テラーノベル
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あの日から、君は少しだけ変わった。
いや、正確には「変わらないまま、揺れるようになった」と言ったほうがいいかもしれない。
相変わらず君は笑っていたし、「大丈夫」も言っていた。
でも、その言葉のあとに、ほんの一拍、間が生まれるようになった。
その間に、僕の顔を見る。
まるで「それでも、ここにいてくれる?」と確認するみたいに。
ある休日、君は珍しく自分から誘ってきた。
「ねえ、散歩しない?」
特別な用事があるわけでもない。
目的地も決めていない。
ただ一緒に歩くだけの約束。
それが、なぜかとても嬉しかった。
川沿いの道を並んで歩く。
風が少し冷たくて、君はコートの袖に手を隠した。
「寒い?」
「ううん、大丈夫」
言いながら、君は少しだけ僕のほうに近づいた。
その距離が、胸にくる。
「ねえ」
君が前を見たまま言う。
「私さ、あの日、来てくれたでしょ」
「うん」
「……あれ、すごく助かった」
君は笑わなかった。
強がりもなかった。
「誰かに弱いところ見せるの、怖かったけど」
一度、言葉を切って、深く息を吸う。
「見せても、離れない人がいるって、初めて思えた」
胸が、静かに熱くなった。
「僕は、離れる理由がなかっただけだよ」
そう言うと、君は少し困ったように笑った。
「そういうところ、ずるい」
同じ言葉を、前にも聞いた気がした。
歩きながら、君の指が少しだけ震えているのに気づく。
迷っているみたいに、開いては閉じてを繰り返していた。
僕は、何も言わずに手を差し出した。
君は一瞬驚いて、立ち止まって、
それから、そっと指先を重ねてきた。
強く握らない。
逃げ道を残したままの、優しい手。
それなのに、心臓の音がうるさかった。
「……手、つなぐの久しぶり」
君が小さく言う。
「嫌?」
「ううん」
少し間を置いて、
「嫌じゃない」
その言葉を聞いて、指先に力が入った。
その日から、君は時々、弱音を落とすようになった。
「今日はちょっと疲れた」
「本当は、怖かった」
「一人になると、考えすぎちゃう」
どれも小さな言葉だったけど、
君にとっては、大きな一歩だったと思う。
玲奈は、そんな君を見て、少し安心した顔をしていた。
「ね、最近あの子、ちゃんと人に寄りかかってるでしょ」
「……うん」
「ありがとね」
そう言われて、僕は首を振った。
「僕が何かしたわけじゃない」
「それでも」
玲奈は笑った。
「会いに行き続けたでしょ」
その言葉が、胸に残った。
ある夜、君は僕の部屋にいた。
ソファに並んで座って、テレビはついているけど、誰も見ていない。
君は膝を抱えて、小さく言った。
「ねえ」
「なに?」
「もしさ」
声が震える。
「私がまた強がったら、どうする?」
僕は、少し考えてから答えた。
「また、会いに行く」
「何度でも?」
「何度でも」
君は唇を噛んで、目を伏せた。
「……私、そんな人、初めて」
ゆっくり顔を上げて、まっすぐ僕を見る。
「ねえ、私のこと、どう思ってる?」
逃げ場のない問いだった。
心臓がうるさい。
言葉にするのが苦手な僕には、少し酷だった。
でも、ここで黙ったら、君はまた強がる。
「好きだよ」
短くて、不器用な言葉。
「君が笑ってるところも、無理してるところも」
一度、息を吸う。
「全部含めて、好きだ」
君の目が大きく揺れた。
「……ずるい」
また、その言葉。
でも今度は、涙がにじんでいた。
「そんなふうに言われたら、強がれないじゃん」
君は、そっと僕に寄りかかった。
重みが、愛おしい。
「ねえ」
「うん」
「これからも、会いにきて」
「うん」
「私が大丈夫って言っても」
「うん」
「本当は大丈夫じゃないって、分かってる顔で」
僕は、君の髪に顔をうずめた。
「行くよ」
約束じゃない。
誓いでもない。
ただ、続いていく選択。
つよがりの君に、
僕はこれからも何度だって会いにいく。
恋になったあとも、
君がまた強くなろうとする、そのたびに。
君が「大丈夫」って言えなくなる日が来ても、
言わなくていい日が来ても。
その全部を抱えたまま、
僕は、君のそばにいる。
コメント
2件
ぇめっちゃ感動系!こんな青春したい...泣