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静寂の中で、遥の言葉だけが耳に残る。
「今のほうが、ずっといい」……その真意を問い返す勇気はなくて、私はただ、夜風に冷えた手をぎゅっと握りしめた。
その時、背後の茂みからサリ、と落ち葉を踏む音が聞こえた。
「……こんなところで二人きりでサボりかな? 仲が良いのは知っているけど、風邪を引いちゃうよ」
振り返ると、凌先輩がゆっくりとこちらへ歩いてきていた。いつもの柔らかな微笑みだが、その瞳の奥は笑っていないように見える。
「……兄貴。別にサボってねーよ」
遥が不機嫌そうに立ち上がり、凌先輩を睨み据える。
「そうだね。でも、点呼の時間まではあとわずかだ。小谷先生が、紗南ちゃんがいないって探してたよ。マネージャーが夜遊びなんて、先生に知られたらまずいんじゃないかな?」
「夜遊びなんて……!」
私は慌てて立ち上がった。凌先輩の言う通り、先生に「仕事もせずにふらついている」と思われたら、明日からの合宿が地獄になる。
「……ほら、行こうか、紗南ちゃん。僕が一緒に戻って、僕の相談に乗ってもらっていたことにすれば、先生も納得してくれるよ」
凌先輩が自然な動作で私の隣に立ち、守るように肩に手を添える。その視線は、背後の遥を明確に牽制していた。
「……じゃあな、遥。星を見るのは、もう十分だろ?」
凌先輩に促されるまま、私は宿舎の方へ歩き出した。
背後に残された遥が、悔しげに地面を蹴る音が一度だけ聞こえた。
宿舎の入り口に戻ると、そこには案の定、腕を組んでこちらを待っている小谷先生の姿があって――。