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#残酷な描写あり
らい
148
37
#パンデミック
畝澄ヒナ
48
ヴァーリは冷や汗を垂らしながら、夜会の後の出来事を渋々語り出す。
「まぁ……あの……カレンさまの態度があまりにもアレだったので……ちょっとご注意というか」
「注意だと?」
殺せるなら一瞬で息の根を止めていたであろうアルビスの視線に、ヴァーリはひゅっと声にならない悲鳴を上げる。壁ドンをかましながら、わざと怒らすような真似をしたなど口が裂けても言えない。
けれどアルビスの視線は、全て吐けと命じている。だんまりなど今のヴァーリには許されない。
観念したヴァーリは、ボソボソと夜会の後の出来事を自白する。最後の急所に攻撃を受けたことだけは男の矜持が邪魔をして言えなかったが、ルシフォーネの口からしっかりと報告されてしまった。
「はぁー……まったくお前というやつは……」
ため息が部屋の隅々まで響き渡ったが、アルビスはそれ以上ヴァーリを責めることはしなかった。
もちろん誰がそんなことを頼んだかという怒りは強くあるが、責任を突き詰めていくと結局は自分にある。
対してヴァーリは、今更ながら取り返しのつかないことをしてしまったと蒼ざめた顔になる。
「お、俺……とんでもないことやらかして……」
「いや、もういい」
アルビスはヴァーリの謝罪を遮り、ルシフォーネに視線を向けた。きっとまだ彼女は他に言いたいことがあるのだろう。
その読みは正解で、ルシフォーネは居住まいを正して口を開いた。
「お忙しいところ恐縮ですが、数件ほど急ぎご報告することがあります」
「ああ、頼む」
アルビスは頷き、執務机に着席する。気持ちを落ち着かせようとティーカップを持ち上げたが、茶を飲むことはできなかった。
「カレンさまですが、熱を出されておいでです」
「なに?」
無意識に呟いたと同時に、アルビスの手にしているティーカップの水面が揺れる。
ルシフォーネはアルビスの動揺に構うことはなく、言葉を続けた。
「独房から離宮に戻ったリュリュが真水の浴槽につかっているカレンさまを発見して、すぐにベッドにお連れしたそうです。けれど深夜に熱を出されました」
「っ……!」
みるみるうちに顔色を失うアルビスに、ルシフォーネは感情に任せてもっと伝えたいことがあった。
水風呂に浸かっていた佳蓮が長い時間泣きながら身を清めていたことや、熱で朦朧とした佳蓮がルシフォーネの手を強く握り「お母さん」と呼んだこととか。
アルビスに聞かせたい気持ちはあるが、闇雲に責めたところでどうなる。時間を巻き戻すことができない以上、伝えても無意味だと判断したルシフォーネは、再び口を開く。
「それとリュリュですが、独房に入れるだけではなく、もっときちんと断罪をしてほしいと望んでいます」
「……なぜだ?」
「すべての責任は自分にあるので、と。そしてどうかこれ以上、カレンさまに無体なことをするのはやめてほしい。罰は全て自分が引き受けると申しておりますが……」
尻すぼみになった女官長の言葉に、アルビスは続きがあるのを察した。
「あれはなんと言っている?」
「そのままお伝えしても?」
「構わん」
きっぱりと言ったアルビスに、ルシフォーネは少しだけ視線をさ迷わせる。ありのままを口にすることを躊躇っている。
けれども数秒後、意を決したように表情を引き締めて、告げることを選んだ。
「リュリュに何かするんだったらその前にアイツを拉致監禁で処罰しろ、と」
「ちょ、あのお嬢さんまだそんなことを──」
「黙れ」
割って入ったヴァーリを制したあと、アルビスはルシフォーネに再び視線を向けた。
「リュリュに伝えろ。独房行きであの件は終わったと。それでも納得できないなら、カレンを西の城に移すから付き添え。それを罰とする」
「かしこまりました。そのように」
ルシフォーネは慇懃に腰を折ったが、部屋を去る様子はない。報告がまだ残っているのだ。
「最後に……カレンさまはとても取り乱しておられましたので、強いお薬を処方して眠っていただきました。今もお休みになられております……勝手な判断でしたら謝罪します」
「いや、賢明な判断だ」
「恐れ入ります」
全ての報告を終えたルシフォーネは、綺麗な礼を執り部屋を去った。
パタンと扉が閉じた後、アルビスは額に手を当て深く息を吐く。感情を抑えようとしても、強い自責の念と激しい後悔を隠すことはできないでいる。
ルシフォーネが淹れたお茶はまだ一滴も減っていないが、とっくに冷めきっていた。
「……ヴァーリ」
「はい」
「カレンが動けるようになったらすぐに住まいを移す。急ぎ整えろ」
「はっ」
ヴァーリはもう四の五の言うことはなかった。騎士の礼を執ると、任務を遂行する為に部屋を出る。
自分の軽率な行動のせいで、取り返しのつかないことになってしまった。もしかしたら佳蓮は、もう二度とこの城に戻ってくることはないかもしれない。
早足で廊下を歩きながら、ヴァーリも激しい後悔の念に苛まれていた。
コメント
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ああ……もう、胸がぎゅっとなりました。カレンさんが熱を出して、お母さんを呼んだシーン、本当に切なかったです。ルシフォーネが「伝えても無意味」と判断したところも、彼女の冷静さと痛みがにじんでいて。アルビスも後悔してるんだろうけど、もう戻せない時間を思うとやるせないですね。ヴァーリの「取り返しのつかないこと」という台詞がずしりと響きました。次がどうなるのか、気になって仕方ないです……!