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お前が、キスして欲しそうな可愛い寝顔で誘うから。
―夏樹視点―
魔女の毒林檎じゃなかった、巨乳にやられた十夜は眠っていた。
いや、眠るように死んでいるのかもしれない。
部室にも教室にも戻って来ない十夜を探せば、駅のホームのベンチで眠っていた。
この野郎、俺に断りもなく眠りやがって。
……本当に眠ってんのかな?
試しに隣に座ってみたが反応がなかった。
十夜。
あれは入学してすぐの身体検査。
体重と身長が全く同じだったので意気投合したのが始まり。
なのにー……。
『俺、夏樹みたいに肌黒くならないんだよなー。赤くなってヒリヒリするだけ』
それを聞いて何気に首筋を眺めたら、白くて艶かしくて。
この肌が赤く染まるのが見たいと思った。
それに触れてみたいと。
喋るとただの巨乳好きのホモのホの字も感じない奴で、好きになっても無駄だって分かったんだけど、
俺の前で無邪気で無防備な姿を見せるのは、
誘っているように見えた。
その程度には重症に惚れていた。
「おーい。次の電車に乗ればまだ空いてるぞ」
肩を揺らして伝えると、頬から汗が伝う。
白い肌を滑り、ボタンの開いた胸元まで流れていく。
思わず飲み込んだ唾を誤魔化すように、視線をそらした。
「十夜ってば。ったく」
混む時間になっても起きなかったら、痴漢してやる。
仕方なく準備体操をして鼓動を落ち着かせる。
先ずは大きく息を吸って屈伸から……。
「ぐぉー。俺は寝ている。がー」
「……? 大きな寝言だな」
「がー。うるせーホモ。がぁー。眠り姫が眠ってんだぞま。ぐぉー」
やたら主張の激しい寝言に、体操を止めて近づく。
目がぎゅっと閉じられていた。
「どうやって起こすか……分かるだろ。馬鹿」
「!?」
眠り姫を起こす方法なんて一つだけだろ。
でもお前、ラスボスに負けて瀕死状態で、ホモが嫌いで。
いや、昨日はホモが嫌いなくせに反応はしてたけど。
なんで?
「ぐぉー。早くしないと電車が来るぞー。がぁー」
辺りを見回すと向かいのホームにスマホを弄って立ってる人が居るだけの長閑な駅。
魔法を溶かしてほしいのか、寝言で誘う十夜。
向かいのホームに特急が丁度通過していくらしい。
俺はそれを見計らい、特急の電車が来た瞬間、
隠れるようにキスをした。
どの角度からキスしようか、右に傾けるか左に傾けるか、そんな小さな迷いを吹き飛ばしながら、
迷いを振りきるように唇を重ねた。
「ぷっ」
特急が離れた瞬間、十夜は吹き出すとベンチに倒れ込んだ。
「俺、レベルアップ!?」
……レベル?
「うーん。やっぱ夏樹ならギリ平気だな。嫌ではないか」
嫌ではない?
嫌じゃないとは、もう好きで良いんじゃないか?
「よし、電車来たし乗るか」
清々しい顔の十夜とは反対に、俺の心はもやもやドス黒い。
「お前、まさかラスボスを倒すためにキスを?」
「まぁ。あと試してみたかったし」
「自分からするキスは初めてじゃないのか?」
「…………」
さぁーっと十夜の顔が青ざめる。
どうやら図星だったようだ。
「ホモはノーカンだ」
慌て口を拭く十夜だけど、もう遅い。
でもレベルアップのためというのは、初めてのキスに申し訳ない。
ある晴れた蒸し暑い日。
俺は十夜の腕を取り、立ち上がらせると、頬をなぞってキスをした。
真夏とキスと眠り姫。
電車がホームに入ってくる、少しの間、長く甘いキスをしよう。
まずはキスから始めよう――……。
END
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