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「健二くんは知っていたんだろう? キミのお兄さんが日織のことをずっと想い続けてくれていたことを」
お父様がそうおっしゃると、健二さんは合点がいったように頷かれた。
「はい。知っていました。実際とても分かりやすかったので。……だから俺は」
「お兄さんのために一肌脱いでくれたんだね」
市役所へ私を引き入れてくださったこと、修太郎さんのそばに私を置いてくださったこと、そういう諸々を指しての会話だと判ずる。
修太郎さんからは叱られてしまったあれこれだけれども、お父様は少し違う意見をお持ちのようだった。
「健二くん。キミはうちの娘との縁談をただ白紙に戻すだけでも良かっただろうに。色々と手を尽くしてくれて、本当にありがとう。娘が今幸せなのは健二くんのお陰だと、私は思っているよ」
天馬氏にとってはちっとも面白くない、許婚入れ替わり問題だけれども、うちの父にとってはみんなが幸せになれたこと、もっというと私が幸せになれたことこそが、最も大切なのだとおっしゃった。
「私とお父上を掌で転がして自分の目的を遂行するとは。さすが神崎さんの跡目だ。なかなかどうして、健二くんは立派な策士じゃないですか。――神崎さんもそう思われるでしょう?」
お父様がそう言ってご自身の方へ微笑みかけていらしたから、天馬氏はうなずくしかなかったんだと思います。
「ま、まぁ、結果的にはそうなる、か」
絞り出すような声音でそうおっしゃると、天馬氏は私たちの方を向いていらした。
「色々言ったが……わかったよ。わしも、お前たちの意思を尊重しよう。――それでいいな? 宮美、絢乃……さん」
天馬氏が、絢乃さんのことを呼び捨てになさろうとして、一瞬迷われた末に敬称をお付けになられたのが分かった。
「私は修太郎が幸せならそれで構いません」
修太郎さんを優しい目で見つめていらしたあと、うちの両親の方へ向き直られた絢乃さんは、凛とした声音で続けていらした。
「修太郎は神崎と違ってとても一途な子です。必ずやお嬢さんを幸せにするとお約束いたします。歳の差はありますが、どうぞ可愛がってやってください。私も日織さんのこと、実の娘だと思って可愛がらせていただきますので」
そう言って頭をお下げになられる。
私は絢乃さんのその言葉に、思わず瞳が潤んできてしまう。
「こちらこそよろしくお願いします」
両親と一緒に、そう言って絢乃さんにお辞儀をしたら、その拍子に涙がポロリとこぼれ落ちた。
一瞬にして緊張の糸が切れてしまったみたいに、涙腺まで緩んでしまった。
ホロホロと涙が溢れては次々に流れるのをどうしようもなかった。
お母様がそれに気づいてそっとハンカチを握らせてくださったけれど、もうそんなので負えるような状態ではないように思えた。
自分もバッグの中にハンカチを忍ばせているけれど、それを出したところで焼け石に水かな。
(どうしたらいいのでしょうっ)
ホテルでの集まりのあと、同じようになってしまったことを思い出して気持ちばかりが焦ってしまう。
顔を上向けられないままオロオロと考えをめぐらせていたら、
「日織さん」
私の不穏な様子にお気づきになられた修太郎さんが、即座に立ち上がられると、皆さんへ声をおかけになられた。
「すみません。日織さんの体調が優れないようですので、二人で少し風に当たってきます。――あの、藤原さん、お嬢さんの身柄をお預かりしても?」
一応に私の両親へ許可を取ろうと声をかけられた修太郎さんに、「日織はもう、キミの許婚なのだから、好きにするといいよ」とお父様の声が聞こえた。
私はその言葉の嬉しさに、身体がブワッと熱くなるのを感じた。
(私が修太郎さんの……許婚)
感情がますます昂って、涙がどんどん溢れてきてしまった。
水羽凛
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コメント
2件
修太郎さんには叱られたあれこれや、ひおりちゃんに申し訳なさを感じさせられたあれこれ、ひおりちゃんのパパには認めてもらえて健二さん、救われたんじゃないかな。 健二さんの裏工作がなければ2人の今はなかった気もするし!
修太郎さんの「日織さんの体調が優れないようですので」って即座に立ち上がって気遣うところ、もう完全に王子様すぎて胸がきゅんとしましたっ…! それに、お父様が「日織はもうキミの許婚なのだから好きにするといいよ」って言ってくれた場面、やっと認められたんだなって感動で私も涙がじわっときました。天馬さんが絢乃さんを呼び捨てにしようとして迷って敬称つけたのも、成長を感じられて良かった…。みんなの幸せが丁寧に紡がれていくこのお話、本当に大好きです…!✨