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僕らの詩 ~Our Lifetime~

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僕らの詩 ~Our Lifetime~

13 - あなたとともに

♥

186

2022年09月25日

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朝目覚めると、樹はカーテンを開ける。

ベッドから起き上がるほんの短い動作でもかなり気合を入れないと立ち上がれなくなったし、歩くのもたどたどしい。

でも眩しい朝日を全身に浴びると、身体の底から力が湧いてくる。

生きよう、お粥を食べよう、明日も美しい太陽に出会おう。

そう思うと、気持ちが清々しくなってくるのだ。


最近は食事を部屋に運んできてもらっている。

ほかほかの湯気が立つお粥を見ていると、形容しがたい幸せが込み上げてくる。

以前は食事にほとんど興味がなかったのに、毎日の三食が楽しみになったのは、ほかでもなくここのご飯のおかげだ。特に樹は朝のお粥が楽しみになっていた。

ゆっくりではあるがひと口ひとくち食べ進め、お皿を下げてもらう。

柔らかなベッドに身体を預けて眠ろうとしたとき、ドアが開く気配がした。

「北斗」

「来ても良かった?」

もちろん、と笑う。

「昨日…慎太郎と話せてよかったね」

「そうだね。俺らとかジェシーとか高地、大我のこと思い出してくれたかな」

北斗はただ笑ってうなずく。

ちょうど雲の切れ間から陽の光が差し込み、にわかに室内が明るくなる。

「…ねえ、知ってる?」

樹が北斗を見上げて言う。

北斗は首を傾げた。

「ここの名前の意味。「シエル」って、フランス語で「空」っていう意味なんだって」

「そうなんだ」

北斗は軽く目を見張る。

「マスターに教えてもらった。だから、空に旅立った人に届くようにその夜はランタンを灯すらしい」

「へえ。さすがに飛ばしたらどっか行っちゃうもんね」

「そうだね」

「でも、海が醍醐味みたいなのにどうして空なんだろう」

「あ…そこまでは聞いてないや」

樹も考え込む。

「…海と空は繋がってる、みたいな」

「おお、そういう気もするね」

北斗は優しくほほ笑んだ。

「俺も北斗と繋がれてよかった」

樹が窓の外の世界を見ながら言う。

「ほんとはこの年齢でホスピスになんか入りたくなかったけど、もし病気にならなかったら入らなかったわけだし、北斗にも会えなかったから…案外良かったのかもしれないって思ってる」

「…俺も」

樹は意外そうに北斗を見やる。

「どっちかが来なくても一緒にいれなかった。最後にこんな仲良くできる人がいて嬉しいよ」

思わず照れ笑いをこぼした。

「ありがとう」

「それは俺の台詞だろ」

部屋には2人の笑声が響いた。

が、

「…ケホッ、ケホ…」

樹が笑ったはずみでむせてしまった。

「大丈夫?」

胸をさすりながらうなずく。

「辛かったね、俺戻るわ」

と腰を浮かしかけた北斗の服の裾を、くいっと引っ張る。驚いた北斗は振り返る。

「ん?」

「…もうちょっと、一緒にいて」

「わかった」

再びベッドのふちに座る。

「寝てもいいよ。俺しばらくいるから」

と言うと、安心したようにまぶたを閉じた。

「あったかくて晴れてるし、気持ちいいね。海も心地いいだろうなぁ」

樹も聞き耳を立てているだろうと思い、言葉を紡ぐ。

「俺、瀬戸内大好きなんだよね。仕事をするから上京したけど、ずっと故郷が恋しかった。だからいいタイミングだったなって思って。樹も気に入ってくれたらいいな」

そっと振り返ると、常と変わらぬ穏やかな寝顔。

「樹? 寝た?」

ほんの少し怖くなって、口に手を当てる。

何も感じない。

「そうか…。もう行くか」

ちょっとごめんね、と言って胸元に触れた。

ゆっくりと拍を打っていた。ゆっくり、ゆっくりと。そのペースは落ちていく。

でも不思議と受け入れられた。

「すごく楽しかったよ。出会えてよかった。友達になってくれて…」

胸に手を添えたまま、閉じられた瞳に話しかける。

「ありがとう」

この5文字だけでも十分な気がした。

「あとでね」


続く

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