フロントに立ちながらも、華の耳には自分の鼓動がやけに大きく響いていた。
――指が触れた。
――目が合った。
そのことばかり頭をよぎり、目の前のお客様の声がうまく入ってこない。
「……桜坂さん?」
律の低い声に呼ばれ、はっとして顔を上げた。
「す、すみません! ただいま確認いたします!」
慌てて伝票を取り直し、深々と頭を下げる。
お客様が去ったあと、律が横目でちらりと見た。
「落ち着いて。今のは、危なかったですよ」
淡々とした口調。それなのに、華の頬は熱くなって仕方がなかった。