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僕らの詩 ~Our Lifetime~

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僕らの詩 ~Our Lifetime~

12 - 冬の約束

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2022年09月19日

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「……大我…」

呼び捨てにするのを一瞬ためらったが、一緒に花火を見に出かけた仲だ。

樹は、部屋のベッドに寝かされた大我の手を握っていた。冷たいようでほんのり温かい、不思議な温度だった。

大我は昨夜ビーチにいたのを見つけられ、戻ってきた。いくら瀬戸内とはいえ、11月も下旬になると冷え込む。それなのになぜ海に出ていたのか、そして下半身を水に浸けていたのかは分からない。

きっと海が好きだったんだ、と解釈した。

「ありがとね、大我。短かったけど、楽しかった。俺もすぐそっち行くから待ってて」

その言葉を聞いて、そばに立っていた若いスタッフが顔を手で覆った。最近見るようになったから、新人さんだろう。

「昔のこと、思い出せて良かったな」

花火を見たあの夜のことを、憶えていた。確かに彼は、過去を語っていた。

そっと、大我の頬を撫でてみる。白かった肌は血の気が引き、さらに透明感が増した。その美しい寝姿に、「眠れる森の美女」みたいだな、と場違いなことを思った。

もう一度強く手を握り、別れを告げた。

「じゃあな」




「よっ」

部屋に入り、まるで地元の友達のようなテンションで声を掛けた樹。掛けられた慎太郎は、ふふ、と笑った。隣にいる北斗は察した。

「ごめん、眠かったか」

布団に入っていた慎太郎を見て、樹は微笑する。

「ううん。ちょっと誰かと話したいなーって思ってたから、嬉しいよ」

「ほんと?」

慎太郎は首を縦に振る。

「さっきね、マスターにアロマセラピーしてもらってたんだ。それで寝ちゃって、起きたら誰もいなかったから寂しくて」

2人はベッドサイドに腰掛ける。

「動けなくなってきたんでしょ?」

北斗が、声は柔らかくオブラートに、言葉は同じ当事者だからこそはっきりと言った。

「…うん。でもまだ食べれるし、喋れる。俺お喋り好きだから、話せなくなったら嫌だな」

北斗は、父のことを思い出した。

最期は意識がもうろうとしていて、意思疎通はできなくなっていた。でもそれは強い鎮静剤を入れていたからだ。自分たちは何も薬を服用していない。

「大丈夫だよ。俺らがいる」

あまりにも頼りなさすぎる励ましだとは思いつつも、北斗は言う。樹もうなずいた。

「どうせ行ってもさ、すぐ会えるよ」

「そうだといいね」

「でもみんなだんだんいなくなっちゃって…。怖いんだよね、ちょっと」

北斗は足元を見つめ、ぽつりと言う。

「確かに。次は誰かな、なんて」

屈託のない笑顔で慎太郎が返す。

「まあみんな同じくらいのタイミングっしょ」

樹も笑って明るく飛ばした。北斗もニコリとする。

「じゃあさ、約束しよう」

慎太郎が口を開く。首を傾げ、次の言葉を待つ。

「もし、この中の誰かが最後に旅立つとき、6人のことを思い出そう。そしたら、空の上でもきっと会える」

「最後じゃなくてもいいじゃん」

「そうだよ。みんな思い出そう。最後の人じゃなくて」

2人は口をそろえた。

「そっか。そうだよね」

優しい笑みが、3人を包んだ。

「なんか俺眠くなってきたな…。ちょっと寝ていい?」

「うん。じゃあ帰るね」

「おやすみなさい」

2人が出ようとするとき、樹が振り向く。北斗もつられて首を動かした。

その瞬間、目を閉じていた慎太郎の口元に儚げな笑みが見えた。

樹と北斗は顔を見合わせ、口角を上げた。

そのまま慎太郎が永久の眠りについたことは、彼らはまだ知らない。


続く

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コメント

1

ユーザー

最初からずっと読ませて頂いてます。一人、また一人と旅立つたび胸が締め付けられて悲しくなります。死ネタはどちらかと言えば苦手なんですが、このお話は最後まで読みたいと思いました。

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