あれから文化祭の準備が忙しくて、
日比野と帰る日も少なくなったし、
会話できるタイミングが無いまま文化祭当日になってしまった。
「文化祭を一緒に回るの…明日で良いかな?」
下駄箱で顔を合わせた日比野に言われて、
ちゃんと覚えていた事に安心する。
文化祭は二日間。
最終日には風船を飛ばすイベントなど…
盛り上がりは初日よりある。
そりゃあ私だって告白するなら最終日と思っていたし…
「良いわよ、明日ね」
妙に緊張して偉そうに返してしまった。
私の悪い癖だわ…
ん?じゃあ日比野は…
「今日は誰と回るの?」
もしかして梨里杏ちゃんと…?
不安で眉を寄せる私を見た日比野が、首を傾げる。
「竜太と北野君だよ」
「…北野も居るのね」
「あ、柏木さんも皆と一緒に回る?」
「ううん、大丈夫」
いつものメンバーで安心した。
そして、北野が居るなら私は混ざらない…
絶対に。
「今日は里奈と、日比野のクラスのお化け屋敷に行くわね」
「うん、結構リアルだから覚悟してね」
少しだけ微笑んだ日比野を見て、
心臓がギュッとなる…。
日比野が好き…すごく好き。
もしも
婚約解消したいって言われたら…
好きな人が出来たって言われたら…
私はどうしたら良いのだろう…。
私のクラスはチョコバナナの販売。
午前中から混んでいる…。
「桜子、キッチン代わるから販売お願い」
里奈の指示を聞いて、
あからさまに顔を顰めてしまった。
「私、販売は苦手よ?」
「桜子が売り子だと、お客さんが喜ぶの!」
「そんな事は「あります!さ、行って!」
私の言葉を遮って里奈が力強く言う。
もう…強引なんだから。
渋々売り場に出たタイミングで…
「桜子ちゃん!エプロンが可憐だ‼︎」
北野が店に入ってきた。
「うえ、北野」
「その反応ひどい!!」
本音がポロリ…。
非難する北野の後ろに、
寺島君と日比野が居た。
そっか…三人で回っているのよね。
「…柏木さん売り子なんだね」
「そうよ?」
「エプロン可愛いね」
「っ!!」
クラスの文化祭委員が決めたエプロンは、
ピンクのフリルデザイン。
趣味が悪いと思っていたけれど、
日比野に褒められると嬉しいわ。
「柏木さん、顔が赤い…熱?」
「あ、赤くないわよっ‼︎」
「樹…お前の天然は罪深いぞ」
私達のやり取りを見ながら、
飽き飽きしたように呟いた寺島君は、
「チョコバナナ3つ下さい」
と、話を変えるように注文をした。
寺島君って空気が読めるし、
本当に良い人だわ…。
「里奈!チョコバナナ3つ」
「はーい!って日比野君達だぁ」
チョコバナナをひたすら作っていた里奈が顔を上げて、明るい声を出す。
「日比野君のクラスはお化け屋敷でしょ?いつクラスに戻るの?」
「もうすぐ交代の時間だから、これを食べたらかな」
「良かった!私達はもうすぐ自由時間なの!お化け屋敷、楽しみだね桜子っ」
「え?…うん」
「日比野君と寺島君のお化け姿、早く見たい!」
「日比野のお化け姿…?」
そっか…日比野もお化けに…。
見たいわ…すごく見たい!
「それなら僕も一緒に」
「北野君はこのクラスでしょ?私達と交代よ」
ハキハキした里奈に、
バナナとエプロンを渡された北野は、
ガッカリした顔をしてエプロンをつけた。
自由時間
私と里奈は、最初にお化け屋敷に向かう。
「日比野君と寺島君のお化けかぁ…想像するだけで笑える」
「…どんなお化けかしら」
「驚いた拍子に日比野君に抱きついちゃえば?」
「ちょ、里奈ったら!」
からかう里奈に頬を膨らませる。
里奈ったら私の恋路を楽しんでいるわ…。
こっちは、ちっとも笑えない!
「え…ここ?」
里奈の声に顔を上げると、
日比野のクラスは、
入口から不気味な装飾をしていて、
中が分からないように、
黒い布で窓を塞いでいた。
意外と本格的…
しかも大盛況でお客さんが並んでいる。
そして…
「さっきから悲鳴が聞こえない?」
「学生が作ったお化け屋敷だと思って油断した」
里奈の意見に同意。
思っていたよりクォリティが高い。
並んでいる時間で緊張が増してきた。
いつの間にか自分達の番…
列の先頭になって、ようやく受付が
ゾンビメイクをした寺島君だと気が付いた。
「あれ?寺島君は脅かさないの?」
「今日は受付!中には楓がいるよ」
「日比野もゾンビ?」
「それは見てからのお楽しみ〜」
ニヤリと笑った寺島君は、
お化け屋敷のカーテンを開けて
私達を中へと促した。
教室に入ると真っ暗闇。
時折、前列の悲鳴と唸り声が聞こえる…。
「桜子…私、無理かも…怖い」
「私だって怖いわよ、あ!ちょっと押さないで!」
後ろから里奈に抱きつかれて、
暗闇の中…思い切り前に飛び出した。
瞬間
「タ…ス…ケテ」
青いライトに照らされた、
長い黒髪で白い顔の女の人が目の前に…
「ぎゃあああああ!!!!」
「り、里奈!?」
驚き過ぎた里奈が、
そのまま後ろにひっくり返る。
「ちょ、里奈っ!」
「やだ!里奈ちゃん大丈夫!?」
「あ…」
梨里杏ちゃん…!?
このお化け、梨里杏ちゃんだったの?
黒髪のロングのウィッグに、
白塗り、唇は紫、目には隈…
メイクが凄い…全く気付かなかった。
驚き過ぎて、反応出来ないでいると、
前方から聞き慣れた声…
「柏木さん…大丈夫?」
「…日比野?」
キョンシーだ。
暗闇から現れた日比野は、
キョンシーになっていた。
中華風の服に死人メイク…額にお札。
「可愛いわ…」
「柏木さん、そんな事より」
「そうだよ里奈ちゃんが!」
日比野と梨里杏ちゃんの言葉に振り返ると、
泡を吹いて気絶している里奈がいた。
「本当ごめん!せっかくの文化祭なのに」
「気にしないで里奈…それより大丈夫?」
「うん…大丈夫…ってか恥ずい」
あれから私と日比野で、
里奈を保健室まで運んだ。
すぐに目を覚ました里奈は、
終始恥ずかしそう。
「怖くて気絶とか…消えたい」
「そんな事ないわよ、可愛いわよ」
「うぇ〜ん!桜子〜!!」
抱きつく里奈の背中をヨシヨシする。
そんな私達を見て…
「怖くて気絶するって本当なんだね?実際に見れて嬉しいよ」
「日比野、うるさい」
変な所で感動している日比野に一喝。
そんな言葉が聞こえていないのか、
里奈は涙目で私の袖を掴んだ。
「明日の文化祭は、桜子も日比野君も二人で楽しんでね!今日よりいっぱい楽しんで!」
その発言に思わず私と日比野は、
目を合わせる。
明日、私達は文化祭を楽しめるのかな?
期待と不安で胸がドキドキした。
コメント
7件
桜子ちゃんのツンデレ具合がかわいいw続き楽しみにしてます!!!
相変わらず柏木さんは北野くんに対して冷たいですね……😂😂 寺島くんは日比野くんと柏木さんの恋のキューピットなんですかね👼💕💭 え、里奈ちゃん大丈夫ですか!?いや、本格的なお化け屋敷だったら私も99%の確率で気絶しそうですけど……💦 日比野くんと柏木さんが2人で文化祭回るの楽しみです✨