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羊と亀のお遊戯会
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#名探偵
空蝉 桜
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おきつね
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18 ◇予言は信じても信じなくてもいい
いいとこ取りの不倫のときとは違い、一緒に5年も暮らしてごらんなさい。
お互い舞台裏を見せることになるでしょ?
彼女はスッピンだって晒さないといけなくなる。
スッピンを見るはめになり、そんなふうに以前のようにお互いきれいに
装って洒落た場所で食事をし、愛を語るような関係なんて終わるのだから
約束の離婚の時期になったら旦那さんも相手の女性も恋心なんて木っ端微塵に
砕け散って欠片も残ってないでしょうよ。
おまけに小さな子を育てる4~5年ってそりゃあ大変よ。
ジャージ着用当たり前、化粧だって体裁付ける程度にしか
なかなか時間なんて取れないでしょうし、そこで旦那さんはアレっ?
どうしてあなたと別れようなんて思ったんだろうって考えるようになるわよ、
きっと。
子供の世話で忙しく家の中、子供のために這いずり回って子育てしている
女性の姿にあなたの姿を重ねるの。
どちらと暮らしてもそう変わらないっていうことにそこで気付くの。
二人を見比べて初めて知るのよ。
外で不倫をしていたときの女の姿と家で家族のために髪振り乱している女の姿を……
立ち位置が変わると皆似たりよったりだということを理解するのよね」
「え~っと、失礼ですがお名前を……」
「あぁ、失礼しました。私は垣内正子と申します。
わたくしは店舗ではなくて、大抵この場所で視ています。
何かありましたらまたご相談に乗らせていただきますっていいたい
ところだけど、もう今回お話したことが全てで、後は守護霊の方々が
あなたをお守りくださるでしょう。
それと友沢さん、今日百子さんをこちらへお連れしたことで
あなたにもきっとご利益があると思いますよ。
例えば、ちょっとしたことで悩んだ時、良い方へと導いていただけると
思います」
「えーっ、そうなんですか。
先生今日はありがとうございました」
「お二人共、今日はお会いできて私もよかったです。
霊能師として20年近く働いてますが、こんなこと初めてでびっくり。
ふふっ。秋野さん、予言は信じても信じなくてもいいと思うわ」
19 ◇祈りの力
夫の浮気なんて誰にでも起こり得るものだし、もしそうなったらという
心構えだけ忘れなければいいだけだと思うの。
それとね、私たちの予言だって完全ではないわ、未来のことなので。
祈りの力って結構大きいのよ。
秋野さんの愛と祈りで未来の旦那様が別の女性に気持ちを持っていかれないよう
祈られるといいと思いますよ」
「はい、そうならないよう祈ります」
私と優子は一礼をして先生のところからお暇した。
「百子、すごいよ。お金取らずに、その上平等に欠けるからって私の分まで
鑑定料返金してくれたじゃない。
本物中の本物の先生だと思わない?
……って百子は複雑だろうけど」
「でも、生きてる間に垣内先生の予言が……私たちふたりの予言が
あたるかどうか検証できるっていうのも面白いかも」
「なんか、ドキドキしない?」
「するねぇ~」
◇ ◇ ◇ ◇
垣内さんに霊視してもらったあの日から11年近くになろうとしていた。
毎日のように自分たち家族の健康と幸せ、そして夫との間の絆が切れない
ようにと祈ってきたけれど、定めには抗えなかったようだ。
夫からは生活費や私の自由になるお金を充分過ぎるほど
預からせてもらっている。
その中からたくさんのお金をへそくりではないけれど、
将来の保険の意味での預金をしている。
今回の結果を鑑みて、早々に夫に提案をして一括支払いで
子供たちの学資保険にも入っておくことを決めた。
夫の方から何か言ってきたときのために準備できることは着々と
進めておかなくちゃならない。
もしかしたら、ということを知らされていたけれど、それでも
信じていた人からの裏切りは、胸にズシンとくるものがある。
安心して頼り切っている状態で現状を知ったとしたら、精神的に
とんでもないことになっていただろう。
伴侶の裏切りの破壊力というやつは、メガトン級だからだ。
ほどなくして興信所の結果も出た。
やはり疑いようもなくクロだった。
百子はこの空しい状況がいつまで続くのか分からない中で、
決めたことがある。
何かひとつのことに打ち込むということ、
子供たちとの時間を大切にするということ。
必要以上に夫や相手の女性へ執着せず、また伸之に対しては
淡々と接することができるように自分の心持ちを律すること。
自分が己に課したことを忠実に守れば、いつの日か陽は我が身を
照らしてくれるだろうと、それを信じて。
……というより、信じるしかないのだ。
20 ◇百合子の想い
この日から百子は以前から心にしたためていたことを早々と
実行することにした。
それは小説を書き始めるというものだった。
プロットはまだ何も考えられないので手始めに
自分のことを書くことに決めた。
本当はノンフィクションになるがフィクションに変換する。
ノンフィクションなんて、関係者にだけ分かることで世間はそれが
ノンフィクションでもフィクションでも同じようなものだと思うから。
修行のような気持ちで始めた。
いきなりパソコンに打ち込むなんてできない。
鉛筆でチマチマとノートに書いていくことにする。
自分の身に起きたことを書くだけなので日記の感覚で
スラスラと書いていく。
とにかく、書く。
書く練習を積む日々。
意識を書くことに向けるだけでも丸儲け。
そんな気持ちで百子は毎日机に向かった。
そしてその後百子が興信所を利用することはなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
◇百合子の想い
石田と恋人関係になってもう2年……が過ぎ、もう少しすれば
丸3年になる。
彼は最初の頃と変わらずやさしいし、まめである。
自分と会っている時は家庭の話は一切せず、家庭の匂いを
出したことがない。
既婚者の恋人としては満点レベル。
時々、結婚しているのは何かの間違いで独身なんじゃないかと思うほど。
見た目だってとても40代には見えないほど若々しい。
自分に溺れている石田はいずれ妻と別れ、自分と結婚するだろうと
百合子は考えていた。
だが……彼が既婚者だと思い知るのはいつまで経っても
『結婚』の二文字が二人の間で出てこないこと。
奥さんより私のほうが好いのなら
『子供たちがもう少し大きくなったら結婚しよう。
待っててくれるね?』
くらいは言うもんじゃないだろうか。
だが彼は私と別れるとも言わないが結婚したいとも言わない。
やさしいけど酷い男。
コメント
1件
垣内先生の「予言は信じても信じなくてもいい」って言葉、後から効いてくるなあ。11年祈り続けても抗えなかったっていう現実が重い。それでも百子さんが淡々と準備して、書くことに向き合い始めたのが、すごく百子さんらしくて印象的でした。一方の百合子さんの「やさしいけど酷い男」っていう認識も、不倫関係のリアルが詰まってて切なかったです。