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賑やかだったバーベキューも一段落し、部員たちは交代で片付けや入浴へと向かい始めた。
私は油汚れのついた鉄板を洗おうと腰を浮かせたけれど、不意に手首を掴まれて引き留められる。
「……紗南。片付けは他のやつに任せろよ。ちょっと、あっち行こうぜ」
振り返ると、遥が顎で宿舎の裏手にある高台を指していた。
「でも、成瀬先輩が……」
「部長なら先生を追いかけてどっか行ったよ。凌の兄貴も、後輩の面倒見るのに捕まってる。……今なら誰も来ねーから」
強引に歩き出した遥の背中を追って、私たちは街灯も届かない暗い道を少しだけ登った。
木々の隙間を抜けた先、視界が開けた場所で足を止めると、そこには息を呑むような光景が広がっていた。
「わあ……すごい……」
空を埋め尽くすような星の群れ。標高が高いこの場所からは、星が今にも零れ落ちてきそうに見える。
「……こうやって星空見るの、久々だなあ」
遥が地面に直接腰を下ろし、両手を後ろについて空を見上げた。私もその隣に、少しだけ距離を置いて座る。
「……そうだね」
昼間の喧騒や、凌先輩とのバチバチした空気、先生の厳しい視線。そんなものが全部遠くのことのように思えるくらい、辺りは静かだった。
「小学校の時さ、林間学校でみんなで星空見上げたの覚えてる?」
私の問いかけに、遥はしばらく黙っていたけれど、やがて小さく鼻で笑った。
「覚えてる。……お前、暗いの怖がって俺のシャツの裾、ずっと掴んでたからな」
「ちょっと、そんなことまで覚えてなくていいよ。……でも、あの時もすっごい綺麗だった」
「……ああ。綺麗だったな。……でも」
遥の声が、少しだけ低くなる。
「今のほうが、ずっといい」
隣に座る遥の横顔が、星の光に照らされて少し大人びて見えた。