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土下座するモズルフを見下ろすレカーディオの目は、死んだ魚の様に生気がない。
立ち上がったモズルフがそそくさとレカーディオへすり寄り、両手で菓子折りを差し出す。
「この度の不始末、何卒ご容赦下さいませ。こちらはタガヤシ村の名物アカイモ饅頭です。ご賞味下さい」
片眉を上げた勇者の右手が菓子折りに伸びる。だが、その手がピシャリと杖ではたかれる。
「あいたっ!」
「殿下! こんな菓子折り一つで篭絡されるとは、情けない」
杖の持ち主は老齢の紳士だった。太い黒眉と、知的な鳶色の瞳が印象的だ。流線型の帽子からは豊かな白髪が覗く。ローブの袖をまくっているが、室内が蒸すからだろう。
(魔術師ヨタナン。ってことは、彼も勇者本人で間違いないわね)
勇者パーティの正体に気が付いたユミヨは興奮冷めやらぬ様子だ。
「密着取材も結構だが、足を引っ張ってもらっては困る。あの記者が魔物を引き連れてこなければ、皇子が負傷する事もなかったのだからな」
「無論です。皇子殿下には、私共の記者を救って下さり感謝しています」
渋面で説教をかますヨタナンに対し、モズルフが平身低頭で媚びへつらう。
「俺の事を皇子と呼ぶな!」
突然レカーディオが癇癪を起す。身をよじって立ち上がると、ヨタナンに詰め寄った。
「出て行ってくれ。一人になりたいんだ……」
菓子折りを受け取ったヨタナンは、その一つを頬張りつつ頷いた。
***
屋外に出たユミヨは、水場で顔を洗うロコモンと談笑している。その様子を遠目に見たヨタナンが問いかける。
「あの嬢ちゃんは何者だ?」
「あれはうちの新人記者です。今日は実地研修だ」
ヨタナンの問いにモズルフが答える。ヨタナンはアカイモ饅頭を食べ終えると、さらに問いかけた。
「共和連合の軍はまだ動いていないんだな?」
「ええ。だが、軍事演習が完了すれば魔王討伐に動き出すでしょう。うかうかしてられない」
モズルフが額に皺を寄せる。
「ハルヴァード王はかなりの高齢で、遅く生まれた皇子を愛おしんでおられた。魔王と呼ぶには抵抗があってのぅ……」
ヨタナンが悲し気に目を伏せる。
「実際に会って確かめてみるべきかと。相応の理由があるはずです」
いつの間にやら、ユミヨが間近に迫っていた。おじコンビが驚きつつ振り返る。
「嬢ちゃん、立ち聞きするような話じゃないぜ」
ヨタナンがからかい交じりに威嚇する。
「ヨタナンさん、初めまして。新米記者のユミヨと申します」
ペコリと頭を垂れる。
「ユミヨちゃん、ルパイヤ族にはレカーディオの出自は伏せてある。その点よろしくな」
ヨタナンが唐突に、眼下の集落に向かってジャンプする。あっと驚く二人をよそに、魔術師はフワフワと中空を漂いながら下降していった。
魔術師ヨタナンはテントに戻り、丘の上にはユミヨとモズルフが居残った。彼らは盆地状の集落を見下ろしながら話を始める。
「実はヨタナン殿とは幼馴染でね。そのコネを活かして、勇者たちを密着取材している訳だ」
モズルフはポケットから取り出したアカイモ饅頭をユミヨに手渡した。
「ありがとうございます。ヨタナンさんは、ハルヴァード王室付きの家令長。皇子の教育係ですよね?」
「良く知っているね。予習バッチリだ」
モズルフが面長の濃顔に笑みを刻む。
「それでよければ、私も勇者さんの取材をしたいのですが……」
おずおずと切り出したユミヨに対し、モズルフが咳ばらいを返す。彼は人差し指を立てて左右に振った。
「ノンノン、入社したての君には10年早い。顔見せできただけでもありがたく思いたまえ」
と言いつつ、ペンと手帳をユミヨに差し出す。
「この自治区には、遊牧民のルパイヤ族が住まっている。今日一日は彼らの取材をしたまえ」
「取材って……。具体的に何をすべきですか?」
手帳を受け取ったユミヨが、上目使いで問いかける。
「彼らと生活を共にし、現在の暮らしぶりをレポートするのだ。族長に話はつけてある」
と言いつつ、天空の太陽を指さす。
「太陽が落ちてあの山脈に触れる頃、ここに戻ってきてくれたまえ。ではアディオス!」
いつの間にか馬に跨ったモズルフは、後部に乗せた見知らぬ貴婦人と共に颯爽と走り去っていった。
#ファンタジー