テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
放課後。
校門を出て歩き出したところで、亮がふいに足を止めた。
「なあ、今日はまっすぐ帰るのやめよう」
「え?」
「ちょっと寄り道。……ついてきて」
戸惑う〇〇の手を軽く引いて、亮は歩き出す。
道を抜けていくと、潮の匂いが風に乗って届いてきた。
「ここ……海?」
「そう。引っ越す時に車から見えたんだ」
浜辺に出ると、夕陽が水面に反射してキラキラと輝いていた。
二人で並んで歩きながら、裸足で波打ち際を踏む。冷たい波が足元に触れるたびに〇〇は笑い、亮もつられて笑った。
「……さっきのこと、気にしてる?」
唐突に、亮が真面目な顔で言った。
「さっきって……噂のこと?」
亮は頷く。
「俺、〇〇が嫌な思いしてないか、そればっか考えてた」
〇〇は小さく首を横に振った。
「……嫌じゃないよ。ただ、どうしてそこまで私に構うんだろうって、不思議にはなるけど」
亮は少し黙り、遠くの水平線を見つめる。
それからゆっくり口を開いた。
「……俺さ、人を守りたいって思ったこと、今まであんまりなかったんだ。でも〇〇といると、自然にそう思うんだよ。放っておけないっていうか」
潮風が吹き、〇〇の髪が揺れる。亮が無意識に手を伸ばして、顔にかかった髪を耳にかけてくれる。
一瞬、距離が近くなりすぎて息が止まりそうになる。
「……亮……」
「何?」
「……なんでもない」
慌てて笑ってごまかすと、亮もふっと笑った。
「そっか。ならいい」
夕暮れの浜辺には、二人の笑い声と波の音だけが響いていた。
浜辺で少しの間、夕陽と波の音に包まれながら過ごした二人。
そろそろ帰ろうかと立ち上がると、夜の風が頬を優しくなでて、〇〇の髪を揺らす。
「……〇〇、寒くない?」
亮がさりげなく肩を寄せてきた。
「うん、大丈夫」
少し照れくさくて、笑いながら答える〇〇。
二人並んで歩く帰り道。
街灯に照らされた二人の影が、波打ち際で見た夕陽の光と重なって、まるで小さな物語の中を歩いているみたいだった。
「今日さ、楽しかったね」
亮が小さく笑う。
「海、いいね。〇〇と一緒に歩くと、なんか落ち着く」
(……落ち着くって……なんだかドキドキする)
〇〇は心臓の高鳴りを感じながらも、顔を少しそむける。
そして翌日。
教室に入ると、またざわざわと女子たちの声が飛び交っていた。
「ねぇ、昨日〇〇と亮くん、一緒に帰ってたでしょ?」
「海まで行ったって本当〜?」
「え、〇〇ちゃん、亮くんとそんなに仲良かったの?」
〇〇は思わず顔を赤らめ、うつむくしかなかった。
ちらりと隣を見ると、亮も席で気づいたようににやりと笑っていた。
(……もう!)
〇〇は心の中で小さくつぶやきながら、ちょっと悔しいような、でも少し嬉しいような気持ちで席についた。
二人の間には、学校ではまだ兄妹みたいに過ごす距離感、でも放課後や家ではほんの少し特別な空気――そんな秘密の時間が確かに流れていた。
第6話
〜完〜