「…いろいろと、すみませんでした」
大学が終わって…バイト先のカフェに出勤した。
今日はシフトが入ってる日。
でも…店長が不思議そうな顔で私を見てる。
「石塚さん…辞めるって聞いたけど…」
「…は?そんな…クビですか?」
この間突然響に捕獲されたせいだ…!
慌ててその時のことをしどろもどろに説明した。
「久しぶりに再会した幼なじみが…あまりの懐かしさに暴走して、ですね…『今すぐ昔話をしないと死んじゃう!』とか物騒なことを言うので、仕方なく…」
「…いや、あなたの保護者…と名乗る人から連絡があって、もう辞めさせるから…って」
まさか…響?
男性か女性か聞いてみると案の定…
「男性だよ。わりと若そうな声だったけど、お兄さんか何か?」
響だ…。
…………………
「…なんで勝手なことするんだろ」
結局カフェのバイトには入れず、時間を潰して居酒屋のバイトに入った。
「そりゃ、独占したいからだろ?」
並んでお酒を作るのは、引っ越した先で出会った中学時代の同級生、真莉水樹。
料理を運んだりお皿を洗ったりしながら、響と再会したことをかいつまんで話した。
結婚とか同居の話は重すぎて、バイトしながらでは話せないな…と思った時
店の引き戸がガラっと開いて、瞬間黄色い歓声が湧いた。
「…あ。真莉ちゃんの親衛隊、ご来店…!」
「アホ…親衛隊じゃねぇ」
近くの大学の女子大生っぽい。
いつも3〜4人で固まって来て、真莉ちゃんがいるとわかりやすく喜ぶ。
私はおしぼりを出しに行かない。
目配せして、行け…っと煽る。
仕方なく、おしぼりとお通しを持ってテーブルに行く真莉ちゃん。
「…しゃーせ…。ご注文がお決まりになりましたら一度にまとめて言ってくださると助かります…」
ボソボソ喋る真莉ちゃんに、女子たちは黄色い歓声を更に浴びせる…。
遠目に見ていると…少しずつ赤面していく真莉ちゃん。
可愛いっ!照れてるっ!
するとそれを、同じように遠目に見ている女子軍団に気づいた。
こちらはかなり怒ってる様子…真莉ちゃんを取られてご機嫌ナナメっぽい。
逃げるように厨房に戻ってきた真莉ちゃん。
ゴクゴク水を飲んで『勘弁してくれよ…』と肩を落とした。
「ま。なまじイケメンに生まれちゃって…親を恨むんだねぇ…!」
そう。真莉ちゃんは涼しい目元に通った鼻筋。ややアヒルっぽい口元が可愛らしい、誰が見てもイケメンな男。
私と出会った中学生の頃には、すでにかなりファンがいたように思う。
でも…私はすでに響を日常的に見ていたので、真莉ちゃんのイケメンぶりに心を動かされることはなかった。
普通に接してくれる女子が皆無だった彼は、逆にそんな私とつるむようになり、今日まで友情は続いている。
でもそれは完全に友情で、真莉ちゃんを男だと意識したことは一度もない。
真莉ちゃんもきっと同じで、だからこそ22歳という年齢になっても、こんなに仲良くできていると思っていた。
「…なんかやだわ。俺もう上がる」
バイト先の居酒屋はとても大きなお店で、アルバイトもたくさんいたことから、急に1人や2人、バイトが抜けても何ら問題はない。
「…あ!じゃあ私も」
一緒にエプロンを外し、私たちは居酒屋を後にした。
…………………
「で?その幼なじみに捕獲されて…」
「一緒に、暮らすことになった」
「…マジで?」
真莉ちゃんには、お父さんの仕事が潰れかかったうちの事情と、それを助けてくれた響の本当の姿を打ち明けた。
「…やばっ!琴音…俺が就職する会社の会長夫人になるんだ?」
プロポーズされていることも伝えると、真莉ちゃんが驚いて言うから…
「私みたいな一般ピーポーが…そんな大企業を背負う人と本当に結婚できるとか…思えないよ」
「でも、今一緒にいるんだろ?」
「…だからそれは、お父さんの会社を助けてくれたから…」
「…じゃ…襲われる心配?」
そこは…この間の顛末を恥ずかしくない程度にかいつまんで話した。
「泣き顔見て、途中でやめてくれたんだ?…あのさ、それって男にとって、ものすっごく大変なことなんたぞ?」
思わず上目使いで真莉ちゃんを見上げてしまう。
「…それだけ大事だってことだ。琴音のこと」
「うん…」
2人でビールに手を伸ばして、しばらく無言で飲み続けた。
すると真莉ちゃんが、半笑いで言う。
「…で?なんで琴音はそんなに困った顔してるわけ?バイトを勝手に切られたから?これからも、勝手なことをされそうだから?」
「…え?」
違うよな…と言いながら枝豆を取った真莉ちゃん。
プチン…と、枝豆を鞘から外す音が、妙に大きく聞こえる。
「響さんに惹かれていくのが怖い…って、顔に書いてあるような気がする」
何も言えず、私はまたビールに手を伸ばした。
コメント
2件
またまたイケメンが....😍💕((o(^∇^)o))ワクワク
タイプは違えどもイケメ〜ン✨ いくらお互い異性として見てないとしてもよ、よ、響きが知ったら… おぉ〜こわっ(›ଳдଳ‹)