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「……うーん、これはちょっと小さいな。こっちは……殻にツヤがない」
里の市場の一角。卵を並べた露店の前で、俺は真剣に腕を組んでいた。 紺色の和服に着替えた俺の姿は、側から見れば「こだわりの強い若旦那」にでも見えるのか、店主の親父さんも心なしか緊張した面持ちで俺を見守っている。
「……兄ちゃん、さっきから随分と熱心に見てるが、うちは毎日新鮮なのを仕入れてるんだぜ?」 「いや、鮮度は良さそうなんですけど……。だし巻きにするなら、黄身の弾力と白身の粘り気が重要なんですよ」
俺は一個、また一個と卵を手に取り、光に透かして確認する。 現代のスーパーの卵は、サイズも品質も均一なのが当たり前だった。でも、ここにあるのは形も色もバラバラな、個性が強い卵たちだ。
「これだ」
俺が選び出したのは、少し赤みがかった大ぶりの卵。 「おっ、お目が高い。それは里の外れで放し飼いにしてる、鶏の中でも一番元気なやつが産んだ卵だ」 「これ、六個ください。あと、そっちの小ぶりなのも混ぜて。味の濃い黄身と、さらっとした白身を混ぜて調整したいから」
「……へえ。卵の味を混ぜるなんて考えたこともなかったぜ」 親父さんは感心したように頷き、藁の緩衝材を敷いた籠に丁寧に卵を詰めていく。
「おい、いつまでかかるんだ? 腹の虫がさっきから『卵、卵』って大合唱してるぜ」 後ろで退屈そうに浮いていた魔理沙が、待ちきれないといった様子で口を挟む。 「魔理沙、黙ってなさい。美味しいものを食べるには、素材選びが一番大事なのよ(お金を出すのはこの人だし)」 霊夢も、俺のこだわりを「プロの所作」だと勘違いしたのか、どこか誇らしげに腕を組んでいる。
「おじさん、これでおいくらですか?」 俺は、両替したばかりの銭袋から、慣れない手つきで銅銭を取り出した。 千円札一枚で受け取った「銭」の山からすれば、卵六個の値段なんて、ほんの指先でつまめる程度の端金(はしたがね)に過ぎない。
「……はい、ちょうど。まいど!」 親父さんから卵の入った籠を受け取る。 レジ袋に入ったネギとキャベツ、そして新たに加わった里の最高級卵。
「よし。次は……醤油と、みりん代わりの酒も欲しいな」 「なんだ、まだ買い物は続くのか? 早く焼いてくれよー!」
魔理沙の文句を背中で聞きながら、俺は次の店へと足を向けた。 財布にはまだ、両替したばかりの「小金」がたっぷりある。外の世界では一日の食費を削っていた俺が、ここでは「最高の材料」を惜しみなく選べる。
なんだか、少しだけ楽しくなってきた。