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「レティ!」
「レティシア!」
私とアルフォンス様は彼女に駆け寄り、抱き起こす。
「……気絶してるな」
呟いたアルフォンス様は溜め息をつき、レティを抱き上げると広間の外へ運ぶ。
私も彼女が心配なので、ついていった。
彼は扉を二つ通った所で彼女を下ろし、魔術でクッションを出すと頭を支える。
「魔石を落ち着かせないとならないから、もう一度行ってくる」
「私も行きます!」
聖女に呪いを解いてもらおうと思った案は失敗に終わったけれど、二人で案を出す事はできるかもしれない。
なかなか訪れられる場所ではないから、この機会を無駄にしたくなかった。
(聖女じゃない私にでも、できる事はあるかもしれない)
再び魔石のもとに行くと、石は最初に部屋を訪れた時よりうなり声を大きくさせていた。
「……怒ってるみたいですね」
思った事を口にすると、アルフォンス様は溜め息をついて頷いた。
「あながち間違いではないかもな」
「……と言いますと?」
尋ねると、彼は表情に疲れを滲ませて言う。
「これは魔王が人間と契約するために作った魔石だ。だから創造主の意志を反映していると言っていい。己を害そうとする者がいれば、カウンターで自分を守るぐらいだしな。……昔の皇帝が大量虐殺を行った時、指輪についている石は喜ぶように輝いていたと言われている」
「……使命を持った魔石なら、命令に添った反応をするのでしょうね」
私は顎に手をやり、ジッと魔石を見る。
「害意を持って攻撃すれば跳ね返すとの事ですが、害意がなければどうなのですか?」
質問すると、アルフォンス様は魔石に近づき、無防備にそれに触れた。
「この通り、まったく問題ない」
「えー……。……ちょっと触ってみたいです」
私は興味津々で魔石に近づき、恐る恐るそれに触れてみた。
「あっ……」
ヒヤリとした表面に触れた瞬間、掌から何かをズズズ……と吸い取られる感覚を味わい、私はパッと手を放す。
「あちらから攻撃してくる事はないが、触れたら負の感情を増幅させられる」
言われた通り、私は今までのレティの言動を思いだしてモヤモヤを強めている。
「気合い!」
負けたくないと思った私は、両手でパンパンッと頬を叩く。
自分の意思でモヤモヤするならともかく、魔石に心を操作されるなんて絶対に嫌だ。
アルフォンス様は私の様子を見て毒気を抜かれたような表情になり、「あまり強く叩くと、頬が赤くなってしまうぞ」と笑った。
そのあと私たちはしばらく魔石を見守り、考えた。
「……ちょっと、試してみていいですか?」
私はインビジブルハンドを発動させ、魔石に触れてみる。
生身の手で触れて魔石の影響を受けるなら、これならどうか、と思ったのだ。
「……あ。大丈夫みたい」
自分の手の延長で石に触れる感覚はあるけれど、先ほどのズズズは感じない。
私はしばし、魔石をペチペチしていたけれど、確認は終わったので魔術を解除した。
「……アルフォンス様、つらいですか?」
尋ねると、彼は小さく笑った。
「常に指輪を身につけているから、慣れている」
「以前、『ほぼ影響を受けていない』と仰いましたけど、やはりさっきのような負の感情を増幅させられる感覚を、常に味わっているのですか?」
心配になって尋ねたが、彼は表情を変えずに言った。
「確かにここ数年、ずっと心が晴れない。色々と頭の痛い問題がある事だしな。しかし制御できる範疇ではある」
まだ魔石の影響が少ないとはいえ、やはり心配だ。
「……カール様は三十一歳の時から指輪と付き合い続け……、退位するまで十七年、魔石の力に耐え続けてきたのですね」
どんなに健康な人でも、強制的に負の感情を植えられ続ければ、誰だって病んでしまう。
いつもなら気にしない事も、必要以上に心に残って疑心暗鬼になるだろう。
そのうち、味方だと思っていた人すら疑い、周り全員が敵だと思うようになる。
加えてカール様の心の底には、クラウディア様を喪った悲しみがある。
心の傷があれば、呪いはそこを狙うのだろう。
(……本当に卑怯な力だわ)
私は心の中で呟き、グッと拳を握る。
「父上がどれほどの呪いに晒されたか、想像に余りある。賢帝と呼ばれた方が忠臣を怒鳴り散らし、周囲の者に対して『私の悪口を言っただろう』と疑心暗鬼になる姿を見るのは、本当につらかった」
アルフォンス様は悲しそうに呟き、視線を落とす。