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#ワンナイトラブ
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叩きつけるような激しい雨音が、かえって室内の静寂を際立たせていた。
玄関のドアが閉まり切る音さえ待てず、どちらからともなく唇が重なる。冷え切った肌とは対照的な、口内の熱。彼の体温が私を甘く塗りつぶし、思考は白く、ただ霞んでいく。
頬を包み込む彼の掌。その指先が、熱を帯びた首筋をゆっくりとなぞる。私は、震える吐息を漏らすことしかできなかった。逃げ場を塞ぐように、背中が冷たいドアに押し付けられる。濡れて肌に張り付いたスカート越しに伝わる、彼の太腿の硬さ。
「……もう、逃がさない」
掠れた低い声が鼓膜を震わせた。私はしがみつくように彼の首に腕を回す。彼の逞しい胸板に閉じ込められ、私は抗いようのない衝動の深淵へと、まっさかさまに突き落とされていく――。
***
「……描写の熱量は認めるわ。でも、これ最初から最後までこの体位(ポーズ)で行くわけ?」
東京ビッグサイトの一角、同人誌販売区画のブースでは、ひよりの軍師であり戦友の真帆が、眼鏡を指先で押し上げ、タブレットに映し出された新作の原稿を厳しくチェックしていた。
「雨に打たれた二人が、衝動を抑えきれずにドアの前で……。構図はいいけど、女の子の体重を腕と腰だけで支え続けるのは、並大抵の筋力じゃ無理よ。これを維持するなら、相手は相当なスタミナを持った『理想の男(スパダリ)』だって描写を入れて、読者に納得させないと」
隣のサークル仲間が「あ、確かに。現実だと数分で腕がプルプルしちゃいますよね」と苦笑いを漏らす。
その時だった。
「……真帆……。う、ううっ……」
現れたのは、目を赤くして、今にも泣き崩れそうなひよりだった。