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翌朝、トレーニングルームの空気は、一瞬にして凍りついた。
潔はいつものように、玲王に買ってもらったばかりの新しいスポーツウェアに身を包み、首元を隠すこともなく現れた。そこには、昨夜玲王が執拗に刻みつけた、どす黒いほどに鮮やかな「紅い痕」がくっきりと浮かび上がっている。
「……あ」
真っ先に反応したのは、潔の元へ駆け寄ろうとした蜂楽だった。その場に釘付けになり、いつも浮かべている無邪気な笑顔が、スッと消える。
「ねぇ、潔……。その首のやつ、……なに?」
「え? ああ、これか。昨日、玲王にちょっと……な、玲王?」
潔は「お返し」の儀式の一環だと思い込んでいるため、なんの衒いもなく、後ろを歩いていた玲王を振り返った。
「…………っ!!」
玲王は、三人の視線を浴びた瞬間、顔面が沸騰したように真っ赤になった。
昨日までの「潔を恨んでいるフリ」すら維持できない。気まずさと、独占欲を満たした優越感と、それ以上の猛烈な羞恥心が混ざり合い、ガバッと顔を背けた。
「……俺に振んな! ……勝手に……あいつが、……っ」
「玲王?」
不思議そうに首を傾げる潔。その無防備な喉元が、さらにキスマークを強調する。
「……玲王。……何したの」
凪の声は、いつになく低く、冷たかった。潔を自分のものにしたと思っていた凪にとって、元相棒である玲王が、潔に「消えない印」を刻んだという事実は、許しがたい越権行為だった。
「潔。……それ、汚い。俺が上書きしていい?」
「えっ、上書き? 凪、何言って……」
「…………成金野郎、死ね」
凛の周囲には、物理的なオーラが見えるほどの殺気が渦巻いていた。潔を「ぬるい」と罵りながらも、その首元に残る他人の痕跡が、生理的な不快感と激しい嫉妬を呼び起こす。
「おい、潔。その薄汚いマダラ模様……今すぐ俺が焼き切ってやる。こっち来い」
「焼き切る!? 凛、朝から物騒だぞ!?」
「あはは……。玲王ちゃん、ずるいなぁ。潔を自分だけのものにしようとしたでしょ?」
蜂楽の瞳からハイライトが消える。彼は潔の首元の痕を指でなぞり、玲王を射貫くような視線で笑った。
「でも、これくらいで潔が玲王ちゃんのものになると思ったら大間違いだよ。ね、潔? ……俺も、もっとすごいのつけてあげようか?」
「……? お前ら、さっきから何の話してんだよ。これ、ただの『お返しの印』だろ?」
潔は、三人のただならぬ雰囲気に圧倒されながらも、全く事の重大さを理解していない。
「玲王、なんかみんな怒ってるぞ? ……やっぱりこれ、変な病気か何かなのか? 病院行った方がいいか?」
「……っ、バカ! 病気じゃねーよ!!」
玲王は顔を真っ赤にしたまま怒鳴り散らし、内心では(ざまあみろ、こいつは俺が抱いたんだ!)という優越感と、(でも潔が天然すぎて死にたい!)という絶望の間で激しく揺れ動いていた。
結局、その日のトレーニングは、潔の首元を巡る四人の「静かなる(物理的な)奪い合い」へと発展し、潔だけが「今日のみんな、いつもより気合入ってるな!」と爽やかに汗を流すのだった。
m ( 低浮