テラーノベル
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同日、夜。
ライリはベッドの上で寝返りを打った。
(……昼の組織のことが頭から抜けねー。どうしたもんかね。)
短針はもう既に2の数字を越えている。翌日は特に予定も任務も入っていないので問題はないのだが……どうも退屈だ。
(アァー、煙草ほしい。酒でもぶっ込めば寝れっかな。)
ライリは起き上がると、ライターと煙草を手に取って、自室を出た。外に出るためにリビングを通ろうとした時、そこの明かりがついていることに気づく。
「ホマレっすか?何してんすか?」
そう言いながらリビングに入ると、ホマレは角に置いてある大きな画面の前に座っていた。彼はゆっくりとこちらを振り返る。
「びっくりしたぁ。」
「シコってた……訳じゃなさそうっすね。」
「違うに決まってるでしょぉ。ちょっと、お昼の組織のことが気になっちゃってねぇ、調べ物してたんですぅ。」
「おれも寝れなかったんすよ。混ぜてください。具体的には何を?」
「“ユキゲシオア”、そしてぇ、“小城 葉一”についてだねぇ。丁度いいやぁ、ある程度考えがまとまったから、聞いてよぉ。一緒に考えよぅ。」
ライリは座っているホマレに覆い被さるようにして、画面を覗き込んだ。ホマレの柔らかい髪の毛が頬にくすぐったい。
「モチロンっすけど、調べるっつっても、そんなん、学校の授業でやったじゃんすか。」
「事件についてはやったけどぉ、あの事件の後、彼らがどうなったのとかは、やってないんだよねぇ。小城 葉一は死刑、社長であった彼の死後、ユキは事実上の解散をした訳だけどぉ、本当にそこでバラバラになっちゃったのかなぁ、と思ってさぁ。」
「……言われてみりゃ、そうっすね。鄼哆王国はユキが治めてたっすから、ユキが無くなった後の鄼哆は犯罪王国の名に恥じぬ大荒れっぷりを果たしたっすけど、ここ十数年は随分と落ち着いてきてるっす。」
「そうだねぇ、どうして鄼哆はまた落ち着いたのかなぁ、ライリー?」
ホマレはライリの方を向く。彼なりの答えはもうあるのだろう、自分は試されている……ライリは指を鳴らしながら、自信に満ちた表情で答えた。
「周りのヤツらをなぎ倒して言うこと聞かせた組織かなんかが、また自治し始めた。100年前のユキと同じことしたんすよ。」
その言葉を聞いて、ホマレも満足気に微笑む。
「うん、ぼくもそう思う。……ユキの時代と同じようなことが鄼哆で起きてる今、ユキと同じようなことぉ、つまりは縷籟警軍の殲滅を狙っているかもしれない組織にぃ、ぼくたちは喧嘩を売られてる訳だねぇ。」
「ユキとの関連性は疑わざるを得ないっすね。さっきホマレは、「ユキの社員は本当にバラバラになったのか」って言ったっすけど、もしかしたら本当はまとまったままで、小城なくとも再び鄼哆を統治したんじゃないっすか?」
「言いたいことを全部察してくれて気持ちがいいねぇ、流石だよぉ、相棒。」
「あんたに鍛えられたんだから当たり前っすよ、相棒。まだ先読めるっすよ、おれ。もし今追ってるあいつらがユキの残党なら、あいつらの目的はおれたちに対する復讐っすよね。」
「うん、そうなるだろうねぇ。でもそれって、何かおかしいんだよねぇ。」
「えっ、どこがっすか。」
ホマレは「わからないですかぁ、後輩よ。」と指を立てる。
「根本のところを忘れちゃいけませんよぉ。小城 葉一が死んだのは今から100年も前なんだよねぇ。じゃあ、当時のユキの残党たちってぇ……?」
ライリははっとして、少し悔しそうに答えた。
「そっか、もう死んでるんすね。」
「鄼哆はとても広い国だからぁ、統治を思い立った頃にはまだ生きてたのかもしれないねぇ。でも勢力を広げる段階で世代が変わってぇ、今の鄼哆を統治してる組織にユキの面々はもういないだろうねぇ。」
「“縷籟警軍の殲滅”、“鄼哆の統治”……この2つの共通点からユキの残党って推理したのに、もしこいつらがユキの残党なら、おれらを攻撃する理由がないんすね。今の世代の奴らは鄼哆の統治さえ出来ればいい訳で、100年前の復讐なんかに興味あるやつがいるとは、考えにくいっすか。」
「この100年で縷籟警軍はだいぶ強くなった、ウエポンの代わりに銃や刀を持てるようになったからねぇ。前世代から託されていたとしても、さすがにリスキーすぎるかなぁ。もしぼくなら反対するねぇ。」
ライリはこくこくと頷く。そして思い出したように、ホマレに問いかけた。
「そういや、ウエポンってなんでダメになったんすか?」
「これも100年前の事件の影響だねぇ。ウエポンによってどうしても戦闘力に差が出やすいしぃ、人を簡単に殺せるような強いウエポンを持った人が反逆したらぁ、大変なことになるって……上層部が学んだんだろうねぇ。」
「小城 桜人は縷籟警軍を潰しに来たのに、彼のおかげで警軍が強くなったって考えると皮肉っすね。」
「歴史っていうのはそういうものなのさぁ……ふぁあ。」
ホマレは欠伸をした。それを聞いたライリがふふっと笑う。
「髪の毛は柔らかくていい匂いするし、小柄であったかいし、話し方はゆっくりだし……ホマレは小動物みたいっすね、マジで。」
「バカにしてますかぁ。」
「してないっすよ。その割には頭キレるし強いしイカつい傷もあるし、って言おうとしたとこっす、今。」
「ははっ、それほどでもないよぉ。みんなぼくの事を、先輩だからって過大評価しすぎなんだぁ。」
ホマレは立ち上がって、伸びをした。それから端末の電源を落とす。
「ぼくは寝るよぉ。これ以上考えてもろくな考えは浮かばないからねぇ。例えユキと関連性があったとしてもぉ、ぼくたちはあいつらを潰せればなんでもいいんだしねぇ。」
「そっすね。おれたちにぶっ潰せねー組織なんてないっすし!おれも寝るっす。」
部屋への道中、手のひらに握りしめた煙草とライターの存在を思い出す。どうしよう、吸うか……吸いたい気持ちは山々だったが、もう面倒くさくなってしまって、ライリはそのまま部屋へ戻った。
その夜から少し経った、ある日。ついに縷籟警軍はタフリナの4人に鄼哆への車を手配し、“プリムラ・シネンシス”の制圧に向かわせた。
「……みたいな話を、数日前、ホマレとしたっす。」
ライリは2人に、プリムラ・シネンシスにユキとの関連性が疑われることを説明した。ヒナトはそれを聞いて、感心したように頷く。
「なるほど。確かに合理的だね。元からユキの社員だったなら、その地位を使えば征服も楽になりそう。やるじゃん。」
「おれはホマレの考えを聞いてただけっすよ。まあ、まだ疑問も残る……って感じっす。」
空は段々と暗くなり、ゴツゴツとした地面に車の揺れが激しくなり始める。
「鄼哆、近くなってきたね。具体的な任務内容の確認と立ち回り、決めちゃお。」
ヒナトの言葉に、3人はこくんと頷いた。ライリが続ける。
「いつも通りおれが仕切るっすね。まず、任務内容ですが、“プリムラ・シネンシス”の殲滅っす。上からは、カシラも含め全員殺してしまって構わないと言われてるっす。やることはいつもと変わらないっすね。
そして手順なんすが、どうしましょ。相手の拠点は5階建てのビルみたいなところっす、上下から入り込んで挟み撃ちにするっすか。」
「うん、それでいいと思う。グッパしよ。」
「いやいやいや、グッパでいいわけないっすよね。」
ライリは思わずツッコんだ。ヒナトが面白そうに笑ってるのを見て、「あんた地味に性格悪いっすよね」と苦笑する。
「ごめんごめん。2人組だったね。相性でいったら女と男で分けるのが妥当だろうけど、戦力の偏りが怖いかな。コンラとライリーって結局どっちが強いの?」
「悔しいけどコンラっすかね。おれの武器は言わば普通の拳銃っす、バンバン撃てるが、相手が銃弾の対策をしてたらそこまでっす。対してコンラはデッケーの持ってるじゃんすか、あんま普段使いはしにくいんすけど、いざと言う時には全部ぶっ飛ばせるほど強いっす。」
「それなら、私とライリー、ホマレ先輩とコンラにするのが戦力のバランス的にはちょうどいいかな。
ライリなら私を避けながら撃てるし、私もライリの弾なら避けながら剣を振れる。ホマレ先輩なら、普段使いに不便で銃使えないコンラのカバー出来ると思うし。」
ライリは頷いた。ホマレは「荷が重いねぇ」と笑いながら、ヒナトの方を向く。
「ヒナトさん、ライリーのこと、死んでも守ってくださいねぇ。」
目の奥を静かに光らせて、彼なりの睨みとも取れるような目力に、ヒナトは少し恐れながら「はい」と返事をした。ライリが「そんなに弱くないんすけど」と唇を尖らせる。そんな3人には見向きもせず、ヒナトと行動できないからだろうか、コンラは少し不服そうに俯いていた。
やがて車は止まり、4人は地面に降りた。昼だと言うのに暗い空、不安が全てを飲み込んでしまいそうなこの重圧感にも随分と慣れてしまったように感じる。
「私たちは隣の空きビルからこのビルの上に飛び移る。合図したら突撃していいよ。」
コンラとホマレは人目につかない所に隠れ、ヒナトとライリが上まで移動するのを待った。この間、2人は一言も会話をしなかった。気まずい、というやつだろうか、恐らく互いに、この4人組の中でいちばん話したことがない。
この空気に耐えかねてきた頃、トランシーバーに通信が入った。
『待たせたね。行こう。』
ヒナトの声だった。ホマレは腰からナイフを抜き、コンラにほほ笑みかける。
「じゃあ、行こうかぁ。よろしくお願いします。」
「あぅ、あ〜、はい、よろしくお願いします〜。」
ホマレはてくてくとビルに向かい、何食わぬ顔で扉に手をかけた。多少困惑しながらついて行くコンラに、ホマレは小声で「銃、構えるだけ構えといてぇ。」と囁く。
中に入ると、そこでは、大男たちが床に座って屯していた。彼らは侵入者の存在に気がつくと、待ってましたと言わんばかりに立ち上がる。ホマレは動じず、いつものニコニコ笑顔で、その男たちに言ってみせた。
「我々は縷籟警軍ですぅ。ここにいる全員、投降してください。」
当然、男たちはその言葉に従う様子を見せない。やがて1人の男がホマレに近づき、頭に拳銃を突きつける。ただし引き金を引く様子はない、どうやら完全に油断しているようだった。
次の瞬間、ホマレが拳銃を手で払った。咄嗟に撃たれた1発を姿勢を低くして回避し、そのままナイフを男の腹に刺し込む。少し捻ってすぐ引き抜くと、真っ赤な血液がその場に飛び散った。
倒れた男を踏んで、汚れたナイフを前に向けてから、ホマレはもう一度言う。
「ここにいる全員、投降してください。」
男たちは狼狽え、全員が焦ったように拳銃を突き出す。ホマレは残念そうに呟いた。
「従ってくれたら、見逃してあげようと思ってたのにぃ。」
そこから何が起きたのか、あまり鮮明には覚えていない。ただコンラが気づいた頃には、その場の男たちが全員、腹から血を流して倒れていた。
「……ホマレ、怖〜。」
「コンラさん、お怪我はないですかぁ?」
「は、はい〜。お陰様で〜。」
ホマレが扱うナイフは、そこまで刃渡りのあるものではない。防弾チョッキを服の下に身につけているとはいえ、銃を怖がらず接近して刺殺。小柄で器用なホマレにしかできない芸当だ。
「拳銃を持った敵を扱うのには慣れてるんだぁ。ライリーの銃の練習にずっと付き合っているからねぇ。」
「対拳銃に強くて〜、至近距離だと負け無しで〜、これもう、あたしいらなくないですか〜。」
「いるよぉ。何があるかわからないでしょぉ。」
ホマレはそう笑うと、ナイフについた血を拭き取りながら階段へ向かう。
「この調子だと楽勝そうだねぇ。ぱっぱと制圧しますよぉ。」
「は、はい〜!」
コンラは慌てながら、その後を追った。
続く
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