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◇クリスマス
ひまりが転職して数か月が過ぎ、もう季節はクリスマスを迎えていた。
誰との約束もない寂しい今年のクリスマス。
仕事を終えて会社の入っているビルを出ると急ぎ足で駅に向かう。
急ぎ足になったのは、自宅の最寄り駅で小さなショートケーキを買って
ひとりクリスマスをしようと思っていたので、ケーキが売り切れないかと
気にしていたからだ。
「日比野さん~」
うん? 寂しいクリスマスだからか? なにやら空耳が……。
「日比野さ~ん、無視しないでぇ~」ゼイゼイ
「あらっ、新堂さん。そんなに息切らして大丈夫?」
「なにしれっとひとりだけ先に帰っちゃってるんですか、僕を置いて」
「あれっ? いけなかったんでしたっけ」
「迫ったりしませんから、気楽に先輩後輩として、一緒に駅前で
クリスマスケーキ食べましょうよ」
「ふふっ。いいよ、クリスマスケーキ食べましょ」
「今日は混んでるでしょうね」
「でも割と早い時間だから、並ばなくてもいいんじゃないのかな」
あーだこーだとおしゃべりしながら私たちは、でこぼこコンビらしい
クリスマスを楽しんだ。
恋人に立候補してくれた日から新堂さんとは少し距離が縮まった
ような気がする。新しく女子社員が入ってきてその人がお勧めの
良い女子だったら、新堂さん私協力を惜しまないからね。
この時の私の新堂さんへのスタンスはそんな気持ちだった。