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ジーク「あの…ほんと…」
ナストナ「ほれ。」
ジーク「もがっ」
ジークがクッキーを食べ終わったと同時にナストナがジークの口にクッキーを突っ込む。
ジーク「もぐ…いやあの話を…」
ナストナ「ほれ。」
ジーク「ちょ」
ナストナ「真面目だなこの童。」
アリィ「だよね。食べながら喋んないの。」
ナストナ「ほれ。」
ジーク「んー!」
ナストナ「お。」
またもやジークの口に手を持ってきたナストナの手はジークによって掴まれる。
ジーク「も、もうお腹いっぱいなんで!」
ナストナ「それは残念。」
ジークに言われ、ナストナはクッキーを自身の口に放り投げる。
ジーク「俺もう喋ることなく、1話終わるかと…」
アリィ「それは言わない約束。」
ジーク「それで…急にこんな高価なものを食べさせられても困ります。支払えるものもありませんし…」
ナストナ「そんなもの要らん。それが目的で食べさせた訳では無い。」
アリィ「1人だと食べきれないから腐る前に食べちゃって欲しいんだって。」
ジーク「その前にこのヒト誰…?」
アリィ「味方。」
ナストナ「そこの童の言う通りだ。確か、親殺しと悪魔だったか。」
ジーク「…別にコイツは悪魔じゃないし、殺されるようなことも…」
ナストナ「知っている。我の指一本も折れるような実力がないのだ。大方、村の連中とやらは悪魔討伐の報酬金目当てだろう。金に目が眩んだ者より、金にいいように利用されている童達の味方につくのは当然の道理だろう?」
ジーク「……。」
(討伐の報酬金や支援金は確かに長いこと貰ってないが…なんで今更になって…いや、そう思われてるならそれでいい。)
ジーク「分かりました。」
ナストナ「ただまぁ我も一般人なのでな。長いことは庇ってやれまい。せいぜい1年ということだ。」
ジーク「けど、そんな長くいても…」
アリィ「見れば分かるよ。私案内してくるよね。ジーク、動ける?」
ジーク「あ、ああ。」
ナストナ「夕方までに帰るように。」
アリィ「そんな長時間外に居ないって。」
ジークは私について行くために手を寄せるが、私は手を離した。
アリィ「…でここが崖。」
ジーク「周りが植物に囲まれてるし、確かにこれは偶然で行くような所じゃないな。」
アリィ「ごめん、勝手に決めて。でも私は、このまま逃げ続けるより、1度裏をかく必要があると思うんだ。」
ジーク「いい案だと思う。だが…タダって訳にも行かないだろ?」
アリィ「家事を手伝ってくれればいいって。あと…ジークの身体のこと気遣ってくれてて…体調の回復に努めろってさ。」
ジーク「…本当に悪い。」
アリィ「謝らないでって言ってるでしょ。それに…貴方に謝られる度に気付けず止めれなかった自分が嫌になる。」
ジーク「……。」
アリィ「まぁだからどうしても謝りたいってなら休んで早いとこ体調回復させてね。」
ジーク「そうさせてもらうが…なんか…休まなくていいって感じるぐらい、すこぶる体調がいいんだよな。」
アリィ「いいことじゃん。 」
ジーク「俺が意識失ってる間、何かあったか?」
アリィ「何か?あ、1個だけあったよ。」
ジーク「どこか怪我とか?」
アリィ「そういうのじゃないから安心して。ちょっと私の部屋来てくれる?」
ジーク「それはいいが、どこに…」
アリィ「ジークの部屋の左隣。」
私はジークが追いついているか時折後ろを振り返りながら、自身の部屋へと走り出した。
ジーク「服?」
アリィ「そう。あの時の格好のままじゃ目立つでしょ?彼女にお願いして買ってきてもらったんだ。」
ジーク「アリィ程目立っては無かったと思うけどな…。アリィは…その顔見せることにしたんだ。その服も似合ってる。」
アリィ「でしょ!顔隠した方が怪しまれそうかなって。元々は隠してたし…にしても気付くの遅いなぁふふ。」
ジーク「悪いな。 」
アリィ「全然いいよ。買ってきてくれたのは彼女だけど、私がリクエストしてて結構拘ってるんだ。例えばこのズボンとか。」
ジーク「それ…短くないか?可愛いけど…危なさが勝つというか…」
アリィ「ジーク、私達はセヌス国から抜けなきゃいけない。だったら多少の危険を省みてでも、肌の露出をさせてセヌス国のヒトの矛盾にならなきゃいけない。」
ジーク「それは一理あるな…。」
アリィ「あとこの靴も拘っててね!厚底の靴にしたんだよ!これで足が長く見えてスタイルがよく見えるんだ!ま、まぁちょっと怖くて厚底にしては低めだけど…」
ジーク「あぁ、だからアリィの背が高かったのか。まぁ低めでいいんじゃないか?高すぎて転ぶのもな。」
アリィ「もちろん自分の分だけじゃないよ、拘ったのは。ジークの分も色々拘っててね。まずはシンプルに白い長い服。」
ジーク「…因みにその理由は?」
アリィ「ジーク絶対ごちゃごちゃ装飾ついた服嫌いでしょ。」
ジーク「すごいな。まじで嫌い。」
アリィ「まぁだからだよ。あと装飾の多い服は狩りにも向かないし。で、次がこの上着。ジークの髪色は明るいから暗い色が似合うかなって。 」
私は服の1着1着を丁寧に解説する。
昔、言われたことがある。嘘をつくには真実を混ぜる必要があると。だから私は苦し紛れに靴のことを話した。
ジーク「ありがとな。そういや…あのヒトの名前聞いてなかったけど、なんて言うんだ?」
アリィ「ナステナだよ。」
ナステナは名前を覚えられるのは問題ないと言っていた。
ジーク「ナステナさんか。」
アリィ「敬語使うと嫌がられるよ。」
ジーク「えぇ…。」
それから半年が経って。
ナストナ「銀の童。」
ジーク「なんです?」
ナストナ「混ぜないと鍋底が焦げるぞ。」
ジーク「え?あ!これ手遅れか…?」
ナストナ「ギリ無事だろう。」
ジーク「すんません。」
ナストナ「構わん。晩飯の準備を手伝ってもらっているのだ。とやかく文句を言える立場では無い。」
ジーク「居候させてくれてるんだし、言える立場ではあると思うんだが…」
ナストナ「最近、ずっと何か考え込んでいるな。」
ジーク「…そうですね。」
ナストナ「何を考え込んでいる?」
ジーク「…アリィのことで。劇的に変わったわけじゃない。でもどこか変わったように見えるんです。何が変わったとか具体的には分からないが…」
ナストナ「ほう。」
ジーク「なんていうかな…ほんとに少しだけなんだが、怖がられてる気がして…。」
ナストナ「怖がられるようなことをしたのでは?」
ジーク「心当たりが無いから困ってるんだよなぁ…。」
台所で2人きりで話しているのを、私は扉越しに聞いていた。
アリィ(…ナストナの件は出来たとしても、私のことを誤魔化すのはもう限界だ。)
気づかれないはずがない。私はこの半年、一度もジークに触れていないんだから。触れそうになる度避け続けた。本当は言うべきなんだと思う。でも言いたくなかった。失望されたくなかったからなんかじゃない。彼は優しすぎるから失望なんて絶対しない。私はどこまでも、彼に、ジークに謝られるのが苦痛だった。私が中心なのにまるで関わることも出来ない未熟と言われているようで。彼の善意を利用していると釘を刺されているようで。 きっと彼は言えばまた謝る。だから言いたくなかった。本当なら何も言わずに去るのが正解なんだろう。でも離れたくなかった。不安だった。情けないけれど一緒にいたくて。だから、私は
ある部屋の扉をノックする。
暫くすると眠たそうに部屋の主が扉を開ける。
ナストナ「一体こんな時間に何の用だ…」
アリィ「…今いい?」
ナストナ「橙の童か。童は早く寝ろ…。」
アリィ「今じゃないとダメなの。」
ナストナ「…作戦会議か?」
私達は以前から夜中にジークにナストナの存在を今後隠すために、話し合いをしていた。
アリィ「今日はちょっと違うの。」
私はナストナの部屋に入りながら答える。
ナストナ「一体なんのようだ?」
アリィ「ここに来た時言ってたよね。私は感情型の魔法で、制御は難しいけど、感覚だけで魔法ができるって。」
ナストナ「確かに言ったが…」
アリィ「ねっ、魔法教えてくれない?」
私は椅子に腰掛け、そうナストナに言った。
ナストナ「忘れているようだから、復習してやろう。お前には知識も自身の定義の理解の必要も無いのだ。何を教えろと?」
アリィ「私、本当になんで魔法を使えてるのか本当に分からないの。」
ナストナ「…童よ、何を考えている? 」
アリィ「何って?」
ナストナ「…お前は魔法を、己の力を酷く嫌っていたはずだ。だというのに…」
アリィ「使えるものはなんでも使うべきでしょ。」
ナストナ「お前は…新たな魔法を…」
アリィ「……。」
私は何も答えず、ナストナの目をただ見つめる。
ナストナ「今の力の制御も出来ないというのにどうやって」
アリィ「できるよ。」
ナストナ「一体その根拠の無い自身はどこから来るのだ…。」
アリィ「絶対できるよ。…あのね、ナステナ。私にはもう、後がないの。私の言い方が悪かったね。出来る、出来ないじゃないの。やるの。ただ。絶対可能にさせる。」
ナストナ「そこまで言うなら…と言っても魔法はイメージというのは教えただろう。他に教えることなど…あ。」
アリィ「?」
ナストナ「あった。」
アリィ「なになに?」
ナストナ「魔力だ。」
アリィ「マリョク?」
ナストナ「橙の童は銀の童より、すぐ腹が減るだろう。 」
アリィ「よ、よくお気づきで…」
ナストナ「それだ。」
アリィ「それ…?満腹感のこと?」
ナストナ「ああ。魔法を扱うには魔力が要る。では魔力と言うのは何か。それは使う度に消費されていく満腹感のことだ。お前の場合”は”。」
アリィ「限界まで使うとどうなるの?」
ナストナ「それは分からないな。ただ…悪魔の場合は朽ち果てる。ろくな事にはならないだろうな。」
アリィ「補充方法は…まさかご飯を食べるだけ?」
ナストナ「そうだが?」
アリィ「そ、そんなのでいいんだ…。」
ナストナ「それと魔力は感知もできる。相手が大きな魔力を消費している時に限るがな。これに関しては…気配としか言いようがないな。よし…1分数えていろ。我は隠れるから己で探してみろ。制限時間は5分。過ぎたら我はここに戻る。」
アリィ「よくわかんないけど分かった。」
私は目を両手で塞ぎ、1分数える。
アリィ「59…60…よし。」
私は辺りを見渡し、部屋の中にはナステナが居ないことを確認する。
アリィ「気配を感じ取る必要があるんだよね…。いや難しすぎない?5分だと闇雲に探しても見つからないから、感知っていうのをする必要があると思うんだけど。」
もう長いこと使っていなかった、魔法を使っていた時の状況を思い出す。
アリィ「集中…してた。魔法は…イメージ…。」
私はハッとする。魔力の感知自体が魔法だとしたら。魔法はイメージだとナストナは言ってた。つまり魔力のイメージを編み出さないといけない。
アリィ「ナストナ…貴方教えるのスパルタ過ぎて先生向いてないよ…。」
アリィ「見つけた!」
ナストナ「それはめでたいな。だが、童の負けだ。」
アリィ「え!?」
ナストナ「後7秒早ければ勝てたな。」
アリィ「細すぎる!」
ナストナは家の外の井戸の物陰に隠れていた。
ナストナ「もっと早く感知できるようにならなければな。悪魔は待ってくれないぞ。」
アリィ「うぐ…。」
ナストナ「だが…初回でコツを掴んだのは見事だ。これはただの好奇心なのだが…童は魔力を何とイメージした?」
アリィ「私は…糸でイメージした。」
ナストナ「糸?」
アリィ「魔法っていうのは魔力や知識から作るんでしょ。編み物みたいって思って。編み物も、糸と編み方の知識がいるし、完成したら最初の糸で確かに出来ているけど全くの別物になるから。」
ナストナ「しかし感知はどうしたのだ?」
アリィ「感知は…自分と繋がっている糸を手繰り寄せたの。ナストナにも糸があって、それは私の糸と繋がってる。」
ナストナ「それは不思議なイメージだな。」
アリィ「魔力は満腹感ってナストナは言っていたけれど…だとしたら悪魔が魔法を使えるのはおかしい。悪魔達は飢え続ける生き物で際限なくヒトを食べるから。矛盾してるの。だから満腹感とは別の何かを消費してると思ったの。共通で同じ糸、魔力を消費してる。だから繋がってるの。まぁ近くにいる時じゃないと感知できないっぽいけど…。」
ナストナ「いいや、充分過ぎるほどだ。だが…童は己が悪魔と変わらないと思うのだな。」
アリィ「…私には違いが分からないんだ。」
ナストナ「そうか。童は本当に賢い。だがその知識をうっかりひけらかしてくれるな。」
アリィ「知らないフリくらいできるよ。」
ナストナ「いい加減知らないフリをするのもよそう。お前は銀の童から教育を受けているとはいえ、少々賢すぎる。無知のフリをするのはやめてやったらどうだ?」
アリィ「誤解だよ。私は知識が偏ってるだけ。ヒトはどうしたら死ぬのかなんて…知らなかったし…。私が知ってる偏った知識はヒトを疑うことと、嘘をつくことだけ。」
ナストナ「そうか。童よ、本当の名を当ててみても?」
アリィ「何言ってるんだか…。私に言ったところで答えは一生わからないよ。実は本名のままかもだし、偽名かもしれないし。」
ナストナ「それもそうだな。我は疲れたから寝る。童も夜更かしは程々にしろ。」
アリィ「はーい。」
2週間後、自室の扉のノック音が夜中に聞こえる。
アリィ(こんな夜中に誰だろう。)
私は扉を開けノックした人物を見る。
アリィ「ジーク。こんな夜中にどうし…あ。確か凄く耳がいいんだよね。うるさかった…?」
ジーク「いや…そんなうるさいって程じゃないけど何か書き物をする音が聞こえたから気になって。」
アリィ「嘘、そんなのも聞こえるの…?」
ジーク「うん。別にそれで起きた訳じゃないから安心してくれ。ただ俺は注意しに来ただけだ。」
アリィ「注意って…私特になにかやらかしてないと思うんだけど…」
ジーク「夜更かししてる。 」
アリィ「えぇー…ダメ?」
ジーク「ダメ。一体何してるんだ?昼間でもやれることなら夜更かしするのはダメだ。 」
アリィ「まあ確かに昼間でもやれることではあるんだけどさ…。その…」
ジーク「その?」
アリィ「見られたくないっていうか…」
ジーク「危険なことでもしてるのか?」
アリィ「…はぁ…しょうがない。隠してもなんか勘違いしそうだから特別に見せてあげる。」
そう言い私は机に置いていた紙をジークに見せる。
ジーク「…お前まだ気にして…」
アリィ「そりゃ気にするよ…文字が汚すぎるなんて恥ずかしいだもん!」
ジーク「読めれば別に困らないって前に言って…」
アリィ「それ気遣いなの分かってるからやめてよぉー!」
ジーク「半分は本気で言ってるんだけどな…。」
アリィ「半分は気遣いじゃん!」
ジーク「やべ。まぁ程々にしろよ。邪魔して悪かったな。」
アリィ「はーい。」
私はジークが部屋に戻るのを見届け自室の扉を閉める。私は以前両親に言われたことを思い出した。嘘をつく時は少しだけ本当のことを混ぜるとコロッと上手くいくと。私はこの時少しだけ感謝した。自身の文字が読めないほど汚すぎて。
アリィ(…構築完了。後は…保険だけ。)
アリィ「ナストナー。」
ナストナ「なんだ?」
アリィ「何か困ってる事とかない?」
ナストナ「橙の童が目の下に隈を作っているのが困っている事だな。」
アリィ「そういうのじゃなくてさぁー。」
ナストナ「さっさと寝るんだな。」
アリィ「最近は文字の勉強飽きたから寝てるよー。」
ナストナ「飽きるのが早くないか…?」
アリィ「もう受け入れました。」
ナストナ「そ、そうか。」
アリィ「焦ってるでしょ、ナステナ。」
ナストナ「何故そう思うんだ?」
アリィ「ジーク情報ー。」
ナストナ「だから止めなかったのか銀の童は。」
ジーク「今弓の手入れしてるから手が離せないだけですー。でも焦ってるのは否定しないんですね。」
ナストナ「まぁな。この家は本当の我の家では無いのだ。そろそろ実家に帰らないといけないのだが…いけないと分かってはいるのだが…遠いからなぁ〜…。」
ジーク「後悔しないように帰った方がいいと思いますよ。もうすぐ俺らも1年経つのでここを発ちますし。」
ナストナ「…そうだな。」
ジーク「なんなら方向同じだったら一緒に行きますか?心強いですし。」
ナストナ「そうしたいのは山々なんだが色々あってな。遠慮しておく。」
アリィ「ねーナストナ、夜に遊ぼうー。私またアレやりたい。絵柄合わせるやつ。 」
ナストナ「はいはい。そこまで心を開いてくれるのは嬉しいが、いい加減頭を乗せる のはやめてくれ。さすがに重たい。 」
アリィ「んー。」
ナストナ「…で、遊ぶというのは口実だろう?」
アリィ「ジーク、耳がいいから寝たあとじゃないと話せなくってね。本題はお昼に話したこと。でもそれはそれとして絵柄合わせるやつもやりたい。」
ナストナ「あ、そう?」
アリィ「アレ楽しい。まぁナストナのこと、この先誤魔化さなきゃだから、一緒に行くっていうのは厳しいんだけどさ。…私も一生に来ては欲しいんだよね。」
ナストナ「そうは言われてもな…。」
アリィ「私さ、上手く魔法の制御がまだ出来なくてさ。何かあった時私を止めてくれると心強くて。」
ナストナ「しかし最近は落ち着いているだろう。物が浮いてるのをここ最近は見かけていない。」
アリィ「嵐の前の静けさって言葉知ってる?」
ナストナ「…不安、と。」
アリィ「そう。ねぇナストナ。私この1年貴方と過ごして思ったんだ。貴女ってとっても好奇心旺盛だなって。無理強いはしないけど知りたいことはなんでも自ら聞く。私の魔法がいつの間にかある程度は制御出来ているの、知りたくない?」
ナストナ「…聞きたくないと言えば、嘘になる。」
アリィ「いいよ、教えてあげる。でも、これは取引だよ。答えてあげる代わりに、貴女は私について行って私に何かあった時は止めて欲しい。」
ナストナ「…あの時とは立場が逆だな。」
アリィ「そうだね。…アビスに送り届けてあげようか?」
ナストナ「…それがどういう意味か分かっているのか。」
アリィ「分かってるよ。ナステナこそ分かってる?…ナストナが帰らない理由って、遠いからじゃないでしょ。」
ナストナ「では何と言うのだ?」
アリィ「貴女は帰りたくても帰れない。その体は借り物だから。」
ナストナ「…これが我の肉体ではないと?」
アリィ「私は出鱈目を言ってる訳じゃない。貴女の生活風景が教えてくれた。貴女はアビスのことを実家と言った。でもおかしいんだよ。貴女の体はね、毒の抗体がありすぎるの。まるでセヌス人のよう。この辺り一帯に広がる植物はね、全部毒なんだよ。私とジークには効かない。でも貴女が触れてかぶれないのはおかしい。 」
ナストナ「セヌス人がアビスの番人とは考えられないか?」
アリィ「ないね。だって…貴女人間じゃないもん。」
ナストナ「……。」
アリィ「悪魔には独自の言語と文化圏が恐らくある。それは貴女の授業が教えてくれた。魔法には3つも種類がある。それが浸透していることがヒント。そして貴女が帰れない理由は、優しさ。アビスに数日も滞在すれば、人間の体は朽ち果ててしまう。貴女が何故その体を借りることになったのかは分からない。でも自分の都合のためだけに死んで尚も傷付けるようなことをしたくなかった。 」
ナストナ「…見事。」
アリィ「それはどうも。貴女は私の体を借りればいい。ただし主導権を握るのは私だけどね。それで少しは罪悪感に苛まれなくなるんじゃない?」
ナストナ「…我は…分かった。その取引承った…。」
アリィ「契約成立だね。ねぇそこまでして何故貴女はアビスに戻らなきゃいけないのか教えてくれたりする?」
ナストナ「…抜け出してきたのだ。本来は一時もアビスから出てはいけない存在だ。取引の対価をまだ我は貰ってない。」
アリィ「はいはい。どうやって私が魔法を一時的に制御化してるでしょ? 」
ナストナ「ああ。」
アリィ「簡単だよ。私の魔法の根源の感情が怒りなら、怒りを抱かなければいい。ナステナは教えてくれたでしょ。魔法はイメージだって。」
突如ナストナは椅子から立ち上がり、ナストナが座っていた椅子は横たわる。
ナストナ「まさか…!」
アリィ「いやぁイメージ掴むまでは大変だったけど1回できちゃえば楽なものだね。そ。そのまさか。私は怒りを一切封印した魔法を作った。」
ナストナ「そんな魔法認めん!」
アリィ「認めん?ねぇ。貴女さ、私のなんなの?」
ナストナ「それは…」
アリィ「無駄な茶々を入れないで。今のアリィは私の理想なの。私だって馬鹿じゃない。私という性質は大半がきっと怒りで作られてる。そんなものに蓋をしてしまえばいずれは廃人になる。だから私は同時にもう1つ作ったの。新しいアリィを。人当たりがよくて天真爛漫で、気になったことはなんでも聞いて、それでいて自身の立場を理解出来る頭の良さがあって、そして…欠けてしまった怒りを抱くフリができる。私がアビスに連れて行ってあげると言ったのもこれが理由。アビスに2日いれば精神崩壊し、4日後に体が朽ちる。封印した感情は砦でもあるの。契約は絶対だよ。結構いい 提案だったと思うんだけど…なんで泣いてるの?」
ナステナ「 」
その時言われた言葉はもう覚えていない。
日に日に限界は感じていた、私が抱いていた怒りは消化した訳ではなくて無理やり蓋をしたものだ。抑圧されるだけというのならば、膨れ上がるのは当然だった。あろうことか、作り上げた理想の自分自身に心配された。
アリィ「…私には本当になんの話か分からない。でも貴方には違う。そうでしょう?」
ええ、私には痛いほど憎たらしいほど分かってしまった。だから私はアンタが嫌いだ。