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ふぃる汰
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篠宮真宵
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羽海汐遠
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【注意】
・嘔吐、虐待表現などを含みます
・この物語は、実在する個人・団体とは関係ありません
・CP要素などはございません
*
……懺悔します、我が神よ。私は──
……えぇ、聞いております。落ち着いて、ゆっくり話してください。
……我々を導いてくださいますか?
……もちろん。
神は、あなたの魂を導いてくださるでしょう。
……お救い下さい、我が神よ!
私はとんでもない大罪を犯してしまいました!
……はい。聞いております。
まだ、聞いています。聞かなければならない。
この先も、きっと。
*
【過去編】
Episode1.君は神様
その教会には、昔から信仰されている伝承上の神の存在があった。『光の神』フォス・パンドラ。人々は彼の光が自身を導いてくれると考え、光の神を厚く信仰していた。
そんな新興宗教の指導者である夫婦の元に、ある時子供が産まれてくる。その子供は綺麗な金髪を持ち、更には左右で色の違う瞳を持っていた。それらが伝承で伝わる光の神の特徴と同じことから、『再び火をつける』『再び明かりをつける』などの意味を持つリライトと名付けられた。
「……ぼくの前に、かみさまが居るんです」
「あれは、みなさんは見えていないんですか?」
それはリライトが10歳の誕生日を迎えてすぐのことだった。教会の指導者になるべくして産まれてきた少年は、その時には既に敬語を使うようになっていた。
ある時、リライトは母に相談する。最近、“神様”に出会うのだと。毎晩の夢の中で、はたまた誰も居ない街の路地裏で。そこで、リライトはその神様から様々な話を聞いた。
「かみさまは、ぼくに色々な話をしてくれます」
『神の声が聞こえる』という異常性を、当時のリライトは異常だと思っていなかった。子供の頃から『神の心が聞こえるのは、修行により神へと心が近付いた証である』と言われていたから。
無意識にも心のどこかで神の声など聞こえないと思っていた大人達は、そのリライトの言葉を聞いて驚くと同時に歓喜した。
母は言う。
「それは貴方が神に選ばれたからよ」
大好きな母からそんな言葉を聞いたリライトは、嬉しそうに顔を上げた。
──それが、地獄の始まりだとも知らずに。
*
『神の声が聞ける子供』の噂は、教団内で瞬く間に広がっていった。何せ、彼が産まれた時から、金髪と色違いの瞳を持つ子供が居るという情報は何人もの信者に知られていたのだ。
程なくして、彼の元には何人もの信者が訪れるようになる。
最初は小さなことだった。教会の懺悔室で打ち明けるような懺悔を、年端もいかない少年に打ち明ける。もちろんリライトには理解できない事柄もあった。しかし、リライトは毎日懺悔室の椅子に座り、扉一枚隔てた先の信者達の声を聞く。
「……神は、あなたの罪を許します」
告解者の言葉を聞いて、神の言葉も聞く。告解者達の悩みや罪の内容は、彼にはまだ少しだけ難しかった。
リライトの存在が広まってからというもの、教会の懺悔室に足を運ぶ人が圧倒的に増えた。神からの許しを乞い、毎日やって来る者も居た。献金の額が明らかに跳ね上がった。神の声を聞ける少年のために、ということらしい。
その事実に気付いた両親は、欲に目が眩んでしまった。リライトの思いも知らずに。
「あの……お母様、どういうことですか。僕に教会を継がせるって……」
「そのままの意味よ。貴方には指導者としての才能があるの」
信者が前年と比べて倍以上に増えた、ということが分かった年の春。それまで教会の指導者はリライトの父だったが、その座をリライトに引き継がせた。リライトは当時13歳。本来引き継ぎはリライトが20歳になってから行われる予定だったので、想定より7年も早い。両親は、リライトのサポートに徹した。
「私が皆様を……導きます……」
その日、リライトは初めて一人で教壇に立った。指導者としての立ち振る舞いを、父がリライトへと教え込んでいたのだ。
「声が小さい。もっと大きく、ハキハキ喋るように」
「はい、お父様……」
父の教え方は厳しい。仕事や父との練習の合間の休憩時間、リライトは父のようにはなれないと何度も思った。威厳ある指導者としての立場に、こんな自分は相応しくないと。
それから数日後の晩、リライトは両親に言った。
「お父様、お母様。僕には指導者なんてとてもできないです」
母が何が言いかけて口を開いたが、それよりも先に父が立ち上がった。
そして、リライトの頬を手のひらで叩いた。
父の怒声がリビングに響き渡る。
「誰が指導者の座を譲ってやったと思っている!」
「そもそも、お前の眼は気味が悪いのだ!色違いの目など!」
感情に身を任せてリライトへ怒る父に、そんな父を何とか宥めようとしている母。その様を見てしまっては、指導者の座を引き継ぎたくないなどと言えるはずもなかった。
父から叩かれた左頬がじんじんと痛みを伴う。両親から暴力を振るわれることは生まれて初めてだった。
……色違いの目は、気味が悪い。
*
「……おや?」
教会のすぐ近くにある泉、白光の泉には天界から訪れた天使が門番をしているといつも話題になっている。今リライトの目の前に居る少女も、その話題に上がる天使のうちの一人だ。見た目が幼い上にまだ見習いだという本人の言葉から勘違いしそうになるが、リライトよりもずっと長い時を生きている。
「どうされましたか?僕の顔に何か着いていますか?」
「えぇ、白い眼帯が」
少女、シエル・ネレイスが顔を上げた。星を宿したかのような綺麗な金色の瞳と、眼帯に覆われて片方だけになったリライトの瞳が合う。父の「色違いの瞳など気持ち悪い」という言葉に、リライトは今朝白い眼帯で右目を覆ったのだ。視界にはなんとなく違和感があるが、業務に支障はない。
……信者達からは、勿体ないと言われていた。眼帯をつけたリライトの姿は、皆が彼に重ねている光の神の姿とかけ離れているのだろう。
「ふふ、その姿もお似合いですよ」
少しだけ困ったような表情をしているリライトに対し、シエルはそのように言った。「残念」でも「勿体ない」でも「気味が悪い」でも何でもない、ただ今の姿そのものも肯定する言葉。今までかけられてきたどの言葉とも違うそれが、今のリライトには心地よい。
少し照れくさくなったリライトは、書類で口元を隠しながら笑う。その書類の下では、嬉しそうに頬が緩んでいた。
「そうですか……?ありがとうございます」
それから仕事の話の合間に少しばかりの談笑をしていると、シエルがそろそろ次の仕事の時間だと言ってどこかへ行ってしまった。天使見習いは忙しいものなのだろう。引き止めておくのも悪いと思ったリライトは彼女を見送ると、その足で教会本部へと戻っていった。
そろそろ、またあの窮屈な時間だ。
*
あの日から、父親は少しずつリライトに対する態度を変えてきた。
指導者として教壇に立つための練習をする時も、以前にも増して厳しくなっていた。引き継ぎ式まで時間が無くなってきたからその気持ちも分かるし、それだけならまだいい。しかし、問題はもうひとつある。
それは、父にとって気に入らないようなことがあると、リライトに暴力を振るって八つ当たりするようになったという点だ。
「ほら、早く立て」
父とリライトの他に誰も居ない、教会の埃を被った物置の一室。父に言われてそこに入ると、リライトは肩を押されて物置に積まれた荷に背中をぶつけた。埃が舞い、廊下の光を受けて微かに光る。父はリライトの金髪を引っ張った。
「お前のせいで、私は指導者の座から引きずり下ろされた!お前のせいで……!」
「痛っ……!? お父様、やめてくださっ……!」
身体中を殴って蹴る鈍い音が、狭い物置の中に響き渡った。大人の中でも平均以上の大きな体格を持つ父から暴力を振るわれ、リライトはその度に小さく叫び声を上げていた。
父の脚が腹に当たる。腹部に圧がかかると、リライトは胃から何かが逆流してくるような感覚がした。咄嗟に起き上がり、口を両手で覆う。
「っう”……げほっ、ごほっ……!!」
これまで散々神の依り代として周囲から盲目的に崇拝されてきた少年の身体から、彼もまた一人の人間であることを証明する吐瀉物が出てくる。しかし出てくるのはほとんどが胃液だけ。当然だ。ここ最近のリライトは、幾重にも重なるストレスのせいでほとんどまともな食事ができていないのだから。
リライトが吐いている様子を見た父は、それを何とも汚らわしいという表情で彼を見下ろしている。
「はっ……はぁ……」
「汚らわしい。夕方の相談会までに片付けておきなさい」
荒い呼吸を繰り返すリライトに対してそう言い捨てると、父は物置を出ていった。聖職者らしからぬ乱暴な手つきでドアを閉めると、その音を聞いたリライトは脱力する。
(神様、見えていますか)
(僕はどうして、こんなにも酷い仕打ちを……?)
子供の頃、様々な場所で見ていた自身の神の姿を思い出す。綺麗な金髪に、青と赤の瞳。あれはまさしく伝承で語られてきた光の神の姿だ。幼く無知だった頃とは違い、最近は神の姿を目にすることも一気に減ってしまった。それはリライトが成長したからなのか、それとも人々が己の願いを叶えるために彼と彼の力を過信し酷使し続けた結果なのか。
どれほどぼんやりしていただろう。物置に差し込む陽光が少しづつ傾いてきた時、ふとリライトの目の前に光が現れた。目の前でふよふよと漂う、不安定ながも確かに存在感を放つ光。
『人の子よ、聞こえていますか』
「……!」
光から声が聞こえた。リライトにとって、その声は聞き覚えのあるものだった。かつてよく聞いていた声で、教会の人々が信仰している神の声。
光の神、フォス・パンドラだ。
聞き覚えのあった声にリライトは驚く。自身が人々の悩みを聞いていた時は必ず傍に居たが、それ以外で彼から現れることはほとんどなかった。それが、どうして今になって。
『アナタはもっと広い世界を見るべきです』
「その、ためには……?」
広い世界。世界が広いかどうかなんて分からない。ずっと、この狭い教会の中で過ごしてきたからだ。だけど、広い世界を見ることができるのなら、誰にも縛られない場所で自由に生きることができるのなら。
一日たりとも望まなかったことはない、広い世界への願望。
『ボクの手を、取ってください』
檻に囚われた一羽の鳥が大空を知る日は、そう遠くないのかもしれない。
*
リライト・サンダーソニア
男性/19歳/170cm
『光の神』フォス・パンドラを信仰する新興宗教に生まれた一人息子。綺麗な金髪と左右色違いの瞳が言い伝えに残る『光の神』の見た目と酷似していたこと、幼少期にリライトが神の声を聞いたということから、神の愛し子として指導者である父の座を引き継いだ。
しかし、本人は指導者としての重荷に耐えきれず三日間失踪する。彼が帰ってきた次の日の朝、彼が街へ出かけている間に教会が何者かにより燃やされた。彼の両親が亡くなり、教会を引き継ぐ者も現れなかったことから、教会は事実上の解散となった。
記録・裏
リライト・サンダーソニアの両親が指導者をしていた頃の教会は、信者から必要以上に献金を巻き上げていたことが元信者達への聞き込みにより判明。
また、彼の父親が、彼に日常的な暴言や暴力を振るっていたということも境界近くの家宅捜索により判明している。その詳しい内容は現在も調査中。
なお、自宅から発見されたリライトの日記の一文には、このようなものが書かれている。
「最初は、救ってくれなんて願ってなかったのに」
コメント
10件
ぶっちゃけると馬鹿みたいに曇ってる様子と嘔吐が書きたかっただけ
「君は神様」第1話、読み終えました。 設定の重厚さにまず引き込まれました。金髪とオッドアイという“神の依り代”として生まれながら、ただの子供として扱われず、13歳で指導者にされてしまうリライトの境遇が痛いほど伝わってきます。父からの暴力シーンは読んでいて胸が締め付けられましたね。 そんな中で、シエルが「その姿もお似合いですよ」と眼帯姿を肯定した一言が、すごく救いに感じられました。 「最初は、救ってくれなんて願ってなかったのに」という日記の一文が、物語の行く末を暗示していて…続きが気になります。