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*昼休み:* 今日は屋上で食べよう。どうせ、一緒に食べる友達なんて、いないし。
今日の弁当は唐揚げと、アスパラと、卵焼きと、ベーコンと、、、あと林檎!
弾む足で階段を駆け上る。林檎は大好物だ。
屋上につく。扉を開ける。青い空が広がる。見慣れた空。ふふ、なーんにもない、誰もいない。
と、思った。
彼がいた。
一回見てるからもう慣れてるはずなのに、どこか異質に感じさせる、黒白目。
が、こちらを見た。彼も驚いたのだろう
ちょ、そこは、私の場所だよ
なんて子供みたいなこと考えながら、私も彼を見返す
正直結構びっくりした。
まあいいや、と思いながら、いつもの場所に屈んで。弁当をひろげる。
いただきま
言いかけた、声を途切れさせたのは、彼の驚愕の行動だった。
たっ
音がして、見上げると彼が、フェンスの上にいた。え え? は?何やってるの、危険だよ
思考が追いつかない。なにをする気?死にたいの?
彼はそんな私には目もくれず、じぃっと空を見つめた。
え、何かいるの?
無意識に私も、彼の視線の方向を凝視する。
なにも見えない。ただただ青い空が広がっている。カラスが一羽、二羽、こちらに向かって飛んでくるいつもの光景で
一瞬、だった。
黒い羽が舞う。血が飛び散る。激しい羽音が聞こえる。”それ”の断末魔が空に鳴り響く。
と同時に、彼がフェンスから降りた。
彼の頬まで裂けた口が、カラスだったものを咥えていた。
すこし、ショッキングで。
あまりに一瞬の出来事で、私は腰を抜かして。
彼は、どこか誇らしげに、それを咥えていた。
ぶちっ
筋繊維を千切る音。
彼の口から、血が滴る。
なるほど彼も、昼食を食べるためにここに来たのか。そして”それ”が、彼の昼食なのだ。
すぐに理解した。
彼が必死にそれの肉を引きちぎっては、咀嚼する。蛇のような口で。鋭い牙で。骨を砕く。
この前の無機質な感じと違って、なんだ、存外ワイルドな食べ方をするんだな
なぜか、私は冷静だった。
普通、人は、こういうとき恐怖なり憎悪なり感じるのだろう。
私も、“普通”には、なれないんだな。
全てを食べ終えて満足げの彼に近づく。
彼は長い舌で、頬の血をなめ取っていた。
持っていたハンカチで、彼の口元を拭く。そして
あの、私さ。林檎持ってきたんだ。一口食べてみる?
彼に林檎を一切れ。フォークで差し出す。
彼はそれを不思議そうに眺めた。そして、さっきの野生味溢れる食べ方とは打って変わって、それを、慎重に口に咥えた。咀嚼した。
余程、美味しかったのだろう。
絶対変わらないだろうとさえ思っていた。
彼の表情が、変わった。
今まで見たことのない顔をして。こちらを見つめた。
彼の白い肌が。少し、紅潮した。気がした。
ふふ、それは、笑顔って、受け取っていいのかな
なんだか少し、得した気分になった。
明日も林檎を切って、ここに来よう。