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こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
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小児科医青×外科医桃のハロウィンネタ。
ワードパレットでリクエストいただいた3つの言葉(タイトルになってます)を本文中に使用してのお話になります
「引き寄せて 今だけは 見ないで」
夜になって病棟のナースステーションの前を通った時、明らかに通常業務とは違う作業をしている看護師たちを見かけた。
その中には今月外来担当のはずのほとけまでいる。
自分の業務が終わったから入院病棟の手伝いに来たんだろう。
…どこにでも出没するやつだな。
「何しとるん?」
声をかけると、看護師たちが「あ、いふ先生おつかれさまです!」と挨拶を寄越してきた。
「おつかれさま」と応じた俺に、ほとけが折り紙で折った白くて小さな物体をこちらに向けてくる。
赤い舌をべ、と出し、頭には黒い三角帽子。……かわいらしいおばけだ。
「もうすぐハロウィンだからねー、小児病棟では31日にイベントやるし準備してんの」
そう言うほとけの手元には、これまた折り紙で折られたかぼちゃやこうもりなんかもある。
ハロウィン用のガーランドなんかも用意されていて、「なるほどそんな時期か」なんて納得した。
「いふくん、今年も当日よろしくねー。去年よりかっこいい衣装用意しといたから」
…またか。本来ならコスプレなんて絶対やりたくない。
だけど病棟に入院している子どもたちが楽しみにしていることも知っている。
だから自分だけ「いやだ」なんて言えるはずもなく、毎年看護師たちの思うままに着せ替えられている。
去年は確か海賊、一昨年はアメリカンポリスのコスプレをさせられた覚えがある。
「…絶対ろくなもんちゃうやん。近藤先生にお願いしたら?」
「近藤先生は意外と乗り気で自分で用意してるって言ってたよ」
「…まじか……」
「なんか『くまの〇ーさん』のいい衣装見つけたんだって」
…それほんまに大丈夫なん?公式ちゃうんちゃう?
そう言いかけたけれどどうせ院内のイベントなだけだし、何より温和な先輩には似合いすぎるのが想像できたので口を噤んだ。
「それより今年はどこの科に応援頼もうかって今皆で相談しててさー」
次の折り紙を丁寧に折り始めながら、ほとけが不意にそんな呟きを漏らした。
小児科担当の医者と看護師がコスプレすると言っても、通常業務につかなければいけない人間もいるのでイベントとしては人手不足だ。
そこで毎年、どこかの科に応援要請をしている。
去年は緩和病棟に頼んだはずだ。
ノリノリのしょにだがバニーボーイだかバニーガールだかの格好をしてきて、「ここは小児病棟です!」なんて看護師長に怒られて連行されていったのは記憶に新しい。
「…内科とかは?この前内科のレジデント暇そうにしとったで」
「えぇー。それより今皆で外科に頼みたいねって話してたんだけど。ないちゃんとかあの女医先生のコスプレ絶対めちゃかっこよくない?手錠かけられた超イケメン囚人と鞭持った美人看守とかどう?」
「内科で!」
少し圧掛けするように声を低く這わせると、周りの看護師は驚いたように一斉に俺を見上げた。
ほとけだけは気にする素振りもなく「えぇー絶対外科のがおもしろいのにー」なんて拗ねた口調で言う。
そもそもその設定やったら去年のしょにだよりもやばいし、病棟からつまみ出されるに決まってる。
家に帰ってからないこにその話をすると、あいつは声をあげてげらげらと笑った。
「えー俺やりたかったなー。全身ボーダーの囚人服着て手錠かけられんのおもろそう」
絶対ないこならそう言うと思った。だから嫌だったんだ。
話が回ってきたらないこも「あの人」も「はいはいはい!」と挙手する勢いで引き受けるに決まっているから。
「まろが反対したからかな。結局あにきのとこに頼んだみたいよ。帰り際『めっちゃいかついコスプレしてガキども怖がらせたろかな』って言ってた」
「ICUに頼むなよ…一番忙しいやろ」
それにしても何で皆そんなに乗り気なん。
うなだれるようにソファにもたれかかると、そんな俺にないこは寄り掛かってきた。
手にしたスマホを弄りながら苦笑いを浮かべる。
「そもそも何でそんなに反対するんだよ。俺がハロウィンイベントに応援で行くくらいいいじゃん別に」
「絶対いや」
ないこの腰に手を回し引き寄せて、その肩に自分の額を押し付ける。
ないこのビジュだぞ、どんなコスプレをしても似合うに決まってる。
それが某ゲームの兄弟キャラクターのようなおもしろコスプレだとしても、笑いと共に話題をかっさらうだろうことは明白だ。
かっこよかろうがかわいかろうがおもしろかろうが、ないこ自身に周囲の目が向くのは耐えられない。
「くそがきみたいなこと言うじゃん」
苦笑まじりにそう言いながらも、呆れている様子はない。
俺が子どもみたいな拗ね方をすることが嬉しくもあるのか、ないこは後ろ手に俺の頭をぐりぐりと乱暴に撫でた。
「まろはそうだよね。俺に周りの目が向くの嫌なタイプ。『見ないで!!』って」
「ないこはちゃうよな」
「まろ何のコスプレすんの? かっこいい衣装着て周りの看護師が目ハートにしてたら、『でも残念ー、お前らのじゃねぇから』って思うね俺は」
笑って言って、ないこはスマホのスケジュールアプリを立ち上げる。
「31日午後だっけ? 外来日じゃなくてラッキー。見に行くわまろの勇姿を」
「来んでえぇって…!」
声を荒げて全力で阻止しようとする俺に向けて、ないこはからかうようにしばらく声を立てたまま笑っていた。
「聞いてないんやけど」
「だって聞かれなかったからね」
ハロウィン当日、用意された衣装を身に纏った俺はうんざりした口調で言った。
それにほとけはさも当然とでも言うようにしらばっくれた顔で応じる。
…こんなコスプレなら絶対引き受けなかった。
どうせならもっと笑いに振り切ってくれればよかったのに。
「はいいふ先生、できましたよ。もう動いて大丈夫です」
新人の看護師がそう告げてきたから、俺は座らされていた椅子から立ち上がった。
ひらひらでびらびらした襟元と袖口の白シャツ、つるっとしたサテン素材の青いベスト、黒いスラックス……に、極めつけは膝下まである長マント。
どれもこれも着慣れないものばかりでうざったい。
加えて看護師の子にメイクまで施され、髪は完全に慣れないオールバックにまとめられている。
自前の歯には接着剤を使用して牙までつけて。
「そんなふてくされないの、いふくん。これから子供たちの前に出るんだからさ。はい、笑顔ー!!」
「笑顔のヴァンパイアがおるか!」
喚くように言うとそれが逆におもしろかったのか、ほとけはけらけらと笑う。
メイクをしてくれた看護師も俺達のやり取りに苦笑いを浮かべていた。
「子供たちももう仮装して準備してるよ。行こ」
それでお前は何でナース姿に女装しとるのにそんなに乗り気なん。
そもそも職業が実際看護師のくせに、ミニスカ、ニーハイ、ナース帽なんてコスプレをする意味が分からない。
ぶつぶつと不満を転がし続ける俺を気遣う様子もなく、ほとけは引きずるように病棟の方へと連れて行った。
子供たちの仮装は純粋にかわいい。おばけだろうが魔女だろうがかぼちゃだろうがかわいい。
小さな子は「とりっくおあとりーと!」なんてたどたどしくも嬉しそうに言ってくるし、中高生になると特に男子は恥ずかしそうに俯きがちなりながらもきちんと参加してくれる。
それはそれは微笑ましい。
「せんせぇかっこいい!!!!」
かずくんに至っては目をきらきらして見上げてくるものだから、思わず抱き上げてしまった。
振り落とさない程度にぐるぐる回ってやると楽しそうにきゃっきゃと声をあげる。
そうこうしてお菓子を配り回って、一時間くらいのイベントを終えた。
まっすぐ院内の自室に戻って椅子に座る。
ぎぃと音を立てた背もたれに全身で寄りかかると、ちょうど部屋をノックする音がした。
「…どうぞ」
返事をするや否や開かれる扉。
この速さはないこだ、顔を見なくても分かる。
「間に合わなかったなー。行ったらもう終わってたわ」
小児病棟に顔を出したのに、俺がいなかったからわざわざこちらまで出向いたらしい。
…ひまか、暇なのか今日の外科医は。
嫌がる人間のコスプレなんてわざわざ見に来るものでもないだろ。
「かっこいいじゃんまろ。ヴァンパイアかぁ」
いや、俺が嫌がってるのを知ってるからないこはおもしろがるのか。
…本当に悪趣味な奴だ。
そう思ったけれど、ないこは俺のすぐそばまで来てからふっと笑みを消した。
手を伸ばしてきたかと思うと、座ったままの俺の両頬をがしっと乱暴に掴む。
「メイクしてる」
「…え?あぁ」
「自分でやるわけ…ないよな。りうら?」
「いや、うちの看護師」
至近距離でこちらを覗き込むないこ。
もうずっと長いこと一緒にいるのに、この顔にこの距離で見つめられるのは未だに慣れない。
最高に好みの顔にじぃっと見据えられて、俺は思わず目線を泳がせた。
「はぁ?聞いてないんですけど」
「俺やって、メイクまでされるって直前まで知らんかったもん」
これは不可抗力だ。あの流れでは変に拒否することもできなかったし、どうしようもなかった。
拗ねながらもそれが分かっているから、ないこは「…ふーん、あっそ」と唇を歪めただけでそれ以上責め立ててくることはなかった。
ただ、椅子に座った俺の上に遠慮なく乗っかってくる。
白衣の裾が開いた。
「牙は?牙もその女がつけたん?」
「え?いや、これは言われた通りに自分でつけたけど」
『その女』て…。彼女の方は別に他意もなくただ仕事のイベントごととして協力しただけなのに、その言われようはさすがに気の毒だ。
だけどそれがないこらしいから眉を下げて苦笑を浮かべてしまう。
「あぁそう。さすがにメイクの一環とはいえ、口に触れたなんて聞いたら発狂しそうだわ」
言いながらないこは、俺の膝に乗ったまま指先で唇をなぞってきた。
イミテーションの牙も一撫でする。
「キスするのに邪魔そー」
ふふ、と笑ってそっと自分の唇を重ねてくる。
啄むようなキスを角度を変えて何度も繰り返しているうちに、ないこの手が俺の首に回された。
機嫌が直ったのかそもそも最初からそれほど拗ねていなかったのか、甘えるように縋る手が愛おしくて仕方ない。
薄く開いた唇の隙間から舌を差し入れると、息遣いが少しだけ荒くなるのが分かる。
ないこの腰に回した手に力をこめて、さらに強く抱き寄せた。
長い長いキスの後、唇を離した時ないこが「そうだ」と小さく呟く。
額と額をくっつけたまま待つと、にやっと笑った。
…ろくでもないことを思いついたときのないこの笑い方だ。
「せっかくコスプレしてんだから、今しかできないことしよ」
「……なにそれ」
怪訝な顔をした俺に、ないこはもう一度笑う。
そうかと思うと、ワイシャツのボタンを上から二番目まではずし始めた。
そうして緩んだシャツを、ぐいと肩の方へとずり下ろす。
「ここ、噛んでよ」
露わになった鎖骨と首筋の辺りを指して、笑うないこ。
ヴァンパイアらしく血を吸うフリでもしろってことか。
その意図を読み取っては、「はぁ」とため息が漏れる。
「だめ。ニセモノって言うてもこの牙わりと硬いからないこの肌に傷がつきそう」
「えーちょっとくらいいいじゃん。今だけ!ちょこっとだけ!」
「だめ」
普段は割とないこを受け入れる態勢でいる俺だけれど、この言い分…今だけは許容できない。
だけどおもしろいことや珍しいことが大好きなないこは納得しないようだ。
「牙の噛み跡、おもろそうなのに」
とんでもないこと言う奴やな、ほんまに。
幼い頃から一緒にいるのにこういうところは未だに突拍子もないと思ってしまう。
だけど昔から一緒だからこそ知っていることもある。ないこは意外とストレートな反撃には弱い。
「家帰ったら、牙の噛み跡よりもいいもんつけたるから」
にやりと笑って言い返した俺に、ないこは一瞬意味が分からなかったのか目をぱちぱちと瞬きさせた。
それからその意図を理解したらしく、「っばーか!」なんて、子供みたいな語彙力皆無の悪態をついてきたものだから思わず笑ってしまった。
コメント
2件
わわっ久しぶりにこの連載の続き出てる!! 忙しい中本当にありがとうございます🙇 この作品好きでよく読み直してます、本当にありがとうございました!!
別サイトで見た時からもう悶えが止まりませんでした...、!!✨✨ 大好きな医者パロとハロウィンなんて最高すぎます...!!ෆ 子供っぽい要素のはずなのに大人チックになるのが不思議です...😖🎶 でも最終的には青さんが上手なの解釈一致です、!!🥹🫶🏻️💓 投稿ありがとうございます...、!ここでも見れて幸せです...ෆ