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あれから数日経っただろうか
私は手帳を棚から取り出した
三週間に一回は手帳の手入れをすると決めている
二年前のあの日から、延々と
すぐにホコリが溜まってしまうのもあるが
兵士になるまで大切に扱いたかったからだ
我ながら、手帳は貰った時よりずっと綺麗になったと思う
赤褐色の表紙も
黄ばんだ紙の色も
もう見慣れたものだ
『(だけど…お母さんはきっともう覚えてない)』
…もうすぐアルミンと待ち合わせの時間だ
行こう
私もそろそろ大人にならなければいけない
あの日のように手帳を上着に仕舞い込んで家を飛び出した
川の近く、アルミンは石段に腰掛けて待っていた
「あっミロア!来てく…」
足音によりこちらに気付いたのか、晴れた表情で私を見る
が、私の顔を見るやいなやその顔は曇った
「…なんで、泣いてるの」
「お兄さんの事、失敗したの?」
『ちがう…』
「じゃあ何?」
『…』
無言でポケットから手帳を取り出した
「それ…懐かしいね。君がお母さんに貰ったって言ってた…最近見てなかったけどどうしたの?」
アルミンが覚えててくれていた事に密かな喜びを感じつつ
私は母と手帳の事について話した
冷たい風が吹く度に
私の目元がひんやりとする
それが
自分は泣いてしまったのだと杭を打たれるような気分だった
『やっぱりさ、2年も経てば忘れるんだよ。こんな些細な贈り物くらい…』
「そうかな…」
『…こんなもの、やっぱり捨てることにする。』
「待って!」
『?』
川に捨ててやろうと振りかぶった私を静止し、こう続けた
「あの…古い言い伝えがあって…元々手帳とか記録を残すものを引き継ぐのは縁起があったりと良い事なんだ。命の紋が同じだと尚更。君のお母さんがそれを知っていたかは分からないけど、…捨てるのは良くないよ」
『…』
アルミンがあまりにも真面目にそんなこと言うものだから
流石に私も、躊躇はする訳で
更に
「その手帳はきっともう世界に一つだけだ。君が大切にしなきゃ」
なんて言うから
私は焦ってしまった
『…あ、あぁ!私も最初はそう思ったけど、お父さんが二冊持ってたみたいでさあ!だから世界に一つではないって言うか…!』
「…本当?僕はそれ嘘だと思う」
『はっ…?』
「君って嘘を吐く時いつも不自然に声が大きくなるじゃないか。二年も一緒にいたら分かるよ」
『お、お兄ちゃんみたいなこと言わないでよ!…そんなに分かりやすいかな…』
「否定はしないんだね」
『あー嘘をつけなくなる人が増えた…』
「声の大きい嘘つき」
『うるさい』
そうだ、アルミンも大概、兄と変わりない人であった
認めてしまえば気持ちは落ち着いた
アルミンの隣に座り、手帳を仕舞う
『いつもごめん。本当にありがとう』
「良いんだ。僕だって君に助けられてる。僕を頼りにしてくれるのは嬉しいし、君の力になれるなら何でもすると約束するよ。」
『……おぉ』
「?」
『いや…少しだけアルミンが…思いの外、女の子みたいでドキドキしちゃった…』
「何言うのさ急に気持ち悪い」
『酷い』