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陰キャ転生は、KUNのメッセージを呆然と見つめた。
『お前、今落ち込む必要ねぇよ。』
彼はマイクをミュートにし、Discordのチャットウィンドウを開いた。
「…何言ってんだよ、KUN。最悪のミスだろ。俺のせいで最高の盛り上がりが台無しだ」
彼の指は震えていた。ヒーローとしての仮面を剥がされた瞬間、愛されるキャラクターの「陰キャ転生」が消え、無力な自分だけが残ったような気がした。
KUNからの返信はすぐに来た。
『いいか、転生。お前が完璧なプレイをするなんて誰も期待してねえよ。お前の「自分らしさ」は、完璧なプレイじゃねえ。敗北したとき、ミスしたとき、どんな顔して、どう言い訳するかだ。』
陰キャ転生は、その言葉の意味が分からず、キーボードを打つ手を止めた。
『お前の敗北は、最高のエンディングだ。なぜなら、誰もがお前の情けない部分、人間臭いところを見たがってるんだからな。それこそが、お前だけのコンテンツだ。』
それは、陰キャ転生にとって、あまりにも新しい「見方」だった。「完璧であること」が価値だと思い込んでいた彼にとって、「情けないこと」が価値になるというKUNの言葉は、まるで世界のルールを書き換えるようだった。
その時、ボイスチャットにひまじんの声が響いた。彼の配信上のハイテンションな声ではない、少し落ち着いたトーンだ。
「転生!俺もさっき、裏でマジで落ち込んでたんだぜ。嘘だと思うだろ?でもな、俺が虚言を吐くのも、お前がミスをしてテンパるのも、俺らの個性やろ?」
ひまじんは、いつも嘘と冗談で他人を煙に巻く。だが今、彼は「虚言という鎧」を脱ぎ捨て、「キャラを演じる辛さ」という共通の弱さで、陰キャ転生に「共感」という「味方」を提供してくれた。
さらに、できおこが口を開いた。普段は温厚で冷静な彼は、ゆっくりと言葉を選んだ。
「転生は、誰よりも裏での努力を欠かさない。俺たちは知ってる。その上で、ミスしたんだ。それは、お前が誰よりも真剣にやっていたって証拠だ。真剣なミスは、恥ずかしいことじゃない。むしろ、かっこいいよ。」
自分を支える「鎧」が重荷になっていたとき、仲間という「味方」が、その鎧の内側にある「真面目さ」と「努力」をしっかりと見抜き、肯定してくれた。
陰キャ転生は、全身の緊張がほどけていくのを感じた。彼は、愛されるキャラクターを演じ続けなくても、このニート部という居場所では、愛される「自分」でいられるのだと理解した。
彼は震える指でマイクのミュートを解除した。