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傾「以前俺は言ったな。怒りの矛先を間違えるなと。お前は随分察しが悪いようだからな。直接的に言うことにした。お前が怒りの矛先を自身に向けている限り、魔法を制御できることは無い。それはお前が1番分かっているのだろう?」
アリィ「……当たり前でしょ。」
傾「別に俺は怒りを抱くなとは言わない。さっさと消化しろと言っているんだ。」
アリィ「それが出来たら苦労してない。」
傾「…本来お前の怒りの矛先は、イドゥン教に向けられるはずだった。どういう訳か自身に向いている理由は大方想像がつく。立て。」
アリィ「何考えてるわけ?」
傾「俺にとってお前は力加減を覚えていないだけの赤ん坊だ。俺と戦え。打ち負かしてやる。」
アリィ「…なにそれ、頭おかしいんじゃない。」
傾「あの薄気味悪い貼り付けた笑顔より、そちらのが随分と似合う。」
アリィ「…ここじゃ無理。シイシャンを巻き込む。 」
傾「白雪、風花の地は禁足地だったか?そこまで短時間だけ移動したい。」
白雪は返答しなかったが傾の呼び掛けに答えたことが分かった。
先程まで森の中に居たはずなのに、気づけば2人は雪原にいた。
アリィ「…コレ出来るなら最初から…」
傾「生憎風花の地限定だ。」
アリィ「そう。」
ノア「で、白雪さん。さっき凄い量の魔力感じたんだけど、本当に大丈夫なんだね?」
白雪「さっきからそう言っていりんしょう…。」
ノア「心配なものは心配なんだよ。」
白雪「2人は先の戦闘で消化不十分なようで、遠くで手合わせをしているでありんす。」
ノア「よくやるよ…。」
白雪「ところで…女子の心配はしねぇんでありんすね。」
ノア「ボクは2人とも心配してるけど…」
白雪「隠さねぇでようござりんすよ。」
ノア「……。」
白雪「主さんはずっと女子の心配ではなく、自身の命の心配をしていりんしょう?」
ノア「…君らグルだね?」
白雪「くふふ。」
ノア「随分余計なことしてくれたね。」
白雪「なんのことか。」
ノア「とぼけないでよ。」
白雪「わっちらは少し話をしただけ…きっかけは別でありんすよ。アレは元々…とうに限界でありんした。」
ノア「あんな爆弾みたいなものにわざわざ触れるなんて理解できない。君達は命が惜しくないの?」
白雪「わっちにとっては傾が全てでありんす。傾がやるというのであれば、わっちは従うだけ…。傾が何を考えているのか…それはわっちにも分かりんせん。」
白雪(しかし…恐らくは…)
ノア「はぁ…。」
白雪「心配しなくてもようござりんすよ。上手くやるはずでありんす。それまでわっちは夕餉を作りんしょうかね。」
傾「喋れる余力はあるか?」
アリィ「ギリね、ギリ。指1本も動かない。」
傾「魔力が無くなるとそうなるのか。」
アリィ「んなわけないでしょ。どうなるか分からないのに使い切るとか馬鹿すぎる。」
傾「俺も流石に疲れた。 」
傾は仰向けに寝転がるアリィの横に座る。
傾「…これで分かっただろう。他の奴らがどうかは知らんが俺はお前に勝てる。」
アリィ「……。」
傾「俺が居る時はその力はそのままにしておけ。先の戦闘で大分消化したのだ。今のところ害はないだろう。」
アリィ「…私、アンタが嫌い。今の私の全てを否定してくるようで。」
傾「俺もだ。昔の自分を見ているようで。」
アリィ「そのくせ、アンタは私を気にかける。それが嫌いなの。」
傾「お前への態度を改めるつもりはない。…子供を気にかけるのは大人の義務だ。」
アリィ「……。 」
傾「なんだ意外か?」
アリィ「多少は。ところでこれいつ帰れるの。 」
傾「白雪が迎えに来るまで待機だ。」
アリィ「その間に凍え死ぬでしょ、何考えてんの。」
傾「どうせ戦って多少暑くはなっただろう。それにお前あのまま戻れば、シイ…あぁここは禁足地だからヒトは居ないか。ノアに殺されていたぞ。」
アリィ「…ノアに?」
傾「奴は優しい訳ではなく手段を選ばないだけだ。自分の脅威になるなら真っ先に排除しようと動く。」
アリィ「…なんでそんなこと分かるわけ?」
傾「有名だぞ。かつて一人の司祭に成り代わり、テオスを誘拐しフィヌノア国を混乱に陥らせたアヴィニア人の話は。」
アリィ「そう。アンタさ。」
傾「何だ。」
アリィ「意外と私の事好きだったりする?」
傾「馬鹿も休み休み言え。…まさかここに戻ってくることになるとは想定外だった。 」
アリィ「戻りたがらなかったもんね。」
傾「生まれた場所だからな。他の土地よりも嫌気がさす。」
アリィ「ここって禁足地なんだよね。こんな場所長居してもいいの?」
傾「問題ない。そもそもの禁足地になった原因は俺にあるのだから。」
アリィ「…アンタ何したの?」
傾「白雪に聞けば分かる。俺の当時の記憶は曖昧だ。ただ覚えてるのは、愛した者が人間の汚い価値観に殺められたことだけだ。」
アリィ「アンタに愛とか似合わないね。」
傾「お前にも似合わないな。…アヴィニア人を殺した理由はなんだ?」
アリィ「ああそれね。偽物だから。そんなこと言っても信じないだろうけど。」
傾「説明を聞かなきゃなんともな。 」
アリィ「イドゥン教の奴らってさ、プライド高いでしょ。」
傾「鬱陶しく感じるくらいにはな。」
アリィ「そんな奴らがアヴィニア人を頼ると思う?それに…魔法の使い方が下手くそすぎる。魔力の配分も組み立て方もおかしい。まぁそれだけじゃ確実にとは言えないんだけど…私はああいうのに1回だけ会ったことがある。」
傾「経験からか。」
アリィ「そう。…会ったのは目の前で生首になったはずの母親だった。」
傾「悪趣味だな。」
アリィ「ほんと。イドゥン教に来るように言われたよ。」
傾「死んだと頭で分かっていても、未練はそう簡単に断ち切れるものじゃない。お前はどうやって…」
アリィ「簡単だよ。違う名前で呼ぶ親が何処にいるの?もう本当の名前は私しか知らない。これはね、両親が最後に残してくれた保険。まさか役立つとは思わなかったけど。…でも瓜二つな容姿は拒むのも殺すのも負担が大きい。だから、ノアに会わせたくなかった。これが理由。」
傾「…そっくりな容姿の偽物か。だがアヴィニア人の偽物は魔法が使えた。考えたくは無いが…」
アリィ「…多分アンタと同じこと考えてる。」
白雪「そろそろ終わりんし…大怪我じゃありんせんの!?」
傾&アリィ「コイツのせい。」
2人はお互いを指さし、白雪に不服そうに伝える。
白雪「因みに勝敗は…」
傾「当然俺に決まってるだろ。」
アリィ「頭から血を流しておいてよく自信気に言えるよ。 」
傾「お前が瓦礫を飛ばしてきたせいだぞ。」
アリィ「私はジークとノアさえ傷付けなきゃいい。だからアンタに負けるのは癪に障る。」
傾「難儀な奴め。」
アリィ「アンタが投げた変な武器で、私左肩上がんないんですけど。 」
傾「クナイだ、クナイ。」
アリィ「心底どうでもいい。」
白雪「早いとこ治療しねぇといけんせんね…。」
白雪「主さん〜、ちと手当を手伝っておくんなし〜。」
ノア「おかえ…死屍累々だね…。」
白雪「流石に2人は重うござりんす…。」
ノア「2人とも何してたの?あ、白雪さん傾はボクが手当するね。」
白雪「よろしゅう。」
傾「手合わせを…待て待て、首が締まる締まる。」
ノア「私念があるからね。白雪さんから大体のこと聞いてるよ。アリィも後で覚悟してね。」
白雪「わっちは味方しんせん。」
アリィ「…そう言えばコイツが、すぐに戻ったら私がノアに殺されるぞって。」
ノア「ボクがアリィを?」
傾「本人に言うかそれ。」
ノア「ないない!そもそもボクアリィ居なくなったら死んじゃうって。」
アリィ「だよねー。長い期間一緒にいる方を信用するに決まってるでしょ。」
傾「別に俺は仲違いをさせようとした訳じゃないぞ。」
ノア「何思ってそう言ったのかと思ったけど…あー、大体分かった。ボクから傾のフォローしてあげるけどその前に謝らせて杏。」
アリィ「色々言いたいことはあるけど何を?」
ノア「…ごめん、ボク杏がどういう状態か分かってた。…自分に魔法をかけてるの。」
ノアは気まずそうにアリィに話す。
ノア「でも万が一巻き込まれたりしたらやだなって、わざと触れないようにしてた。最低だよね。」
アリィ「…あのそもそもどうやって気づいたの?普通は気づかないと思うんだけど…」
ノア「ああそれは、ボクとアリィの相性が悪いだけだよ。記憶と感情ってね密接に繋がってるんだ。その時その人が何を思って何を感じたか、それ含めて記憶だから。ボクの誰かの記憶を見るのって、あれも全部再現でしかないんだ。だから元々なにか欠落してたら覗けないんだよ。本人が忘れた記憶もそう。」
傾「そういう意味だったのか。」
ノア「君は、余計なこと言っていちいち杏を怒らせるからあえて言わなかったんだよ。少しは反省して欲しいかな。」
傾「嫌だが?」
ノア「あぁもう…謝って許されることじゃないと思う。それは分かってる。杏の力だけ借りて自分はただ眺めてただけで…」
アリィ「別にシイシャンに対して怒ったりしてないよ。気付かれてたのは驚いたけど…全部勝手に1人でやったことだから。自己責任だよ。」
ノア「杏…」
アリィ「その代わりジークには内緒にしておいてね。」
ノア「それは…えっと…いいのかな…」
傾「お前が定期的に手合わせをしてやればいい。ヒトというのは鬱憤を溜めたままでは、生活がまともに出来ん。恐らくコイツは魔力と怒りが合わさっている。手合わせをして魔力を減少させれば、鬱憤も少しは晴れ冷静になる。 」
ノア「そんなことある…?」
傾「予測でしかないがな。」
ノアと傾は2人でアリィの方を見る。
アリィ「いや分かんないって。」
ノア「それなら…まぁ…でも多分バレると思うけどなぁ…。」
アリィ「…他の人なら嘘ついてもバレるだろうけど…私は別だよ。初対面の時から嘘をつき続けてるから見抜けないんだよ。感覚に頼るしかない。」
ノア「…分かった。…で、さっき言った傾の話なんだけど、多分噂にこれ尾ひれが付いちゃってるね。まぁ狙い通りではあるんだけど…。」
傾「噂だとイドゥン教司祭にいつの間にか成り代わったという話だ。」
ノア「その噂で成り代わられたイドゥン教司祭ってどうなってる?」
傾「お前に殺されたことになってる。」
ノア「やっぱり…。彼、優秀すぎて扱いに困るなぁ。まぁ情報不足すぎてフェニックスが噂に頼るのも当然だよね…。昔アヴィニア人も荒れてたし…。」
アリィ「彼ってことは面識があるの?」
ノア「まぁね。まず結論として彼は殺してない。じゃあなんでそんなことに噂がなってるかって言うと…死んだことにしたんだよ。彼からの提案でね。そもそも成り代わろうって提案したのも彼…ザセムから。」
傾「裏切りか?」
ノア「裏切り…ね。確かにフィヌノア国にとっては裏切り者だよ。でも、きっと本当に心の底から忠誠をクロノ司教に誓っていた。昔、頼まれたんだ。司教を止めてくれって。ボク達の言語で。結果は…まぁ見ての通り。」
傾「わざわざ死んだことにしたというと、国外に出たんだろうが見つからなかったのか? 」
ノア「普通は見つかるよ。ザセムとボクは姿を入れ替えたんだよ。ザセムはただ国の外壁をうろうろしてただけの白髪の一般人に、ボクは密かに抜け穴を作っていたザセムに。その後、ザセムがどこに行ったかは知らないし、何をしたのかも知らない。でも1つ言えることはザセムは生きてる。」
傾「テオスを救出するなら、その抜け穴を使うのが1番ではあるが、当然塞がれているだろうな。」
ノア「そもそも3人じゃ無謀だよ。…行きたい場所があるんだ。」
アリィ「…行こうかそこに。絶対に負ける勝負なんてやれないからね。」
ノア「ありがとう…!」
アリィ(…やっぱりノアは優しすぎる。)
アリィ「手当ありがとう、私ちょっとやらなきゃいけないことがあるからちょっと行くね。すぐ戻るよ。」
ノア「手伝おうか?」
アリィ「大丈夫。」
傾「俺が行くからいい。」
ノア「2人で行ったらまたなんかやらかさない?」
白雪「そんな気力は残ってねぇと思いんす。」
傾「まぁそれなら… 」
アリィ「どう思う?」
アリィは死体を運びながら、穴を掘っている傾に問いかける。
傾「…アレはダメだな。平和主義者だ。同じ目に遭わせてやりたい。その考え以上に情が強い。」
アリィ「…でなきゃイドゥン教のしかも司祭となんて…」
傾「恐らくは一度は穏便に解決しようとして、結果が良くなかったが故に手荒な解決の仕方をしようとしたんだろう。俺の考えは間違っていた。お前の死体を見せるべきではないという意見には同意だ。アレには見せられん。」
アリィ「手伝ってくれるのはありがたいんだけど…素手で掘るのはどうかと思うなぁ…。」
傾「兎だからか知らんが、道具を使うより素手の方が穴が掘りやすいんだよな。ソレ渡せ。埋める。」
アリィ「重いけど。」
傾「構わん。司祭のことだが。協力出来たら楽ではあるんだが。」
アリィ「フィヌノア国の住人は歳を取らない。でも生きてるだけで場所が分からないのがなぁ。 」
傾「難点だな。シイシャンの行きたいところというのに賭けるしかあるまい。…『鴉』があの付近にいればあるいは…」
アリィ「まぁ結局はシイシャン頼りだよね。ねぇ。」
傾「なんだ。」
アリィ「イドゥン教の司祭級の人達と戦ったことないんだけどさ。やっぱり強い?」
傾「…少なくとも俺に勝てるようになれば多少は楽な戦いになると思うぞ。手合わせの誘いか?」
アリィ「……そう。」
傾「怪我が治ったらな。」
アリィ「あと、さ。なんで私のこと分かったの?シイシャンみたいな理由は無いのに。」
傾「経験と勘だ。1つの感情だけを器用に制御できたりなどしない。笑い方から分かった。」
アリィ「笑い方?結構あの魔法出来はいいと思うんだけど。」
傾「万人受けしすぎる。要は個性がないんだ。他もしかりな。他の奴らじゃ気づかないが、俺はお前と同じことが出来る。 」
アリィ「嘘でしょ。」
傾「やってやる。」
アリィ「うわ!?誰アンタ!?」
アリィは傾の人あたりの良さそうな素朴な笑顔に悲鳴をあげたのだった。