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次の日。いつもの通りみんなで出勤して、いつも通り仕事をする。…一人だけ、いつも通りではないヤツもいるが、今日は昨日よりかは”いつも通り”だった。
俺はこの”いつも通り”が好きだ。整えられた秩序、計画性のある暮らし。俺はそれがなにより気持ちよくて、心地が良かった。だから、予想外の事が起きると少しばかりテンパってしまう。
「…ねえ、ドイツ」
だから、俺はこの”イタリア”という国が、いつも一緒に居るけれど、少しだけ、…苦手だった。
突然、突拍子もないことを言ったり、俺には考えられないことをやってのけたり、…一見のらりくらりと軽そうだが、腹の中では黒に染まっていなくてもおかしくない、こいつが。
…なんて、俺は何を考えているんだ。イタリア王国とこいつを重ねるなんて、全く、…。
イタリア王国という国は、ちょっと不思議な国だった。女性をナンパするし、馬鹿っぽいし、パスタが好きだし。…でも、いつだってそいつは”自分の為に”動いた。裏切り国家、なんて言われるが、あれはとても完璧な”自衛”だったのかもしれない。俺達は、…というか。俺は、その昔の記憶から、こいつを疑っている、というか…怖がっている。
いつ、離れていくかわからないから。
「…ドイツ!聞いてる?」
「!!…あぁ、すまん。ちょっと考え事をしていた」
ぎこちない笑顔で対応すると、「まあいつものことだしいいんだけど」とイタリアは慣れたように言う。俺は一回考え込むと集中して周りの事が見えなくなることがある。一回、それで轢かれかけた。
「ちょっとね、ドイツに質問があって」
「…俺に、か?」
「そう。ドイツってさ、….すっごく長い夢、見たことある?」
イタリアは少し口角を上げて、俺にそう告げた。
「…長い、夢….。」
「そう!普通の夢は1日しか経たなかったり、いいところですぐ目が覚めちゃったり、…まず、どれくらい経過したかわかんないときもあるけど。何十年も夢の中で過ごすみたいな、すっごい長い夢。」
俺は何十年の記憶を思い出しながら夢の跡を探った、けれど。
「すまん、俺夢を見ない体質で」
「あーーーー、…確かに、そういわれてみたら見なさそうだね…」
俺は夢を見ない。つまり布団に入れば爆☆睡する派である。…俺の中では希少な夢の中で一個だけ覚えてるやつがあるけど、相当酷いものだったので黙っておこう。誰かに噂ででも伝わったら俺の尊厳が死んでしまう。うん、黙っておこう。
「そんなこと聞いてどうしたんだ?」
「あ、いやね、…ネットで見て気になっただけ。夢で今の精神状態がわkる、みたいな診断よくあるでしょ?」
「あるな、読んでいる雑誌に丁度そんな感じのコーナーがあるんだ。それにしても、そういう系統のやつは夢を見ない側の配慮もしてほしいよなぁ、全く」
「ドイツが健康そうでイオ嬉しいよ」
そうしてふと腕時計を見やると、長針が丁度昼休みの終わりの時刻を示していた。俺は少しコーヒーの残ったマグカップを手に取り、ぐいっと飲み干した。そして席から立つと、イタリアも席を立つ。
「…今日も、無理はするなよ。
疲れたらいつでも、…帰っていいんだからな」
俺がそういうと、イタリアは「うん」とだけ返事をした。きっと、彼はこんな言葉ではまた我慢してしまうことだろう。だけど、俺には、その程度の言葉しか発せられなかった。
何に怖がっているんだろうか、俺は?
…ああ、さっき自分で言ってたじゃないか。
イタリアが離れるのが怖いんだよ、忘れんなばか。