らくがき🇮🇹夢
美味しい物食べて迷子の夢主を保護してるだけ
だいぶ読みにくいと思いますが、何とか理解してね
「へぇ、つまり。迷子になっちゃったの」
ニューヨークチーズケーキにフォークを刺しながら、フェリシアーノはニコニコの顔で問いかけた。
それを青ざめた顔で受け取った少女は、今にも倒れそうなまま、ウンウンと必死に頷いた。周りは人払いが済んだようで、フェリシアーノと少女以外には人っ子一人存在しなかった。
ガラスの向こう側だけが、人影で騒々しく蠢いているだけだった。
話を戻そう、ここは二十世紀のアメリカである。主要国であるイタリアの化身、フェリシアーノは、国際会議場である米国の一都市に赴いたわけだ。
イタリア、ローマからニューヨークまで直行便で約10時間のフライト。
機内食ではフィッシュを選んだ。淡白な白身魚のムニエルは、バター香る上品なソースとマッチしていて、これには美食家のフェリシアーノも舌鼓を打った。それで彼は満足して、フライトアテンダントのお姉さんに本日の寝床とレシピを聞き出した。 お隣のマダムに食欲そそる香味野菜ソースのかかったチキンが与えられたときには、下唇を3度も噛んだが⋯。
マァ、快適な飛行の旅には変わりなかった。お団子に髪を結い上げたスチュワーデスのラテン系お姉さんに連絡先と体温調節の為にふわもこのブランケットを貰った時には人並みにはしゃいだし、情熱的な赤い紅が似合うマダムに機内販売のキャラメルマカロンを奢ってもらった時にはエヘエヘ笑ってちゃむちゃむ食べた。塩の利いたクリームはくどさがなく、マカロンコックの甘さを引き立てていて、これには美食家のフェリシアーノもウンウン唸ってマダムにおかわりをねだった。
その後はお姉さんにカフェ・オ・レを淹れてもらい、備え付けのネットフリックスで「マカロニ」を観た。
彼は自由奔放に見えて格式高きに縛られた男である。であるから、古典的なものを好み、映画でもなんでもレトロを愛する質だった。ビンテージの古着が好きだし、休日は買い物ばかりしている。老舗の高級店でオーダーメイドの革靴を仕立てているし、何度スーツ職人を見送ってきたか知らない⋯。服は何着も変えるが、物持ちの良さはアーサーも顔負けだ。毛玉は馬毛ブラシでとるタイプだし⋯。菊がコロコロでぺたぺた取っているところを見た時は、服が痛まないか心配して顔を歪めていた。
イタリア映画に出てくるアントニオの多さや、ナポリの美しい観光名所や景色を「知らない⋯奇麗な街⋯」と、生娘のように他人事の感想を吐き、ぼーっとして眺め終わる頃には、眠気が先に来ていた。
フェリシアーノはお姉さんにもらった赤のブランケットをかけ直して、シートを誰もいない後ろに倒してから持参した紙のアイマスクをつけて目を閉じた。カサカサのアイマスクは肌に逆立って鬱陶しいので、今度から紙は止めること、保湿し直さなければならないこと⋯と頭にメモを付け加えた。
上品な香水が漂う航空機内。これに集中する頃には意識は途切れ途切れで、キィーン⋯と耳鳴りがしたと思ったらもう到着の30分前に追い込まれていた。
と、充実した機内を過ごし他後に到着したアメリカの都市で。
ネオン街に映える黒髪が蹲っているのを見たわけだった⋯。
長い、艶のある黒が真っ白なセーターにパラパラと散らばっているのだ。それだけで扇情的な魅力があったし、清楚な純朴さが手指をジワジワと蝕んで行った。
下心半分、興味半分。長髪が垂れ下がるモコモコの服を軽く叩いた。
宙に黒がふわと舞った。しっとりとした流れが、天の川のようにキラキラと浮かんだのだ。そうすれば女の顔が出たのだが⋯。しかし、一つ失点があった。
大人びた色情を纏う後ろ姿とは似てもつかず。愛らしい少女の姿があったのだ。それを目の当たりにして、フェリシアーノは若干戸惑った。下心を向ける矛先が消えてしまったから⋯。例えばヴィーナスとか。黒真珠に黒海⋯⋯彼女の後ろ姿を彩る言葉はいくらでもあったが、ありのままの彼女を救う台詞は思いつかなかったから⋯。
しかしもっといけなかったのがもうひとつ。その童顔は、顔に劣らず心もそうであって⋯。
「あ、だれ、誰ですか⋯。」
潤んだ瞳がクルクル動き出せば、フェリシアーノは困ることしか出来なかった。
「どしたの、キミ⋯あ、美味しいもの好き?」
マァ、誘いかけはしたが。
「へぇ、つまり。迷子になっちゃったの」
ニューヨークチーズケーキにフォークを刺しながら、フェリシアーノはニコニコの顔で問いかけた。
それを青ざめた顔で受け取った少女は、今にも倒れそうなまま、ウンウンと必死に頷いた。周りは人払いが済んだようで、フェリシアーノと少女以外には人っ子一人存在しなかった。
手っ取り早く入った、路地から徒歩3分のスターバックスコーヒー。カウンターから最も遠い席で、彼らは静かにお茶をしている。
ガラスの向こう側だけが、人影で騒々しく蠢いているだけだった。
泣き叫ばれるのは困る。話が通じないし、こちらも聞き取りにくいのでイライラするから。
しかし大人しすぎるのも困ってしまう。何をするにもうさぎのように怯えるし、こちらが犯罪者みたいで嫌な気になるから。だから人払いをしたのだが⋯。
俯いたままバニラクリームフラペチーノホイップ増量を傾ける(夢主)を見て、フェリシアーノは平面の顔をした。これは彼が注文してやったものだ。子供は甘くて見た目そのまんまの美味しいやつが好きだと思っているから。
会話も果て、困った彼はショコラのエスプレッソラテを飲みながら、ケーキの美味しさに現実逃避し始める。
もったりと重めの生地は、ねっとりと舌にまとわりつく。しかし不快感はなく、濃厚なチーズの旨みが口内を支配した。サクサクのタルト生地は香ばしく、あっさりしたケーキにしっとり合う味だ。
ニコニコのフェリシアーノは、ロレックスの赤サブを見つめ、ホテルのチェックインに間に合わなくなる事を危惧した。
「ね、キミどっから来たの。俺はイタリアね、仕事できたんだよ」
ルートヴィヒが纏めた52ページのホチキス止め資料を見せながら、イタリアはホカホカの顔で問うた。表紙には自然環境、生態学と経済について⋯とむつかしい事がツラツラドイツ語で書き連ねてあるが、マァエコに関するなんちゃらのことなので気にせずとも良い。
「に、にほんです⋯」
ビクビクしたまま少女が薄い唇を開いた。肩は上下して、呼吸も目も定まっていない。フェリシアーノは案外図太いのでわからないが、日本語が話せる海外顔のセレブイケメンが重厚な紙の束を机の上に無作法に放り出せば怖いものなのだ。マァ顔がいいのでどこを取っても絵になる様なのだが⋯それが返って不気味さを呼び戻すのだった。
「あれ、日本なの。俺の友達も日本人なんだよ、菊って言ってね。そだ、今日は誰と来たの?」
「そう、そうですか⋯お母さんとお父さんです、旅行で」
「そか。自分で言うのもだけど、俺はラフでさ。計画とか立てねーの。キミは?マンマと約束した?」
「あ⋯セントラルパーク、セントラルパークです。行く予定でした⋯」
「いいじゃん、自然はいいよ、最高だ。スマホある?」
「無いです⋯」
サクサクと会話が進む。フェリシアーノは、予め決まっていたかのような、スムーズな受け答えだけをした。
後は少女だ。未だ強ばる顔は綻ぶことなく、まだダマの残る静かな答えだけを選んでいた。
場所が決まっているならいい、と。先程までの居心地の悪さを一切取り払って、フェリシアーノは離席した。(夢主)は突然立ち上がった男の行動がよくわからないばかりで、長い股下をチラチラ眺めるだけだ。
「ほら、立ちなよ。行くよ、セントラルパーク⋯」
煩いガラス窓の向こうを見上げながら、フェリシアーノはニコニコのまま(夢主)の手を、スマートに握った。
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この後なんやかんやでなんやかんやします。誰か続き書いて