テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
アルマデル・オンライン、崩壊都市エリアにて。
ひっくり返ったカメ型の汚染獣、タートクスを斬り刻みながら。
輝夜は、考え事をしていた。
このゲームを始めて、自分に訪れた心境の変化。
最近やたらと、”気分が良い”ということ。
アルマデル・オンラインは、非常にシンプルなゲームである。化け物を殺して、その素材で自分を改造して、また化け物を殺して、やっていくことはその繰り返し。
”過剰現実”という名の通り、体感としては本当に戦っているのと変わりがなく。敵をなぶり殺しにする感覚も、恐ろしいほどにリアルである。
ゲームの難しさと、リアル過ぎる残酷描写。そのため、アルマデルは非常に人を選ぶゲームである。
しかし輝夜にとっては、”最高のストレス発散法”となっていた。
5年間の入院生活と、思い通りに動かない体。それによって溜まったストレスと、”暴力的衝動”。
弟を定期的に殴りたくなるのも、おそらくはそれが原因であろう。
現実の肉体では、暴力行為を行うことが出来ない。法律どうこうは関係なく、身体が脆弱すぎるがゆえに。
もしも人並みの身体能力があれば、すでに弟を屈服させているはずである。それだけの行動力が、輝夜にはある。
ただ、心に体がついていけないだけ。
だが、そんな暴力衝動も、最近は収まりつつある。
剣を振るって、敵を殺す。殺した死体を蹴る。思いっきり蹴る。これでもかと蹴る。それによって、輝夜の精神状態は安定していた。
この世界でなら、思い通りに体を動かせる。
「ふははは!!」
「あの、スカーレットさん。解体できる部位が……」
タートクスの死体蹴りをする輝夜を、ヨシヒコが止めに入る。
そんな彼の背中には、”巨大な翼”が装着されていた。
アーク・バイドラが討伐されると。
その汚染がフィールドに”拡散”し、通常種のバイドラが現れるようになった。
バイドラの素材から製作できるのは、翼の形をした飛行用パーツ。
これの登場により、アルマデル・オンラインの世界は新たな領域へと足を踏み入れた。
とはいえ、一般に普及するようになったのは、通常種の飛行用パーツに過ぎない。
特殊個体の素材によってのみ製造可能な、”この世界に一つだけの翼”。それを得る権利は、No.1アタッカーの輝夜にあったのだが。
なぜか今現在、その翼はヨシヒコの背中に装着されている。
「でも、本当に良かったんですか?」
「……何がだ?」
自転車和尚
661
#転生
高天原ヒロ
2,995
高天原ヒロ
13
#かぐや姫
相舞藻子
2,694
汚染獣の解体はヨシヒコに任せて、輝夜は死体の上で寝っ転がる。
「このウィングパーツですよ。特殊仕様で、性能も凄いのに。」
「いいんだよ。射撃型のお前が使えば、戦闘も有利だろ? それに、わたしはそれが無くても十分強い。」
「確かに、そうですけど。」
せっかくの飛行用パーツを、輝夜が譲渡した理由。
ヨシヒコの戦力アップというのは、確かに理にかなってはいるが。
「もう少しだけ、”チャレンジ”してみませんか?」
「……そう、だな。」
それには、悲しい事情があった。
『新しいパーツを確認しました。』
ヨシヒコの外した翼を、自身の背中に装着して。
輝夜は深呼吸をする。
「よし。」
勢いよく翼を広げ、大空へと羽ばたこうと。
するものの。
「ぬあっ!?」
地面から離れた直後に、輝夜は思いっきり体勢を崩し。
逆さまになりながら、顔面が地面に衝突。
ガリガリと地面を削っていく。
しかも、その状況でも翼の動きは止まらず。
物凄い勢いで、顔面が地面に叩きつけられていき。
グシャリと、首がへし折れた。
「スカーレットさーん!!」
ボスを倒した証。
他より優れた性能。
空を飛ぶことへの憧れ。
翼を手に入れた時は、それはもうウキウキであった。
だがしかし。
”どうやって、羽根を動かすんだ?”
空を飛ぼうとして、輝夜が最初に思ったのはそれであり。
今現在においても、答えが出ていない。
オンラインゲーム等で、新たな要素が追加された場合。普通ならそれに対する説明が行われるはずである。
だが、このゲームにそんな親切心は存在せず。やってみろとばかりに、翼を与えただけだった。
そして、輝夜が丸一日訓練に費やして。
その成果が、先程の顔面クラッシュである。
輝夜は、これをゲームの不具合だと思い、ヨシヒコにウィングパーツを貸したのだが。
驚くことに、ヨシヒコは”一発”で飛行に成功した。
まるで、元々翼を持っていたかのように。
それほどまでに、自然で鮮やかな飛行を披露した。
――はぁ〜
そして、輝夜は過去最大のため息を吐き。
ヨシヒコに翼を譲ったのであった。
◇
廃墟の上で、輝夜とヨシヒコは雑談をする。
「それにしても、明日のオフ会、楽しみですね。」
「そうか? 正直、行っても楽しくないと思うぞ。」
明日行われることになった、白銀同盟のオフ会。
姫乃で行われる事もあり、ヨシヒコはすでにテンションが上っていた。
しかし、輝夜は興味すら示さない。
「なんでそんなこと言うんですか。スカーレットさんが、一番の立役者じゃないですか。」
「いやまぁ。そこは正直、どうでもいいんだが。」
輝夜が気にしているのは、もっと根本的な部分。
――実は僕、友達が一人も居なくて。
”この哀れな坊や”が、果たして本当に馴染めるのか。
「……まぁ、行けたら行くよ。」
「そんな。絶対に来てくださいよ。」
「はいはい。」
このところ、輝夜の心には”ゆとり”があった。足が折れて、学校に行くことが出来ないものの。それ以外の部分では不満がない。
学校から送られてくる課題も、”実質2周目”なので簡単に終わる。動けないことでストレスは溜まるが、ゲームで十分に発散できている。
ゆえに、今の輝夜にはゆとりがあり、他者に意識を向ける事もできた。
ヨシヒコ。
一緒にプレイを始めて一週間。若干ビビリだが物覚えは良く、一緒に居て不快な気持ちにならない。そしておそらくは、同年代の少年。
ゲーム仲間としては、これ以上無い相手である。
未だ、リアルで顔を合わせたことはないが、”だからこそ”信頼ができる。
(……様子だけでも、見に行くか。)
果たして、孤独な少年に友達は出来るのか。
輝夜は、重い腰を上げることを決意した。
◆◇
プレイヤーネーム、ヨシヒコ。
チャームポイントは、目元を隠すほどの前髪。
本名、花輪善人は困っていた。
(……どうしよう。)
クラスメイトと話すきっかけ、あるいは友達をつくるために始めたゲーム、アルマデル・オンライン。
紆余曲折を経て、白銀同盟という新設されたクランのオフ会にやって来たのだが。
その会場の隅っこで、善人《よしひと》はうつむきながらスマホを弄っていた。
別に、弄る必要があるわけではない。ただ、今の自分に出来る行為が、それしかないだけ。
(思ってた感じと、なんか違う。)
オフ会が行われているのは、カラオケ店のパーティルーム。
薄暗い照明にミラーボールと、善人はそれだけで気が引けてしまう。
他のメンバーは、リーダーを中心としてカラオケで盛り上がっていた。
テーブルの上に置かれているのは、”お酒やタバコ”。
初めの自己紹介の時に、善人以外にも”未成年”が居たはずだが。他のメンバーに流されてか、普通に手を出してしまっている。
”そういうノリ”のオフ会。
もはや、大学生の新歓コンパである。
(……やっぱ、お酒を断ったのが。いや、自己紹介がマズかったのかな。)
善人は、まったくもって馴染めず。
すでに来たことを後悔し始めていた。
「てか、結局男だけ?」
「あぁ。ほとんど集まってるけど、見事に全員男だわ。」
メンバーたちは、そんな会話を口にする。
「やっぱ、ユグドラシルのアバターは糞だな。」
「いや、お前もネカマだろ?」
「しゃーない。女はこのゲームやんねーもん。」
何人かが、そんな話をしていると。
扉を開け、遅れてきたメンバーが部屋にやって来る。
「――すみません。ここって、白銀同盟のオフ会で合ってます?」
電動の車椅子に乗った、黒髪の美少女が。
「……なんだろ。」
隅っこにいた善人にも、その異変は感じ取れた。
未だにカラオケが流れているのに、誰も歌わず。ドアの方に参加者たちが集まっている。
(デザートでも、来たのかな。)
無論、そんなわけはないが。
ピュアな善人には、それくらいの想像力しかなかった。
目を凝らして見てみると、どうやら車椅子に乗った女性がやって来たらしい。
薄暗い照明のせいで、ほとんど顔は見えないが、それくらいは判別できる。
(女の人でも、こんな怖いゲームできるんだ。)
女性の参加者。それに対して、興味がないわけではないが。
自分とは話すこともないだろうと、善人はスマホに視線を戻す。
(……スカーレットさん。あと、アモンさんは?)
頼みの綱は、ゲーム内で交流がある2人のプレイヤーのみ。
だがしかし。
『悪いね。実は僕、結構遠いところに住んでてね。そっちに行くのは、物理的に不可能なのさ。』
アモンは、そもそも不参加。
スカーレットに関しては、メッセージに返信すらない。
「……はぁ。」
孤立無援、おまけに馴染めない最悪の状況で、善人はため息を吐いた。
「――こほこほ。すみません、わたし喘息持ちで。タバコの煙とかが苦手なんです。」
「えっ、そうなの?」
わざとらしく、車椅子の少女は咳をする。
「隅っこの方で、少し休憩させてください。」
そう言って、少女は車椅子を動かし、部屋の隅へと向かっていく。
「あっ、飲み物とかは?」
「結構でーす。」
半分真顔になりながら、少女は部屋の隅へと。
善人の側へとやって来る。
「え。」
「はじめまして。」
目の前にやってきた車椅子の少女。
”紅月輝夜”に、善人は言葉を失う。
どこかで、見たことがあるような。
学校というか、トイレというか。
「あっ、入学式の日、男子トイレで――」
「”はじめまして”。」
善人の言葉を、輝夜が遮る。
強い言葉と、突き刺すような視線で。
「わたし、足を怪我しているので。座るのを手伝ってくれませんか?」
「あっ、はい。」
善人に支えられながら、輝夜は席に座った。
隣に女子が座ったことで、善人はなおさら緊張し。
スマホを弄るでもなく、うつむいてしまう。
そんな様子を、輝夜はじーっと見つめており。
善人はなおさら緊張してしまう。
「あ、あの。」
「お気になさらず。わたしは休憩してるだけなので、どうぞスマホを弄ってください。」
「は、はい。」
輝夜に促され、善人は再びスマホを弄りだす。
とはいえ、元々意味もなく弄っていただけなので、非常に困ってしまう。
相変わらず、スカーレットからは連絡もない。
「あなたは、他の人と楽しまないんですか?」
「いや、その。……ちょっと、」
頭が、真っ白になってしまう。
馴染めない空気に、やってこない仲間。
どこか見覚えがあるような、黒髪の美少女。
スマホを持つ手が、震えていた。
「だから言っただろ? 面白くないって。」
「……え。」
口調が変わった輝夜に。
善人は、ある名前が頭に浮かぶ。
「スカーレットさん!?」
「はっ、こっちはすぐに分かったぞ。お前は見るからにボッチだからな。」
輝夜は、機嫌良さげに笑う。
「……それで、馴染めてないのか?」
そう尋ねながら、輝夜は置いてあった飲み物を口にする。
「あの、それ。僕のコーラ。」
「気にするな。」
輝夜は、コーラを飲み切った。
「ここまで来るのは大変だったぞ? うちの使用人は朝から留守だし、タクシーの乗り降りはしんどいし、スマホは家に忘れるし。」
電動車椅子を用いての、初めての外出。
それはもう、踏んだり蹴ったりであった。
「で、このオフ会は楽しいか?」
「……えっと、その。」
善人は言葉が見つからない。
「このオフ会が、というよりも。僕自身が、駄目な気がして。」
「なるほど。」
輝夜は頬杖をつき、善人の話に耳を傾ける。
「僕が思ってたのと、雰囲気も違うし。」
「お前、想像できなかったのか? 集会の時の様子からして、このクランは”こういう雰囲気”だろ。確かにお前と同じで、”出会い”が目的かも知れんが。お前の求める出会いと、こいつらの求める出会いは違うんだよ。」
「……そういう、ものですか?」
「ああ。友達が欲しくて、背伸びするのは結構だが。そこまで無理する必要はないと思うぞ? もっとこう、身近なクラスメイトに声をかけてみるとか、挨拶をちゃんとするとか。」
紅月輝夜、15歳。精神年齢的には、三十路に近づきつつあるため。
悩める少年に、慣れないアドバイスを送ってみる。
「……ならスカーレットさんは、どうしてゲームを?」
「わたしは単なるストレス発散だよ。ご覧の通り、”あれ以降”自由に動けないからな。」
あれ以降、とは。
この2人だけが知っている、秘密の出来事。
「それじゃあ、わたしはもう帰るよ。ここはタバコ臭くて最悪だ。」
◇
「えっ、帰っちゃう?」
「はい。やっぱりどうしても、こういう場所だと症状が悪化しちゃうみたいで。」
自分が抜けることを、輝夜はリーダーに説明する。
話を円滑に進めるために、こういう場合は敬語を使う。
「いや。何なら、会場を変えてもいいけど。」
「そんな、迷惑はかけられませんから。」
会話が続くたびに、笑顔の仮面が崩れていく。
「じゃあ、僕が送っていくよ。車椅子じゃ大変だろうし。」
「いえ、それもちょっと。」
過度のストレスで、まぶたがぴくぴくと動き始める。
すると、
「あの、スカーレットさん!」
意を決した様子で、善人が駆け寄ってくる。
「――よかったら、僕と一緒に。あ、甘いものでも、食べに行きませんか?」
ひどく緊張しながらも、善人はそんな提案をし。
輝夜は、思わず微笑む。
「あー、いやいや。彼女さ、マジで気分悪いみたいだからさ。きみ、空気読もうよ。」
他のメンバーが間に入るも。
もう善人は止まらない。
「大丈夫です! 彼女は、僕の”クラスメイト”なので。」
言われた通りに、勇気を出してみる。
「ふっ。」
輝夜は、思わず笑った。
「なら丁度いい。車椅子を押してくれないか? バッテリーの節約になる。」
「わかりました。」
そんなこんなで。
善人が輝夜の車椅子を押し、2人は別のお店へ向かうことに。
正真正銘、ゲームのオフ会を行うために。
「というかお前、わたしと同じクラスなのか?」
「あ、はい。紅月さん、ですよね。ずっと欠席してる。」
「ほぅ……」
始まりは、学校のトイレ。
二度目の出会いは、ゲームの中で。
運命の歯車が、ようやく回り始めた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!