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『初音ライダー剣』
第5話
“死神”
動物園でのアンデッド騒動から3日後の夕方、ルカはミクのことが頭から離れなかった。彼女はミク/ブレイドに興味を持ち始めた。だが、何故そうなったのかは分からない。ただ、間違いないのは彼女はミクの他人を助けようとする考えに疑問と苛立ちを覚えていたことだ。そのことでルカは少し目つきが悪くなっていた。その様子をバイクの後ろのユキが察する。
ユキ「お姉ちゃん、どしたの?」
ルカ「ん?いや、少しやることがあってな。」
ユキ「またどっか行っちゃうの?」
ルカ「大丈夫だ。夕食までには戻る。」
ルカは悲しげな顔をするユキに背を向け、バイクを走らせる。
その頃、ミクはBOARDの宿舎でウタと共に調べものをしていた。
ミク「カリスってどんなヤツだったっけ?ウタ、覚えてる?」
ウタ「うん。まず、カリスというのはカテゴリーAのマンティスアンデッドの別称。このマンティスアンデッドがライダーに似た能力を持ってる。例えば、専用のバイクを持ってたり、とかね。」
ミク「…やっぱり、あの人はアンデッドなんだ。」
ウタ「あの人?」
ミク「うん。私が動物園で会った人。小さい女の子を連れてたあの人がアンデッドだなんて、考えたくもないけどさ…」
ミクは動物園で会った女性・巡音ルカがカリス=アンデッドだと思うと寒気がした。
ウタ「小さい女の子?」
ミク「うん。」
ウタ「何でアンデッドが人間の女の子と一緒にいるの?」
ミク「分からないよ。ただ…!?」
ウタ「へ?何?」
ミクは途中で話を打ち切った。妙な気配を感じたからだ。ミクは早速、宿舎の外に出てみた。そこには、巡音ルカが立っていた。
ミク「あなた、何でここに…」
驚くミクをよそに、ルカは話を進める。
ルカ「取引をしない?初音ミク。」
ミク「取引…?」
ルカはミクに対し、取引をすすめる。
ルカ「ラウズカードを全部私によこして、アンデッドの戦いから手を退けば見逃してやる。断るならここで殺す。目障りなのよ、あなた。」
ミク「…」
ルカ「返事は今ここでもらう。あんまり長いこと待つ気はないわ。」
ミク「…あなたは、一体何なの?何でアンデッドなのに人間と一緒にいるの?」
ルカ「質問してるのは私。カードを渡すか、渡さないか答えろ。」
ミク「…だったら!」
ミクはブレイバックルを取り出し、腰に装着する。
ルカ「…そうか。なら死ね。」
ミクのこの行動に対し、ルカも♥Aのカードとカリスバックルを取り出し、カードをラウズする。
ミク「変身!」 ルカ「変身!」
「TURN UP」 「CHANGE」
音声の後、ミクはブレイドに、ルカはカリスに変身し、互いに武器を持って斬り結ぶ。ブレイドはブレイラウザー、カリスはカリスアローをぶつけて鍔迫り合いとなる。カリスは持前のパワーですぐにブレイドを押し始める。パワー勝負は不利と悟ったブレイドは戦法を切り替えるべく、カリスと距離を置いて次の手を打とうとする。しかし、カリスは素早くブレイドと距離を詰め寄り、カリスアローを振るってブレイドに斬撃を浴びせる。
ミク「うッ!?」
ルカ「…この程度か。」
ミク「…このッ!」
よろけるブレイドをカリスは嘲るように言い放つ。しかし、ブレイドは負けじと地面を踏みしめ、カリスに挑みかかる。だが、カリスはカリスアローでブレイラウザーを受け止め、そのままブレイドの攻撃を軽く受け流す。それでも、ブレイドはブレイラウザーを振るってカリスに挑むが、カリスはこれを軽くあしらい、そしてついに、カリスはブレイドの手からブレイラウザーを弾き飛ばしてしまう。
ミク「あっ!?」
ブレイラウザーはブレイドの手元から離れ、近くに転げ落ちた。ブレイラウザーを失ったブレイドはカリスに肉弾戦を挑もうとするが、これも当然のようにカリスが有利である。ブレイドは丸腰でカリスに殴りかかるが、カリスはブレイドの右拳を左手で正面から受け止め、そのまま力を込めてブレイドを片腕で投げ飛ばしてしまう。
ミク「うわっ!?」
ブレイドは壁に激突し、大きなダメージを負った。カリスは勝利を確信したように静かにブレイドに近寄り、カリスアローの刃をブレイドに向ける。
ミク「う…」
ルカ「ふん。」
カリスはブレイドの眼前にカリスアローを突き立てる。しかし、その直後に2人の横から銃撃が飛んできた。
ルカ「!?」
ミク「姉さん!?」
カリスとブレイドが横を向くと、そこにはギャレンがギャレンラウザーを構えて立っていた。
ルカ「…仲間ってヤツか。」
MEIKO「…派手にやってくれたわね!」
ギャレンはギャレンラウザーをホルスターに収納し、カリスに肉弾戦を挑む。
MEIKO「ミク、見てなさい。あんただけがライダーじゃないのよ!」
ミク「ま…待って姉さん!2人で…」
MEIKO「うるさい!余計な手出しするな!」
ギャレンはブレイドの制止を聞かずにカリスに殴りかかる。カリスはこれを軽く回避すると、ギャレンの背後を取ってその右腕に手刀を入れる。
MEIKO「うっ!」
ギャレンは右腕にダメージを負うが、距離を取ってギャレンラウザーを取り出し、連射する。しかし、右腕を痛めて狙いが定まらない。そんな銃弾をカリスは難なくカリスアローをかざして防ぐ。そして、カリスはギャレンに接近し、カリスアローを振るってギャレンに斬撃を浴びせる。
MEIKO「く…」
それでも、ギャレンはギャレンラウザーを手に取り、オープントレイを開いて♦2のラズカードを取り出し、ギャレンラウザーにラウズさせる。
「BULLET」
しかし、カリスも同時に♥6のラウズカードをカリスラウザーにラウズさせる。
「TORNADE」
ギャレンは「BULLET」のカードで強化された弾丸を撃ち出す。しかし、カリスアローから放たれる竜巻の矢はギャレンの銃弾をかき消し、ギャレンに直撃する。
MEIKO「うあッ!?」
ギャレンはカリスの放った竜巻の矢の直撃を受けて飛ばされ、その場に倒れた。同時に、オリハルコンエレメントが投影されてギャレンの変身は解除され、MEIKOの姿に戻った。その直後、MEIKOの眼前にカリスが素早く迫り、カリスアローを振りかざす。
MEIKO「う…ああああああああああ!」
MEIKOは怖くなり、たまらず悲鳴を上げた。同時に、目には涙が滲み、戦意を喪失してしまう。
ルカ「…フ。」
カリスは戦意喪失したMEIKOを鼻で嗤い、とどめを刺そうとする。しかし、その隙にブレイラウザーを拾ったブレイドがMEIKOを助けようと、1枚のカードを使う。
ミク「やめろぉ!」
「TACKLE」
ブレイドは左肩を突き出してカリスにショルダータックルを敢行する。「TACKLE」のカードで強化された体当たりを受けたカリスはよろけ、一歩退いてしまう。だが、すぐに足を踏ん張って体制を立て直す。そして、カリスに呼応したようにシャドーチェイサーが現れる。カリスはシャドーチェイサーに乗り、そのままブレイドに突っ込む。ブレイドはこれを左にかがんで回避すると、車庫に行ってブルースペイダーに乗って走り出す。カリスはこれに呼応したようにシャドーチェイサーを走らせ、ブレイドを追う。
MEIKO「…」
MEIKOは何もできなかった。カリスに首を取られる寸前まで追い詰められたことで、ひたすら怖くなっていた。
ウタ「MEIKO先輩、大丈夫ですか?」
MEIKO「…」
ウタが様子を気になって出てきた。彼女は倒れているMEIKOを気遣うが、MEIKOは答えない。いや、答えられない。それほどショックは大きかった。
ブレイドとカリスは高速道路に入り、互いにバイクを駆って競争するように走る。しかし、最高速ではシャドーチェイサーのがブルースペイダーより上だ。ブレイドはカリスの横に並ぶべく、♠9のカードを取り出してブルースペイダーにラウズする。
「MACH」
「MACH」のカードによりブルースペイダーは加速し、シャドーチェイサーに追いついた。ブレイドはカリスの横に付いたところでブレイラウザーを取り出し、カリスを攻撃する。カリスも負けじとカリスアローを持ち、ブレイドを迎撃する。しかし、バイクを操作しながらでは力が入りにくく、互いに決定打を与えられない。そう判断した2人は一旦距離を取り、♥6のラウズカードを取り出し、バイクのラウズシステムにラウズさせる。
「TORNADE」
カリスは「TORNADE」のカードをシャドーチェイサーにラウズさせ、風のエネルギーを纏う。一方のブレイドも♠6「THUNDER」のカードをブルースペイダーにラウズさせる。
「THUNDER」
ブレイドは雷のエネルギーを纏ったブルースペイダーを駆り、風のエネルギーを纏って突撃してくるシャドーチェイサーに突っ込む。そして、車体を横に倒しながら互いに激突し合った2台のバイクはかち合い、衝撃波を生み、互いにドライバーごと吹き飛んだ。
ミク「うわっ!?」 ルカ「チッ!」
ブレイドはブルースペイダーから間一髪で離れるものの、着地に失敗し、倒れ転げてしまう。一方、カリスはいち早くシャドーチェイサーから離れ、カリスアローにカリスラウザーをセットして5と6のラウズカードを取り出す。それを見たブレイドも素早く立ち上がり、ブレイラウザーを取り出してオープントレイを開き、5と6のラウズカードを取り出してブレイラウザーにラウズする。
「KICK」 「DRILL」
「THUNDER」 「TORNADE」
「LIGHTNING BLAST」 「SPINNING ATTACK」
ブレイドとカリスはお互いに必殺技を出し合う。ブレイドは電撃、カリスは風のエネルギーを纏ってそれぞれ必殺のキックを繰り出す。
ミク「うっ!?」 ルカ「ッ!」
2人のライダーはキックで激突する。パワーでならカリスが有利だ。だが、ブレイドは負けじと気合を張る。その気合がブレイドに更なるパワーを発揮させる。そして、カリスを押し始めた。しかし、カリスもそう簡単にはやられない。カリスもさらにパワーを発揮し、両者は拮抗してきた。やがて、両者の使うエネルギーが爆発し、衝撃波となって2人を弾き飛ばした。
ミク「うわあああッ!?」
ブレイドとカリスは大きく飛ばされ、そのまま高速道路から落ちていった。
ミク「う…」
雨の中、高速道路の下の空き地でミクはうつ伏せになって右腕を前に出して倒れていた。ブレイドの変身は解除され、ダメージは大きく、体がまるで動かなかった。
ミク「…そうだ…カリスは…」
ミクは薄れていく意識の中で、カリスの存在を思い出した。ところがその直後、そのカリスはなんと、立ってミクの眼前に出てきた。
ミク「…そんな…」
ルカ「…これで終わりだ。」
カリスは倒れているミクの首目掛けてカリスアローを振り下ろそうとする。ミクは死を覚悟した。だが、カリスがカリスアローを振り下ろそうとしたその時、急にカリスの動きが止まった。
ルカ「何…?」
カリスは突然、右腕を押さえて苦しみ出した。そして、両手と膝を地面についてカリスアローを手放した。
ルカ「…何で止まるんだ…」
カリスは自分に問いかける。だが、当然答えは返ってこない。一方で、体も動かない。カリスは思案の結果、手を退くことにした。
ルカ「…命拾いしたな。」
ミク「…?」
カリスはそう言って、ミクに背を向けて去っていく。ミクはただ、それを黙って見送るしかできなかった。そして、激しくなっていく雨の中で、ミクは気を失った。
ミク「…」
その頃、ルカは「SPIRIT」のカードを取り出し、そのカードに問う。
ルカ「何で邪魔をする…」
ルカは頭に鳴り響く頭痛を抑えつつ、「SPIRIT」のカードを凝視する。