう。
「ダメだよ。まだ実害もないのにそんな安易なことをしたら、ミランちゃんが気に病むでしょ?そうでなくても教育に悪いし」
「何かあってからじゃ遅いだろっ!!」
「…出た。過保護」
冗談じゃないっ!!
俺の可愛いミランに何かあってみろ……
ストーカーを地獄に叩き落としてやるからなっ!!
「だからって何もしないわけじゃないんだよ?それで聖くんにボディーガードとして行って欲しいの」
「…まぁ打てる手は現状そんなもんか……わかった。明日行ってみるよ」
他に出来ることは思い浮かばないからな……
ミランから支社長を…ヨーロッパ支社の仕事を取り上げるのは可哀想だしな。
本人は楽しく仕事をしてくれているみたいだし。
少し前に異世界から送ったところだが、明日向こうが朝になれば行ってみるか。
もちろんその日は心配で寝付けなかった。
寝苦しい夜を過ごし、翌日を迎えた。
時差は凡そ8時間。日本が夕方になれば、向こうは朝方だ。
「じゃあ俺は帰ってミランのところに行ってくるよ」
会社の社長室で仕事をしている聖奈へと向けて伝える。
「うん。聖くんはデートだと思って楽しんできてね。あんまり気を張り詰めているとミランちゃんが嫌がるよ?」
「ぐっ…そうなのか。わかった。デートじゃなく遊びのつもりでミランに張り付いているよ」
俺は早る気持ちを抑え、マンションへの帰路についた。
〜少し前〜
side聖奈
「お返し…ですか?」
ここはバーランド王国王城の私室。
ミランちゃんを偉そうにも立場的に仕方なく呼びつけた私は、この前のお礼をする旨を伝えた。
「そうだよ。あの時があったから今の私はいるの。とてもじゃないけど、すぐには返し切れないくらいの恩だから、少しずつ返していくね」
「…あれはそういうつもりで伝えたのではないです」
「ミランちゃんがそうだとしても、私はそうとは受けとれないよ」
あれがあったから、聖くんに想いを伝えられた。
「それでお礼なんだけど、セイくんをレンタルするね」
「せ、セイさんはモノではありませんっ!!」
「うん。知ってるよ。でも、嬉しそうだよ?」
「こ、これは…」
目は口ほどに物を言う。
いいなぁ…こんな美少女からここまで想われるなんて……
いけない。悪い癖が出てきちゃいそうだったよ。
「名目はミランちゃんのボディーガードだね。その間は今ヨーロッパでつけているボディーガードは外すから、ミランちゃんはセイくんの側に居てね。
じゃないと私も心配だから」
恐らくだけど、ミランちゃんの戦闘能力は地球の格闘家を上回っている。
では、なぜボディーガードを?
ってことだけど、流石に複数人に襲われたり不意をつかれたら異世界人のミランちゃんでも勝てない。
その時に銃を使ってくれるのはいいんだけど……
そんなことになれば銃の出所を含めて色々な秘密が世間に晒されてしまう。
そうならない為のボディーガード。
「ボディーガードさんは…?」
「長期休暇を与えたよ。行きたいと言ってたアメリカ旅行をプレゼントしたから、今頃は荷造り中なんじゃないかな?」
「それでは仕方ありませんね…」
残念そうな口振りの癖に口角が上がってるよ?
でも、これで少しは恩返しが出来たかな?
side聖
「ここだな」
ここはイタリアにある異世界転移ポイントとしても使っている、ミランのアパートメントだ。
異世界からミランと一緒にここへ飛ぶことはあったが、流石に年頃の女の子が生活しているところへいきなり飛ぶのは俺でもやらない。
今回はイタリアにある転移ポイントから態々タクシーに乗ってやってきたのだ。
ピンポーン
ガチャ
「セイ…聖さん。態々ありがとうございます」
あれ…?普段よりおめかししてるように見えるのは気のせいかな?
日に日に大人っぽくなっているから、きっとそのせいだろう。
「気にするな。俺がしたくてしてることだからな。一緒に仕事を楽しもうなっ!」
俺が手伝えることはないんだけど……
「はいっ!まずはイタリア支店に行きますね!」
「おう。支社長に任せるぜっ!」
ヨーロッパには…正確にはEUには支店がいくつかある。
本社はこのアパートの近くにあり、基本はネット販売が主だ。
しかしネットは使えるものの、やはり異世界人のミランは対面型の店頭販売が得意で、そこに力を入れている。
日本に店頭販売がないのは、偏に俺と聖奈に接客能力がないからなのだが……
そんな理由もあり、ヨーロッパでは店頭販売に力を入れている。
ネットよりも高値で売れるが、その分コストもかかる。
しかし、ネット販売と店頭販売で棲み分けすることにより、色々なリスクも分散できている。
とは、聖奈から聞いた話だ。
俺?俺は任せているから何も知らんっ!!
「手を…手を繋いでもいいですか?」
!?
「ど、どうぞ?」
反抗期の終わったミランは、いつの間にか積極的になっていた。
ストーカー避けかな?