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これはirxs様のnmnm(水白)の作品です
この言葉に見覚えのない方は、ブラウザバックをお願い致します
本人様とは一切関係ありません
私にとっては初めての小説になります。
おかしなところがあるかも知れませんが、温かい目で見て頂けたら嬉しいです
「あ、雪だ」
何も考えず空を見上げていると、ひらひらと、何やら冷たいものが降ってくる。
その時、ずっと回っていなかった思考が回り。我に帰る。
今は11月。雪が降るのも不自然ではない時期だった。
「……綺麗やな…」
首に巻いていたマフラーを何気に口元まで上げて、小さく呟いた。
はぁーっと息を吐くと、真っ白な気霜が宙を舞いながら空に登っていく。
僕はその光景を見るのが好きだった。
綺麗なものが幼い頃から好きだった僕からしたら、雪も綺麗なものに入ってしまう。
小学一年生の時は、綺麗だからって理由で母さんの宝石のネックレスを盗んだりしてたっけ。
昔の事を思い出して「ははっ」と笑いながら足を動かす。
「あと一年で僕は大学生かぁ〜…」
「実感湧かないなぁ〜」と、言いながらも大学生になった自分を想像する。
将来の夢はまだ決まってないけど…できればいい所に就きたい。
僕は馬鹿だから楽な所には入れないと分かってるけど…この一年で学力を上げたいとも思っている。
勉強なんてずっとやってれば身につく。
授業を聞いてるだけでもちょっとは分かる。まぁ、分からん奴はただの馬鹿やけど。
そもそも友達も遊ぶ相手もおらんし、幼馴染も誰一人としていない。
「…この見た目やし、しょうがないんやけどなぁ……」
顔が隠れる程大きな眼鏡に、目の下ら辺まで伸びてる長い前髪。
僕には「陰キャ」「地味」という言葉が一番似合っているだろう。
僕は好きでこの格好をしている訳ではない。これはただの親の趣味だ。
高校に上がってから両親にこの格好をしろと言われ、今に至る。
まぁ、どんな格好をしようが、僕はどうでもええからどうでもええんやけど…。
友達ができんのは結構キツい……。
でも、母さんと父さんの頼みだし……仕方ないか。
賑やかな街並みを通って、自分が通う学校まで急ぎ足で向かった。
「ここも雪積もっとるんや…」
学校に着くと、珍しく降った雪に興奮した男子生徒女子生徒がはしゃいでいた。
校門の前で雪遊びをし始める奴らが多くて、僕は前に進めずにいた。
邪魔やな……。
思わずそう思ってしまう。口には出してないが、失礼な事を言ったと反省をした。
どうやってここ通ろう……。
僕が声をかけても、僕の声が小さすぎたのか、全く反応してくれない陽キャ達。
外が寒いからと言ったら、そういう意味ではない。
ただ、このうっさい陽キャ達の側から離れたいだけだった。
「ちょっと、生徒の皆さん!今は登校時間です!校舎に入ろうとしている人がいるので、遊ぶなら端で遊んでください!!」
うるさかったその場が急に静かになった理由は、彼だった。
生徒会長の稲荷ほとけ。
明るく元気な彼は、学校一の人気者で、僕の苦手な陽キャの中に入る者だった。
彼が一声かけただけで、皆、彼に従って端に次々と避けていく。
人気者の彼の人望の篤さがこれ程とは……っと、驚いている自分がいた。
「……あ、そうや。勉強…」
そう呟いた時、生徒会長の稲荷が僕の目の前まで向かって来た。
「…君、あんま見ない顔だね?転校生?」
馴れ馴れしいのか、ただ彼の距離が近いだけなのか、どっちなのか分からない程近い存在のように話しかけてくる彼に一瞬目を張る。
てか、見ない顔って……。
「えっと…前から、いました……」
「え……ご、ごめんね!?僕生徒の名前や顔は覚えてる筈なんだけど…本当にごめんッ!」
頭を深く下げながら大きな声で謝罪をする彼に後ろに一歩足がいく。
こ、声でかぁ……。
僕は普通の人よりも声がいい方だから、結構キンッてなってしまう。
「い、いえ…大丈夫なんで……で、では…ッ!」
逃げるようにその場をあとにした。
「待って…!」と言った彼の声を無視して校舎まで走っていく。
息を切らしながら下駄箱まで向かう。
こんなに走ったのは初めてで、なかなか息を整えるのに時間がかかった。
彼は想像通り、本当に馴れ馴れしい人だった。
「……疲れたッ…」
冬だと言うのに額に汗が流れた。
あんま走ってない筈なのに、汗が出るなんて……っと驚きもした。
まぁ、小さい事は気にしないで、早く教室行こ。
靴から上履きに変えると、そのまま教室まで続く廊下や階段を通っていった。
今日の授業を全て終え、帰る支度をしている時だった。
ピン、ポン、パン、ポーンと、テンポよく放送を合図する音が鳴る。
何かと思い、皆耳を澄ませていた。
『…えー……二年三組の有栖初兎。生徒会室にお越し下さい』
「……は?」
突然の事に思わず声が漏れた。
その放送は、生徒会室からのものだった。
しかも、稲荷…からの……。
二度放送を繰り返すと、ブチッとマイクが切れた。
その放送を聞いても、誰も有栖初兎なんて奴を知らないだろう。
皆不思議に思いながらどんどん教室を出ていき、教室内には僕一人だけになった。
「…どないしよう……行く、か…?いやでも……」
顎に手を当てながらうーんと考え込んだ。
何だか嫌な予感がするし、行きたくはない。
だが、行かなかった事により、今後何か自分にとって不都合な事が起きるかもしれない。
そう思うと、行かないと言う選択肢も捨てがたい。
長い時間考えた結果、稲荷にバレないように帰るという選択肢を選んだ。
鞄を肩にかけると、少ししゃがみながら息を殺して教室から出る。
「……何してんの?」
「ッッ!?」
背後から声がして後ろを振り返ると、そこには少々怒り気味の稲荷がいた。
驚きの余り、その場に座り込んでしまう。
「……生徒会室、来てって言ったよねー?♪放送したのにー来ようとしなかったんだー?♪♪」
明るい声で笑っている筈なのに、目が笑っていない稲荷に背筋が凍った。
「いや…えっと……ッ」
恐怖で声が酷く震えていた。
「…別に怖がらなくていいよ。怒ってないし。ちょっと悲しかっただけ」
僕の目の前でしゃがみ込んで、首を傾げながら言った稲荷。
その仕草が何だか捨てられた子犬のように見えてしまった。
「…悲しい……」
僕は稲荷の言った言葉の一番気になったところを復唱する。
すると、稲荷はニコッと笑った。
「うん。僕は有栖さんと仲良くなりたいだけ」
「…僕と?」
「そう、有栖さんと!」
「……友達なら…別に…」
自分の言っている事が恥ずかしくて、女でもないのにもじもじしながら言葉を言う。
緊張してる時に髪を人差し指でくるくるしてしまう仕草は、未だに直らない僕の癖だ。
「……友達、かぁ〜…」っと、残念そうに言った稲荷の顔が瞳に映った。
彼が残念がっている理由が分からず、首を傾げる。
すると、稲荷は僕と自分の指を絡めて身動きが取れないようにホールドする。
「え、えっちょ……」
さすがの行動に動揺して、一生懸命抵抗した。
「…ふふ、力弱いね。全然抵抗できてないよ?」
ニコッと笑う彼に恐怖を覚えた。
笑っているようで笑っていないその瞳に捕らえられて、石のように固まった。
獲物を捕らえたような、獣のような眼差しを向けてくる彼に足がすくんでしまっていた。
「……僕、有栖さんと友達じゃ…嫌なんだけど」
「と、友達じゃ、嫌…?」
仲良くなるって、友達以外なにがあるんや…?と、疑問が頭に浮かんだ。
彼は僕とどんな関係になりたいのだろうか。それすらも分からない僕に、彼の気持ちは分からないだろう。
「うん。僕のさ、恋人になってよ」
稲荷の口から出た聞き慣れない言葉に一瞬フリーズした。
こ、恋人…!?
僕は「恋人」というワードを聞くまで、彼の僕に向ける想いを知らずにいた。