テラーノベル
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嫉妬はそのまま、底の見えない深い自己嫌悪へと形を変えた。自分のような者が、あんなに美しい人を独占しようだなんて、手元に置いておきたいだなんて。
そんな望みを抱くこと自体、おこがましいにもほどがある。彼女は、もっと広い、眩しい世界で愛されるべき存在なのだ。
ふと、白石さんと目が合った気がした。
彼女が僕を見つけ、その頬をわずかに赤らめて微笑んだ。だが、その笑顔さえも、今の僕には残酷なまでに眩しすぎた。 僕たちは今、同じ地面の上に立っているはずなのに。
僕と彼女の間には、決して超えられない「住む世界の違い」という、深くて暗い断絶が横たわっていた。
「休憩入ります! 次の撮影は十六時からです!」
美咲の鋭い声が、広場を支配していた熱狂に区切りをつけた。
白石さんは、美咲から手渡された大きなパーカーを羽織り、その神々しい「女神」の姿を布の下へと隠した。
美咲とともに人混みを避けるようにして去っていく彼女の後ろ姿を、僕はただ、遠い世界を眺めるような心地で見送った。
多くの視線を独占していた彼女がいなくなった広場には、祭りの後のような虚脱感と、逃げ場のない真夏の湿った熱気だけが取り残されていた。
***
白石さんが自身の同人誌を販売しているブースで待っていると、着替えを済ませた彼女が戻ってきた。美咲は自分の化粧直しと、次の撮影の準備終えてから後で来るらしい。
「陽一さん。……さっきの私、どうでしたか?」
白石さんが、不安げに僕を見つめる。
「……すごく、綺麗だった。けど……」
こんなこと言わないほうがいいのに、一度溢れ出した卑屈な本音は、止められなかった。
「白石さんは、やっぱり僕とは、住む世界が違うんだと思った」
「……え?」
「あんなに大勢の人に囲まれて輝いている白石さんを見て、確信したんだ。僕みたいなモブが白石さんの隣にいるのは、分不相応で……もっと華やかで、眩しい世界がお似合いだと思った」
白石さんの表情が、一瞬で凍りついた。彼女の瞳に、大粒の涙がみるみるうちに溜まっていく。彼女は、唇を噛み締めた。その震える肩が、彼女の痛みを物語っているようだった。
「……ひどいです。陽一さん、あまりにもひどすぎます」
「白石さん……?」
「私が、誰のために、こんな恥ずかしい格好をしたと思ってるんですか……っ!……陽一さんが好きな推し(ゲームキャラ)の姿になれば、もっと私を見てくれるんじゃないかって ……」
賑やかな会場の中で、二人を囲む空気だけが、修復できないほど冷たくひび割れていた。 白石さんは自分の描いた同人誌を抱えたまま、僕に背を向けて走り出した。
「白石さん!」
「ついてこないで!」
彼女の背中は、あっというまに人混みの中に消えていった。
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