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二宮は、怒涛の連休という名の異能探偵局の試験を受けて、いつもの学校生活に戻っていた。
校門を潜ると、周りは二宮を意識はしない。
何故なら、この異能教学園とは、二宮二乃に次ぐレベルの高い異能者の集う学校だったからだ。
「二乃〜! おはよう〜! 随分とお疲れだね!」
鞄を振り回しながら二宮の前に現れたのは、
「相変わらず元気ね。ナルは」
十二鳴美。No.12の実力者である。
しかし、一桁と二桁の実力には大きな差があり、異名を持つのはNo.9までとなる。
「朝からホント、騒がしいこと。異能教の恥ですわね」
そう言いながら十二の前に現れたのは、青いロングの巻き髪の四波志帆だった。
「あら〜、No.14の『私以下』の四波さんじゃ〜ん! どうもおはようございます〜!!」
「十二さん、言っておきますけど私たちの実力は大して変わりませんからね!!」
二人は、犬猿の仲であった。
「私のお兄様みたく、もっと異能教学園生としての誇りを持って、周囲に迷惑を掛けずにご登校下さる?」
四波慎太郎。
異能教学園が誇る生徒会長にしてNo.4の実力者。
才色兼備で、二宮より順位は劣るが、学校で注目を浴びるとしたら、彼であった。
「何をしている。急がないと遅刻だぞ」
そんなやり取りの中、後ろから注意を促すのは、銀髪にキリッと眼鏡を掛けた男だった。
「八百万先輩……。すみません、急ぎますわ……」
そして、三人はそそくさと教室に向かった。
八百万昴、生徒会副会長にして、No.8の実力を誇る三年生。
朝礼のチャイムが鳴り、先生が教壇に立つ。
「えー、今日から一ヶ月間、大学から実習生が来る話は聞いているな。それじゃあ、入って」
ガラリと扉は開けられ、二宮は目を丸くする。
「東京大学科学部から来た行方行秋です。よろしくお願いします」
「はぁ!? なんでアンタが……!?」
「なんだ、二宮! 知り合いなのか! なら、学校の案内とかしてやってくれ!」
二宮が困惑する中、行方は相変わらずの無表情でそのまま教壇横の席に着席し、朝のホームルームが進む。
そして、ホームルームが終われば、お決まりのあの時間が訪れる。
「ねえー、行方先生〜!」
「東京大学ってすごい頭いいよね!」
「先生はどんな異能が使えるのー?」
少し歳の離れた大学生。
行方は多少ルックスが良い分、女子生徒からのいい的になってしまっていた。
が、
「僕は無能力者だ」
「あ、次の授業、移動教室だったわよね……」
「急がなきゃ〜……遅れたら怒られちゃう〜!」
異能教学園は、異能の強さこそが全て。
無能力者と明かせば、自分に寄り付かなくなることは行方自身が分かって発言していた。
しかし、一人の少女だけが残った。
「あ、あの……先生は彼女とか……いるんですか……」
「ちょ、ちょっと……ナル!?」
顔を赤らめ、ザ・意識してますと宣言するような質問を投げ掛けるのは、十二鳴美だった。
二宮も今まで遠目から眺めていたが、十二の突飛な質問に思わず身を乗り出してしまう。
「彼女はいない。それより、君は十二鳴美だな。君にはすごく興味があるな……」
そう言うと、十二は更に顔を赤らめる。
「ちょ、ちょっとアンタ!! 何口走ってんのよ!! 先生が生徒に手を出すなんて、それこそ犯罪でしょ!?」
「二宮か。何を言っている。僕は、彼女の『音波の異能』に興味があるんだ。音を操れるなんて凄いだろ? 攻撃にも起用できるし、医療やその他多数で活躍できる」
「ほ、ほら、ナル聞いた? コイツ、こんな感じでクッソ真面目な奴なの! ホント、やめといた方がいいから!」
顔を赤くしたまま、十二はそそくさと移動教室に出て行ってしまった。
「ほら、お前も行かなくていいのか?」
「余計なお世話よ! たく……発言には気を付けてよ。私の友達なんだから!」
「あと、コイツではない。行方 “先生” だ」
「分かってるわよ!! せんせい!! ふん!!」
そして、二宮も急いで支度して教室を後にした。
「ナル〜! 大丈夫だった? あの先生、急に変なこと言うから、驚いちゃったわよね〜……」
しかし、十二にいつもの元気はなく、顔は未だ赤い。
「もしかして……」
「私、初めてだったの……」
「な、何が……?」
「私の音の異能は、実績こそ出せているけど、正直あまり褒められたことがなくて……。だから、あそこまで真摯に私の異能を褒めてくれたのが嬉しくて……」
「ナル……」
しかし、二宮はブンブンと顔を振る。
「で、でもあの先生は辞めた方がいいと思う!!」
「なんで……?」
「それは……その……」
そして、二宮は一瞬の内に “クソ真面目” と、悪口を思い浮かべてみたが、衝動的に動いてしまうだけで、どちらかと言うと真面目な二宮にとって、クソ真面目と言うのは何もマイナスポイントではなく、特にコレと言った理由が出てこなかった。
「もしかして、二乃ちゃん先生のこと好きなの!? 前々から知ってたみたいだし、なら、私が好きになるのも止めようとするか〜!」
「ち、違うわよ!! それは絶対ないから!! 好きになっていいと思うわよ!! ウンウン!!」
「え? そう? じゃあ、思い切ってもっと話し掛けてみようかな〜」
そして、ルンルン気分で十二は移動教室に向かった。
二宮には謎のどんよりした気持ちが残っていた。
そして、長い昼休みが始まる。
「二宮」
「わ! 何よ……急に……」
「お前、朝のホームルームで僕を案内しろと担任から言われていただろ。忘れたのか?」
「お、覚えてるわよ……!」
そして、チラッと横に視線を向ける。
「あ、あの! 私も一緒にいいですか!」
「十二か。いいぞ、二宮とも仲良いらしいしな」
やっぱりか〜……と、二宮は汗を垂らした。
そして、着々と重要施設の紹介を進める。
「ここは何の教室なんだ?」
「あ、そこは生徒会室……」
その瞬間、生徒会室の扉はバタリと開かれる。
「む」
「げ……生徒会長……」
すると、生徒会長、四波慎太郎は、行方のことをぐるぐると舐めるように見始めた。
「なんだ?」
「貴方が今日から来た実習生ですね。私はこの学園の生徒会長、四波慎太郎と言います。どうぞ、よろしく」
そして、四波は手を差し出す。
それに対し、行方も手を出し、握手を交わした。
「ふむ、いい筋肉量だ。No.4の生徒会長は、上から目線だから気を付けるように言われていたが、No.4の自身の実力に怠慢せず、日々努力の跡が伺える」
「ちょ……生徒会長に何言って……!」
しかし、四波はその言葉に泣き崩れていた。
「わ……分かってくれるんですか……! 私はまだまだ力不足だから……日々努力して……ウゥ……!」
「君の努力はきっと結ばれる。応援しているぞ」
そうして、行方は四波の肩にそっと手を掛ける。
「ひぐっ……お名前をお聞きしても……?」
「行方行秋、東京大学科学部から来た。よろしくな」
「東大……貴方も努力されたんですね……」
またしても四波は泣き崩れてしまった。
「生徒会長のこんな姿……初めて見たんだけど……」
「わ、私も……」
こうして、二宮の友人、十二からの恋心と、生徒会長、四波からの尊敬を受け、行方の実習生初日は幕を閉じた。