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咲夜に連れられ、俺は地下の湿った空気から解放された。案内されたのは、紅いカーテンが揺れ、シャンデリアが不気味なほど美しく輝く大食堂。
そこには、豪華な装飾が施された長いテーブルを囲む面々がいた。
「遅かったじゃない。……あら、アンタ生きてたのね」 霊夢が紅茶を啜りながら、呆れたように、でも少しだけ安心したように俺を見た。隣では魔理沙が「おい、地下で爆発音がしてたけど、何してたんだよ」と身を乗り出している。
そして、上座には優雅に脚を組み、紅い液体が満たされたグラスを傾ける館の主、レミリア・スカーレット。
「ふぅん……。フランが大人しくなったと思ったら、こんな人間と食事をしていたなんてね」
レミリアは、俺がテーブルに置いたカセットコンロと、使い古された卵焼き器(銅製)を、面白そうに、そしてどこか見下すように眺めた。
「それで、私への献上品は何かしら? 咲夜からは『卵』と『だし』を使うと聞いたけれど」
「……『だし巻き卵』です。特別な高級食材は使いませんが、味だけは保証します」
俺の答えを聞いて、レミリアはくすくすと低く笑った。
「だし巻き卵? ……ふふ、あははは! おかしいわね。こんなシンプルな料理、家畜の餌かと思ったわ。こんなのであの子を満足させたのね。……いいわ、楽しみだわ。あなたのその『シンプル』が、私の退屈を殺せるのか試してあげましょう」
「……腕が鳴りますよ」
俺はあえて不敵に笑い、コンロに火をつけた。 レミリアの言う通り、これはシンプルな料理だ。だが、シンプルだからこそ、誤魔化しが効かない。
卵を割り、究極の白だしを注ぐ。 黄金色の液体が混ざり合い、出汁の香りがふわりと立ち上がると、食堂の空気が一変した。レミリアの鼻が、わずかに、だが確実に動く。
「……っ、この匂い。咲夜が作るコンソメとも、里の屋台とも違うわね」
俺は熱した銅の鍋に、静かに卵液を流し込んだ。 ジューッ……。 心地よい音と共に、薄く広がる黄金の層。それを、箸一本で丁寧に、丁寧に巻き上げていく。
一段、また一段。 白だしの水分をたっぷりと含んだ卵が、まるで生き物のようにプルプルと震えながら厚みを増していく。
「(見てろよ、吸血鬼のカリスマ。五万二千円の元を取るどころか、この味でアンタの価値観をひっくり返してやる……!)」
最後の一巻きを終え、俺はそれをまな板に乗せた。 包丁を入れるたび、断面から溢れ出すのは、閉じ込められていた究極の出汁のしずく。
「お待たせしました。……『博麗神社特製・黄金のだし巻き卵』です」
レミリアの前に、立ち上る湯気と共に、美しく切り分けられた卵が差し出された。