会話がひと段落したところで、ランディリックはふと思い出したように問いかけた。
「……そういえば、……リリーの叔父一家は今どうしてる?」
ウィリアムが小さく眉を上げる。
「お前にウールウォード家を追い出されたあとか? 父親の方は俺の知人の倉庫で荷運びをしてる。母親は街の仕立て屋で下仕事だ。最初はどっちも使えないって雇い主からブーブー言われたが、今は大分マシになったみたいだよ。二人とも日銭でなんとか食いつないでるってところだな」
「そうか」
「で、娘の方――ダフネは、今うちの屋敷にいる」
ランディリックの視線がわずかに動く。
「ペイン邸に?」
「ああ。下女として、な? 部屋の掃除や庭の手入れ、洗濯……まあ、リリアンナ嬢が王都でやらされてたような雑務だな」
ウィリアムは淡々と続けた。
「俺が口を利いて雇った。親の方も自分たちが食うので手一杯だし……あのまま放り出してたら、間違いなく行き倒れてただろうしな」
暖炉の炎がウィリアムの横顔を照らし、短く息がこぼれた。
「……そう怖い顔するなよ、ランディ。確かに救えない娘だがな、あの子だって親があんなじゃなけりゃ、まともに育ってたかも知んねぇだろ? とりあえずは俺の目の届く範囲で働かせてるからリリー嬢に悪さなんかできないから安心しろ」
ランディリックは一瞬だけ考える素振りをしてから、黙ってうなずいた。
「ウィル……。僕としてはあんな娘、野垂れ死んでても別に良かったと思うけど……それじゃお前の気が晴れないんだろ?」
一応にあの件にはウィリアムも絡んでいる。そもそもウィリアムが社交界で叔父一家に虐げられた様子のリリアンナを見かけたりしなければ……そうしてランディリックにそのことを報せてこなければ……この逆転劇はなかったはずだ。
「相変わらず怖いことを言うね、ランディ」
「正直なところ、僕は自分が大切だと思うもの以外、どうでもいいからね」
「ああ、知ってる」
ランディリックの淡々とした物言いに、ウィリアムが肩をすくめてみせる。
「ちなみにウィル。お前のことは大切だと思ってるぞ?」
だが不意に、日頃のランディリックからは到底出ないような言葉を告げられたウィリアムは、大きく瞳を見開いた。
「お、おい。何だよ、気持ち悪いな?」
「たまには、ね。ま、そんなわけだから……お前がそうする必要があるって判断したんだったら僕は何も言うつもりはない。とりあえずその娘がリリーを妬んで余計な真似をしないよう、しっかり監視していてくれ」
「了解」
のちにこの軽いやり取りが、ランディリックとリリアンナに大きな転機をもたらす〝影の種子〟になるなんてこと、この時のふたりは知る由もなかった。
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