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『さよなら』
嗚咽が雨音に掻き消される。
『俺はずっと好きでしたよ』
片思いをしていた。
相手はネット上での先輩。
俺達は俗に言う投稿者、で同業の仲だった。
憧れで、心の底から大好きだった。
一緒にゲームを出来る時は本当に楽しかった。
『飲みに行きませんか』
と突然に来るLINEですら愛しい。
俺は二つ返事で承諾した。
彼女が言った。
『またね』
と。
にこ、とまるで少女の様な笑みを浮かべ
此方に手を振る。
“また”と言う言葉に期待させられてしまった、本当に自分でながら中々にチョロいものだ。
皆でゲームをして、時には二人で出掛けて。
そんな事をしている内に彼女に好意を抱く、と言うのは最早必然の事だろう。
LINEが鳴る。
『今日の夜もいつものお店でね』
昨日も行かなかったか、と1人画面を見詰め
苦笑する。
『昨日と同じ所ってのはあれなので
違うお店行きませんか?』
勇気を振り絞りそう彼女に返信する。
漸く覚悟が決まりいつもは面倒臭い、
と突っぱねた俺には似合わない洒落た服を手に取った。
いつも通り飲んで、いつも通り沢山笑った。
彼女の舌の好みに合わせて予約した店には随分お気に行って貰えた様で、喜んでいる顔も愛らしかった。
何時言おうか。
そんな焦りの感情が自身の中に現れ始める。
もし失敗して、今の関係で居られなかったら。
そんな最悪の考えが頭によぎる。
そんなこんなしている内に終電が来る時間になり、二人で駅を走った。
彼女が改札を通り抜けようとしたその時、
手を掴んだ。彼女を引き留めた。
今言わなきゃ、後悔する。
『好きです』
彼女は驚いた顔を浮かべた。
『めめさん、貴方が好きなんです、どうしようも無いくらいに』
普段言えない事も、酔いに任せて。
終電が来る二分前。
めめさんが口をゆっくり開き言葉を紡いだ。
『ごめんなさい』
その瞬間に理解した。
俺は友達で、それ以上の関係を望んでないのだと。
『iemonさんの事は大好きです、でも、それは友情で…私には心に決めた人がいるんです』
そうか、はなから勝ち目など無かったんだ。
泣かんばかりになった。
彼女と何とも言えない沈黙の中駅のホームまで歩く。
彼女との最初で最後の沈黙は、黙っていても、何も喋らなくても、それさえ居心地の悪く感じなかった。
『さよなら』
彼女が電車に乗り此方へ言葉を投げた。
少し苦しそうな微笑を浮かべ小さく手を振る。
いつも言っていた”また”が、
今日はもうなかった。
それはもう会うことがないと言う、どうしようも無い現実を示唆していた。
電車を見送れば此処には居たくない、と言う
感情が俺を襲った。
少し電車賃が惜しいが歩くか。
と言う結論に至り駅を出る。
駅を出ればどす黒い雲が夜空を覆い、またその雲から小雨を俺に浴びせた。
涙を隠す様に。
空を見上げる。
雨の勢いは着々と強くなりやがては頭を下に下げた。
下を向けば涙が零れ落ちた。
我慢してたものが全て流される。
『俺はずっと好きでしたよ』
上着の袖で目元を拭う。
覚束無い手癖でスマホを開けばまだ今日のLINEが残っていた。
そうして俺のちっぽけな恋が終わった。