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「本当に羨ましいな。千秋君の奥さん。私はいつまで耐えるんだろう。離婚って言葉も最近よぎるの。もう、期待するの疲れちゃった。何もかもどうでも良くなってきてる」
美奈子は料理に手をつけるわけでもなく、フォークで皿の上のソースをつつく。
「美奈子」
本当に美奈子は寂しいんだと思った。
こうして一緒に食事をして話を聞いても、結局千秋では美奈子の孤独は埋められない。
しばらく会話も弾まず、千秋も何を言えばいいか分からなくなった時、空気を読んでいたのか美奈子が口を開いた。
「千秋君。私、千秋君に甘えても良い?」
美奈子の少し震える声に、千秋の心臓がトクントクンと音を響かせる。
「どうやって甘えさせれば良い?」
千秋は、美奈子をどうやって甘やかせれば良いのか分からない。
「一度で良いの。千秋君と2人きりで過ごしたい。誰の目にも触れられない場所で」
千秋の心臓はドクンドクンと音を変えた。
2人きりで会って甘えさせると言うことが、何を意味しているか千秋も分かっている。
「それって」
千秋の困った顔を見て、美奈子はフッと笑う。
「……………なんてね。ごめん。意地悪言った。千秋君には愛する奥さんがいるのに。羨ましくて、私、変になってる」
悲しい目で美奈子はカクテルを半分まで飲んだ。
「誰かに抱かれれば、夫のこと、待てる気がした。浅はかだよね。結局、千秋君とエッチがしたいだけだもん」
恥ずかしいことも自分には曝け出せれるんだと、美奈子に求められていると千秋は思った。
「後悔しない?裏切るんだよ、旦那さんのこと」
自分でも何を言ってるんだと思いながら、千秋は尋ねずにはいられなかった。
「うーそ。冗談。ちょっと言ってみたかっただけ。そんなの無理だもん。千秋君を誘惑なんて出来ない」
泣きそうな顔で美奈子は千秋を見る。
千秋も美奈子を見つめる。
美奈子の目を見てなぜか、美奈子を満たせるのは自分だけなんだと思ってしまった。
自分を頼る美奈子に応えたくなっていた。
美紅を愛していると頭では分かっていても、今は目の前の美奈子しか見えていなかった。
「一度で良いなら」
千秋は美奈子を見つめながら口を開いた。
「一度だけで良いなら2人だけで過ごそう。それで美奈子が少しでも楽になるなら」
千秋の真剣な瞳に美奈子は真っ赤になる。
冷静になると自分はなんて、はしたないことを言ってしまったんだと後悔する。
「ごめんなさい!本当に、言ってみたかっただけ!そんなことしたら、千秋君だって奥さんを裏切っちゃうんだよ。そんなことさせられないよ」
千秋は美奈子をじっと見つめたまま黙った。
美紅を裏切ってでも、美奈子が欲しいと思ってしまった。
美紅を愛していると言いながら、目の前の美奈子も欲しくなっていた。
千秋は深く息を吐くと口を開く。
「近いうちに部屋を用意しておく。もちろん来なくても良い。でももし本気だったのなら、そこで2人きりで会って欲しい。俺も美奈子と2人で過ごしたい」
千秋の言葉に、美奈子は何も言えなかった。
ただドキドキが止まらず、不思議と裕介の顔も浮かんでは来なかった。