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「「おはようございます」」
ミランと鉄道を乗り継いでやってきたのは、イタリアにある店舗の一つ。
「おはようございます。本日は本社から社長が来られているので、いつもより気合いを入れて業務に取り掛かりましょう」
「「はいっ」」
うーん。ミランもなんだかんだ言って社長業が板についてきたな。
俺はこれまでにも偶にミランに引っ付いて来ていたのだが、あくまでも転移要員(世界間+各店舗)として来ていたので、店舗内へと入ることはなかった。
今回は遊び感覚とはいえ目的はボディーガードなので、ミランと四六時中離れない所存であります。
side従業員
「「おはようございます」」
「おはようございます」
・
・
「ねぇ」
「なんだよ?」
この女性は俺の同僚だ。
今日は偶々シフトが被っただけで、いつも同じというわけでもない。
「今日の支社長って、いつもより可愛さが増してない?」
「いつも可愛いだろ?…って、マジだな」
ウチの支社長はめちゃくちゃ可愛くてお客さんにも大人気だ。
そんな見た目とは裏腹に、ちゃんとした接客がまたいいんだ!なんていうお客さんも多い。
「ファンクラブの会員がまた増えそうね…」
「俺も入ろうかな…」
流石に本気ではない。
支社長には、美人だけど恐ろしいと従業員の中で噂になっている本社の副社長がバックについているって、もっぱらの噂だからな……
俺は妻子のある身。
まだクビになるわけにはいかない・・・
side聖
「それは何をやっているんだ?」
ここでの業務はてっきり開店前の準備の手伝いかと思っていたが、ミランは店のバックヤードへと入り、机に向かっている。
この店舗は大通りに面しているレトロな五階建ての建物の一階部分で、他の階は居住区になっているみたいだ。
「これはこの店舗で働いている人からの、匿名のメッセージですね。
セーナさん情報によると、インターネットなどで送ると個人を特定出来たりしますが、この方法だとここに監視カメラがない限り個人の特定は出来ないので、真実の声が聞こえるのでは?とアドバイスを受けたので、そのまま取り入れました」
「そ、そうか」
まさか…ミランの悪口とか書かれていないよな?
俺は気になったので、社長権限で中身を見させてもらった。
「『ミランちゃんとデートに行きたいので、空いている日を教えてください』だと?
これは誰が出した?消さねば…」
「セ、聖さん。匿名なので誰かはわかりません。恐らく冗談でしょう。
子供を揶揄いたい愚かな男性がイタリアには多すぎます。はぁ」
俺の顔が怖かったのか、ミランは呼び名を間違えかけた。
しかし…イタリアは軟派な男が多いと聞いてはいたが……
「やはり来て間違いではなかったな…」
「……」
何故かミランに無視されたが…俺は心配なんだ!
これからもバーンさんの代わりに堂々と心配するぜっ!!
あれからイタリアでもう一店舗とフランスで二店舗、ドイツで一店舗をその日の内に回った。
移動はもちろん転移で移動した。
EUは国境検査がないからいいよね!!
まぁ転移では元々いらないんだけど、ミランがイタリアからドイツへ急に飛んでも行政では把握できないのが素晴らしい。
あと商品の輸送にも関税が掛からないから在庫置き場が少なくて済む。
その分倉庫の一つ一つは馬鹿デカいけどな。
同じ会社でもミランの予定は常に未定にしているから、社内で『この日のこの時間に何処どこにいた』『えっ。予定ではあそこにいたはずだけど?』のような話も出てこない。
まぁ俺がいない時は普通に電車…高速鉄道で移動しているから問題ないんだけどな。
あれ?じゃあ、問題って俺なんじゃ……
「聖さん。ディナーですが、私の行きたいところでもいいでしょうか?」
「もちろん。そういえばお腹すいたな」
あれ…?翻訳の能力が壊れたかな?
普段は晩御飯で翻訳されるのに…まぁそんな時もある…か?
「では始めに私の部屋へと一度戻れますか?着替えたいので」
「十分可愛いが?お安い御用だからいいけどな」
俺が褒めるとすぐに顔を赤くしてくれる。
こういう反応をしてくれるから褒め甲斐があるってもんだ!
「どうでしょうか?」
アパートに着いた俺は、リビングでミランの着替えを待っていた。
10分程で着替え終えたミランが声を掛けてくる。
「素晴らしい!!綺麗だぞ。ミラン」
これは写真に撮っておかねば聖奈に怒られてしまうな。
ミランには悪いがスマホでパシャパシャ。
「は、恥ずかしいです…」
ええやないか、ええやないか。
いや、これだと変態と同じだな…やめよう。
ミランが着ているのはさっきまでのモノとは違い、可愛さに全振りした膝上フリフリスカートに、上もオフショルダーのモコモコが付いた服だ。
語彙力……
腕には俺が贈ったブレスレットをつけてくれている。
だが……
「それだと寒いだろう?上はしっかり着ような」
「もちろんです。この季節に外でこんな格好をしていたら頭を疑われてしまいますよ」
じゃあなぜ……
俺に見せる為か…ご馳走様です。
しっかり防寒対策をした(結局モコモコ度が上がって可愛い)ミランを連れて、歩いて外に出た。
「ここは…確かにディナーだな…」
アパートの近くでは一番大きなホテルで、ミランに聞くとミシュ◯ンのガイドブックに載っている店らしい。
明らかにドレスコードがあり、厳ついガードマンも入り口に二名立っている。
外からでもガラス張りで中が見えるため、豪華なシャンデリアとグランドピアノが視界に入った。
飯にそんなもんいるのか?
俺がそんな感想を抱いていると、不意に左腕に重みが。
「予約はしてあります。行きましょう」
「お、おう」
さ、さすミラ!
腕を組んだのは初めてじゃないかな?
彼女いない歴=年齢の99%の俺は、動揺を隠せず硬くなりながら店へと入っていった。
フレンチは堅いイメージはあったが、イタリアンもお堅い所があるんですね……
味なんて全然わからなかった。
「本当にリビングで寝るのですか?」
ディナーを食べた俺達はアパートへ帰ってきていた。
てっきり一日毎に異世界と地球を行ったり来たりするのだと思っていた俺は、勿論ホテルを取っていなかった。
一人暮らしの女の子の家に上がり込むのはどうかと思い、日本のマンションにミランも連れて帰ろうかと思っていたが『社員に今日はアパートにいると伝えているのでここで寝ます』と言われれば、俺の取る行動は一つだけ。
「ああ。良いソファだから気にするな。俺はどこでも寝られるからな!」
何せ一人旅で木の上でも寝てたし。
「そ、そうですか…わかりました。おやすみなさい」
「?ああ。おやすみ」
もしや…俺がいるのが嫌なのか?
ありえるっ!!
父親と一緒に住むのは最悪我慢できるが、洗濯物を一緒にするのは嫌がる女子高生みたいなものか!!
くっ…乙女心は難しいぜ……
普通に恥ずかしい年頃なのだろうな。
すまんが我慢してくれ。
ミランの安全は何モノにも変えられないんだ。
「おはようございます」
うーん。もう少し寝させて……
ん……?
「ミラ、ン?」
「はい。おはようございます」
ん?あっ!
「そうか…ここはイタリアのミランの部屋か……
寝ぼけてたよ。おはよう」
「ふふっ。私が起こすのは久しぶりですね」
朝から天使の笑顔が見られて私は幸せです。
「そうだな。バーランドが亡くなる前まではいつも起こしてもらっていたな」
懐かしい。偶にエリーがお菓子欲しさに俺を起こしていたのも懐かしい……か?
「そうですね。惜しい人を亡くしました。ですが私は生きているので、いつでも聖さんを起こしますよ」
「ありがとう。顔を洗って着替えてくるよ」
俺は日本へ転移して朝の支度を済ませる。
日本はすでに夕方前だった。
もちろん聖奈はマンションにはいなかったが、書置きはあった。
『着替えはベッドに用意しておいたよ。連絡するまではそっちでミランちゃんを見ててあげてね。異世界のことも問題ないから気にしないでってミランちゃんに伝えてね』
うーーーん。嫁(予定)の公認浮気みたいでなんだかなぁ……
最近まで年齢イコールだった俺には早いよ……
あれだけハーレムって言っていた俺はどこへ行ったんだか……
相手が聖奈とミランだからか?
いや、俺が王道主人公に程遠いだけだな。
聖奈なら『酔っ払いに優しくしたら異世界に行くことが出来ました』ってタイトルで主人公になりそうだし。
ミランなら『別の世界からやってきた冴えない男を助けたら商人で成功しちゃいました』ってタイトルだな。
うん。
俺が脇役だからハーレムが出来ないって理論が正しそうだな。