テラーノベル
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第73話
『勇者様。目を開けて』
『息が小さいよ』
『温かいけど、トクトクするのが弱い……』
「駄目っ……何で平和になったのに……ロルフっ」
僕は皆の姿を見るような余裕は無かった。
口から血が出てきているのも、頭を切っている事も分かる。
でも、感覚も無いし、視界はボヤケている。体は言う事をきかない。
こんな所でくたばれない……でも、指先も動かない。
どうして、僕はこうなるの……
✡
遡る事、半日前。
今日は、アニカと一緒に少し離れた街の偵察をする事になった。護衛からは外れてるけど、アニカの希望でこうなった。
周囲も変な噂が流されているのか、変な目で見られながらも許可が降りた。
明日の昼に着く予定だ。
「ロルフって昔は、苦しんでばかりに見えたんだ。それを思い出す度に『何も出来なかったな』って感じでしまう。だから、今からでもいいから、何でもいいから支えたい」
「ありがとう。でも、今は苦しくないよ。だからさ、そう見えたら支え合いたい」
……本当は、もう誰かとの楽しい思い出を増やしたくない。
でも、この笑顔を崩すなら、この我儘は言えない。
日が暮れて少し経った時。
セルフの宿屋に泊まっていた。
魔物のような気配がした。
「ロルフ? 何かいるの?」
「少し魔物がいるのかなって思って……少し狩ってくる」
「気を付けてね。昨日の雨で泥濘んでいるから、足を滑らせないようにね」
僕はその言葉を聞いた時、子供の頃を思い出した。
……大丈夫。もう、そんな人はいない。
僕は頷いてから剣一本だけ持って小さな村の宿から出た。
やっぱり……
僕が見つけた魔物の群は、想像より大きくて時間がかかりそうだけど、そんなに強そうな魔物はいなかった。
魔物の群を何個か潰してから宿屋に帰る途中で、大蛇に遭遇した。
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こいつも……夜は疲れてるんだけどな。
僕はこいつもと、とりあえず倒した。
もう、気配がしなくなったと、少し油断をしていたら半死大蛇の大きな尻尾に飛ばされて崖の下へと落ちた。
✡
遅いな……もしも、ロルフに何かあったら……
私が不安そうにしていると、ロルフの光の筋が急降下した。
え? 何が……
私は悪感がしたのに気づいていた頃にはもう、宿屋から飛び出していた。
私は坂を下って、ロルフの光を辿った。ただでさえ弱いロルフの光がいつもの半分ぐらいしか見えない。
……大丈夫。ロルフはきっと、大丈夫。
だって、約束だって、伝えたい事だって、やりたい事がいっぱいある。
少しすると、小さな陰が見えた。
その陰は横たわってるように見えて、光ってる。
嘘……嫌だよ……
近くに来ると、ロルフが崖の下で目を瞑っていた。
頭も切って、吐血もしてる。息も浅いし、脈も弱くなっている。
少し時間が経ったのか、頭からの出血は収まってきているけど、吐血はずっとだ。
「駄目っ……何で平和になったのに……ロルフっ」
嫌! 絶対に治して見せるんだから……
私は外の傷は治せた。でも、内臓が傷ついてるとなると、私には知識が不十分過ぎて何も出来ない。
私は、苦手な空間魔法を操って、ロルフを宿屋まで運んだ。
街の医者を呼んで、診てもらった。
外傷は私が治したから大丈夫だったけど、どこかの内臓で出血があるらしい。
……ロルフだったら、直ぐに分かるのに……もっと、勉強しないとな。
内臓の出血を治してもらったら、吐血も治まって息も段々深くなってきた。脈も普通の速さで、強くなってきている。
私はロルフの側にいたら、そのまま寝落ちしてしまった。
無表情で表情を斬り殺して、私の事を見つめるロルフが直立不動で立っていた。
私が知っているロルフより背が少し低くて、今にも崩れ落ちそうで、少し触れたら壊れてしまいそうだった。
でも、光は薄くて、喋らなくて、無反応で、強張っている。
私は、何か話したかった。でも、彼の姿を見ると一歩間違ったら失くしてしまいそうで、壊してしまいそうでで、怖かった。
それに、他の勇者に見せる顔が、私に見せる顔と違い過ぎて、余計に触れられなかった。
何よりも、私に失望して、離れられてしまう事が恐ろしくて、怖くて、心配だった。
でも、いつもロルフのかけてくれる言葉は、私の想像を超えて心の傷を癒してくれる。ロルフには、魔法が使えなくとも、言葉の魔法が使える。
それを初めて感じたのは、お母様が逝ってしまった時から、数日後。
彼から、誘い文句を言われた。不器用で、慣れてない事が丸出しだった。でも、真っすぐな眼差しが怖かった。
でも、彼も同じ気持ちだったって事を思い出した。両親を……あぁ、私はこんな事を……
でも、私と比べると陰口は彼の方が多かったし、辛い思いは沢山してきたんだと思う。だからこそ、私に縛り付けたくなかった。けど、冷たい人だって思われなくなかった。
……やっと、思い出した。彼が本当はどんな風な仮面を被っていて、私に心を許してくれていたのか。
コメント
1件
うわ、74話…これは心臓にくる展開だった。ロルフが崖から落ちて重傷、アニカが光を頼りに駆けつける場面の焦りがひしひし伝わってきた。特に「もう誰かとの楽しい思い出を増やしたくない」って本音を隠すところ、痛いほどわかる。アニカの回想でロルフの「言葉の魔法」に触れたエピソードも、彼の優しさの根っこが見えて好きだな。二人の距離が縮まってきたところでの今回の危機、次が気になりすぎる…!